JALUXエアポート、コロナ禍からV字回復 椎名社長「空港で“記憶に残る体験”を届けたい」

JALグループの空港店舗を担うJALUXエアポートが、コロナ禍を乗り越え過去最高売上を達成した。改革を主導した椎名公明社長に、逆境からの成長戦略を聞いた。
◆特別な顧客体験をつくる
JALUXエアポートは、JALグループの一員として全国24空港・76店舗の運営を手がけている。同社の椎名公明社長は、「私たちはお客様と対面で接するJALグループの『顔』を担う存在。エンターテインメント性を重視した店舗づくりによって、現地でしか味わえない特別な体験を提供したい」と語る。
2021年4月の社長就任時はコロナ禍で旅客数が激減したことにより、売上高約66億円と従来の4分の1程度にまで落ち込み、22億円の営業赤字を抱える危機的な状況だった。そこで2021年度から2023年度までの事業構造改革計画を策定し、創業以来初の抜本的な組織改革に着手した。「このままでは会社が持たないと判断し、支店制を廃止して社長直轄体制に切り替えた」。
商品戦略から人事、販促に至るまでを本部が一元的に管理し、意思決定のスピードを上げた。これに併せて詳細なデータ分析に基づき「稼ぐ力」を強化した。商品の改廃を進め、買い回りの動線をふまえた商品陳列などに取り組んできた。
◆「JAL PLAZA」誕生、粗利率は1・5ポイント改善

店舗名称も変更した。従来の「BLUE SKY」から「JAL PLAZA」へ改め、JALグループを象徴する鶴丸マークをロゴに入れた。これらの取り組みが功を奏し、2024年度には過去最高の全社売上高247億円を達成。粗利率は1・5ポイント改善した。
同社はさらなる成長へ向け、4億円を投じ、2024年3月からセルフレジを順次導入している。これは一般的な省力化ではなく、現場スタッフの働きやすさとやりがいの向上を図り、定着率アップをめざすもの。
導入に際しては、繁閑の波がある空港店舗特有の事情をふまえ、対面・セミセルフ・フルセルフを瞬時に切り替えられる最新機種を選んだ。「単なるレジ係ではなく〝コンシェルジュ〟として、接客の質を上げる。土産を通じて思い出を持ち帰ってもらい、またお店に行きたいとお客様に感じていただく。この循環が地域とJAL双方の価値を高める」。2025年3月には10年ぶりに制服をリニューアルし、現場スタッフから好評だという。
◆成城石井、タリーズとFC店舗を展開

多角化の一環として、2025年3月には成城石井とのFC店舗を羽田空港第1ターミナルへ初出店した。「成城石井が進出していない地域から訪れた方に、その世界観を体験していただける場所になった」。旅行者だけでなく、空港従業員の利用も多い。
羽田空港では、タリーズコーヒーのFC店舗も拡大している。「もともと待合席のある空港とコーヒーは親和性が高い。JAL PLAZAとの相乗効果も見込める」。販売スタッフが両店舗を行き来できる体制にすることで、状況に応じた柔軟な店舗運営を可能にした。
椎名社長は、JALUXエアポートがめざす姿について、「CS(顧客満足)からCX(顧客体験)を掲げている。また行きたくなる、人に話したくなるような体験をつくることが、私たちの使命だ」と意気込む。
【プロフィール】(しいな・ともあき)1965年12月23日生まれ。1989年3月に成城大経済学部を卒業後、同年4月に日航商事(現JALUX)へ入社した。2008年7月空港企画開発部サポートチーム総括マネージャー、2010年4月空港リテール事業部商品チーム総括マネージャーに就任した。2011年4月JALUXエアポート西日本エリア支店長、2014年6月取締役西日本エリア支店長を経て2021年4月より現職。大学4年間は体育会「少林寺拳法部」に所属(中拳士三段)していた。趣味はバス釣りとスイーツ作り(従業員に差し入れることも)。
