伸長する日本茶輸出 強みは品質、産地表示や消費国の農薬基準クリアに課題も
〈日本茶業学会会長・農学博士 武田善行氏インタビュー〉
現在、日本では年間約7.8万tの茶が生産されている。その品種は国立研究機関、府県、民間合わせて119品種あり、このうち緑茶「さえみどり」や紅茶「べにふうき」など18品種の育種に携わってきた。
日本茶業学会会長・農学博士 武田善行氏インタビュー
日本における本格的な茶の品種改良は、農林省の指定試験として1932年に鹿児島で開始された。初期の多収、高品質に加えて耐病虫性、少肥適性(作りやすさ)と育種の目的は時代と共に変化してきた。育種を左右する遺伝資源は現在、枕崎茶業研究拠点に約6700種収蔵されている。最近では茶の主成分であるカフェインやタンニンの遺伝資源解析がほぼ終わり、カフェインレスの育種が進んでいる。従来にはない特色のある茶が、今後も生まれそうだ。
新たな品種が育成された場合に、権利保護の重要性が増してきた。昔に比べて海外との交流が盛んになり、日本から不法に持ち出された品種が海外で育成されるという思わぬ被害を未然に防ぐためだ。国内の種苗法に加え、国際的には「植物の新品種保護に関する国際条約(UPOVユポフ)」に加盟している国であれば品種保護を申請することができ、無事受理されれば、海外でも一定期間、権利が保護される。
〈中国で抹茶生産量が増加〉
近年、海外の茶生産国では、抹茶生産の強化に乗り出していることに注目したい。例えば世界の茶生産量約600万tのうち4割を占める中国では、抹茶だけでも日本の10倍以上生産している。現在、中国産の茶の多くは自国内消費に回っているが、今後は輸出が増える可能性もある。
実際、2018年10月には、貴州省銅仁市が“抹茶の都”として抹茶産業の発展を宣言した。この地域は少数民族が多い貧困地域で、「一帯一路」政策における南の拠点に位置する。
対して、抹茶を含め日本の茶生産量は年間約8万t。世界全体の2%にも満たず、今後も大幅な増加は見込めないことから、価格競争では歯が立たないだろう。したがって、従来通り品質面で差別化を図るべきだ。抹茶の品質を決めるのは香りと色で、これは品種につきる。日本の「あさひ」「さみどり」であれば、最高級品をつくることができる。
〈日本茶の共通マークを〉
国内では「地理的表示保護制度」(GI)の普及が進んでいるが、海外の人々からみると、静岡茶や鹿児島茶など地域単位のマークではスケールが小さい。日本茶の共通マークを作るべきだ。中国など海外産の緑茶の多くは釜炒り茶だが、日本の緑茶は煎茶が多い。この特徴を生かし、例えば「Japanese steamed tea」とすれば、訴求力がぐっと高まる。これが、EPAやTPPなどの貿易協定で認められるようになれば、経済効果も見込めるだろう。年間約50万tを生産するインドのアッサム地方でさえ、昨年以降、販売力強化のため「アッサムティー」のGIマークの取得に向け力を入れている。
〈さらなる輸出拡大へ〉
現状、日本茶の輸出で最も難しいのが農薬問題かもしれない。茶葉をBtoB向けに輸出する場合、茶葉を買い付ける国の農薬基準を満たしていても、その茶葉を使った製品を消費する国の基準に合わないというリスクがあるのだ。
この問題は、日本国内に国際的な茶の取引組織を設置することで解決するだろう。ここに上場する茶の栽培履歴と農薬情報を開示し、QRコードなどで確認できるようにすればバイヤーは自己の責任で安心して買うことができる。
しかも5kg、10kgという少量単位から購入することができれば、出品する日本の生産者にとってもリスクが少ない。
茶はその種類だけでみても一番茶や二番茶、碾茶(てんちゃ)、ほうじ茶などとバリエーションが多い。コーヒーとは違って国内に産地があり、それに根付いた文化も多くある。この強みをもっと生かすべきだ。
〈武田善行(たけだ・よしゆき)氏 プロフィール〉
農学博士、元野菜茶業研究所茶業研究官、東京教育大学農学研究科修士課程修了。日本茶業学会会長、日本茶鑑定士協会会長。1975年農林省に入省し、主に茶業試験場(現農業・食品産業技術総合研究機構・果樹茶業研究部門)において茶の品種改良に従事。茶の遺伝資源の特性調査とその分類、茶輪斑病の遺伝子と遺伝様式の解明、茶の育種への種間雑種の利用など育種に関連する研究を主に行ってきた。品種の育成では「さえみどり」(緑茶)、「べにふうき」(紅茶)など緑茶、紅茶、中間母本など18品種の育成に携わる。