無糖茶飲料、なぜ日本に浸透? 市場ほぼゼロから4450億円規模になるまで/伊藤園〈PR〉
では、いつから無糖飲料が活性化してきたのか。そのきっかけは1981年3月に全国発売された世界初の無糖茶飲料、伊藤園の「缶入りウーロン茶」の登場だ。1980年代の日本は高度経済成長を遂げた後で、健康を意識した食事や飲料が注目され始めた時期に重なっている。
「缶入りウーロン茶」は、小売店だけでなく居酒屋や飲食店でも人気となった。これを機に、夏場にお茶を冷やして飲むというスタイルが浸透した。“清涼飲料は甘いもの”という概念を覆し、新しい商品価値として無糖茶飲料市場が広がっていった。
ウーロン茶飲料は他社の参入もあり、ウイスキーをウーロン茶で割る“ウーロン茶割り”やダイエットブームにも乗ってヒット商品となり、ブームを確実なものにした。
〈屋外でも飲める缶入り緑茶を開発〉
1970年代後半は、コーヒーや炭酸飲料が人気となる一方、急須でいれるという手間のかかるお茶は、消費量が下がり、荒茶(※1)の生産量が減少し始めた。伊藤園は、“緑茶をいつでも、どこでも、自然のままのおいしさで味わっていただきたい”という狙いで、持ち運びのしやすい缶入り緑茶の開発に乗り出した。そして、1985年に世界初の缶入り緑茶「缶入り煎茶(せんちゃ)」を発売した。
(※1)荒茶=製品として販売する前の段階まで加工された半製品のお茶のこと。
開発に約10年の時間がかかったのは、緑茶を缶飲料にする際に微量の酸素が入ってしまい、色合いと香りを保つことが難しかったためという。緑茶は、空気や熱に弱く、酸素に触れると緑茶成分のカテキンが反応し、変色してしまう。すでに発売しているウーロン茶は、発酵した茶葉のため、酸化の影響による変色は少なかった。そこで、原材料の見直しとともに、缶の上部に窒素ガスを吹き付けて酸素を出す独自技術を開発し「缶入り煎茶」を実現した。
「缶入り煎茶」の発売以前の日本では、“急須に茶葉をいれて飲む”“外出先では、お茶はタダで飲めるもの”という価値観を持つ人が多く、お金を払ってまで飲用する文化はなかった。「缶入り煎茶」は、緑茶飲料市場という新しい市場を形成したターニングポイントとなった。だが、売れ行きは思わしくなく、“煎茶”の漢字が読めないという声も挙がった。
俳優・島田正吾さんが登場した「お〜いお茶」テレビCM
そこで、伊藤園は、若い消費者が親しめるようなわかりやすいネーミングを検討し、1989年に家庭的な雰囲気を意識した「お〜いお茶」の名称で発売した。この新ブランドを一躍有名にしたのは、昭和の日本家屋で着物姿の俳優の島田正吾さんが、「お〜いお茶」とやわらかい口調で呼びかけた伊藤園のリーフ製品のテレビCMだ。「お〜いお茶」ブランドを中心に、緑茶飲料は1990年以降に急拡大し、無糖茶飲料の主役になっていった。
〈ペットボトル入り緑茶飲料を展開、ニーズに合わせ革新を続ける〉
1990年に、同社は「ペットボトル入り緑茶飲料」(1.5L)を、世界で初めて製品化した。ペットボトルは、大容量で蓋の開閉もできるため、その使い勝手の良さからニーズが高まっていた。だが、緑茶には沈殿物があり、ペットボトルは中身が透けて見えるため、改良が必要だった。そこで、緑茶抽出液を微細にろ過しながら緑茶の香りやおいしさを残したまま透き通った液色にする、特殊なフィルターを使った製法を開発した。この技術は現在も同社の緑茶飲料に使われているという。
「お〜いお茶」の変遷
そして、1996年11月には500mlのペットボトルに入った「お〜いお茶 緑茶」を発売した。技術的な課題はクリアしたものの、缶容器が全盛の時代において、生産量の多い小容量商品でペットボトルに挑戦するのは異例であり、当時は輸入品しかなかった。
だが、同商品の発売以降、飲料市場での主要容器は缶からペットボトルへ移行し、フタができて持ち運びしやすいという利便性から飲用シーンが広がっていった。家庭で冷蔵庫に入れたお茶を飲むのが定着し、仕事場や外出先でもこまめに水分補給ができるようになった。
2000年には、業界に先駆けて「ホット対応ペットボトル入り緑茶」を発売。競合他社もペットボトル入り緑茶の開発に注力する中、付加価値の高い新商品を提案した格好だ。単にペットボトルを温めると、緑茶の色や香りを損なう「酸素」などの透過性が高まり、酸素を容易に通してしまう。また、缶飲料は、熱くて、手で持ちにくい課題もあった。同社は従来の原料茶葉の加工や抽出温度、時間などを見直すとともに、酸素の進入をブロックする素材などを活用して「ホット対応」の開発に成功した。
同年には、飲料各社の競争が激しくなり、緑茶飲料市場は前年比52%増で、無糖茶飲料が飲料市場の20%のシェアを占めるまでに拡大した。そして、2001年には、緑茶飲料がウーロン茶飲料を抜き、生産量でナンバーワンとなった。
2016年には、冷めたペットボトルのお茶を温めなおして飲めるように、電子レンジの加温対応した製品を発売した。温かくても、冷めても、常温でも、つくりたての味わいが楽しめる「お〜いお茶」へと進化させている。
〈2年連続で販売実績世界一、ギネス記録に認定〉
「お〜いお茶」ブランドは、2017年に累計販売本数が300億本を突破し、2019年5月には緑茶飲料の販売実績世界一としてギネス世界記録に認定され(※2)、2020年も同記録名において販売実績2年連続世界一として認定されている。
(※2)ギネス世界記録に認定=記録名:「最大のナチュラルヘルシーRTD緑茶飲料(最新年間売り上げ)」 、対象年度:2019年1月〜12月、認定数値:$1,882,900,000(推定)
緑茶飲料市場(国内)は、健康意識の高まりに加えて訪日外国人の増加も寄与し、2019年度は4450億円規模となった。飲料各社はコロナ禍であっても、緑茶飲料は健康志向から成長を続けると見込んでおり、人々の新しい日常を支える商品として今後も注目されそうだ。
また、世界で肥満に該当する「過体重」の人数は約7億1200万人といわれ、世界人口の約10%にあたる。そして、有糖飲料に課される砂糖税の導入国は22カ国となるなど、健康は世界的なトレンドだ。今後は世界でも無糖やカロリーオフの飲料が増えることが予想される。
伊藤園は、「世界のティーカンパニー」をスローガンに掲げ、北米やアジアなど世界30カ国以上で「お〜いお茶」の飲料製品を展開しているほか、茶葉製品も合わせてユーザーを拡大している。緑茶を通じて日本文化の発信や、世界の人々の健康に貢献していく考えだ。
和服姿の伊藤園社員が訪日外国人に抹茶を紹介
〈茶畑からおいしさを育てる「茶産地育成事業」を拡大〉
国内外で緑茶飲料やリーフ製品の販売がトップとなった伊藤園は、これから何に注力していくのか。答えのひとつが農業だ。「お〜いお茶」が使用している茶葉は国産100%だが、“「お〜いお茶」専用の茶園”で栽培し、缶やペットボトルのお茶に最適な茶葉を使用していることはあまり知られていない。同社の「茶産地育成事業」は、面積2172ヘクタール、生産量8068トン(2020年計画)となり、拡大を続けている。
茶畑でトラクターが活躍
緑茶飲料の課題は、市場規模が20年前と比較して約4倍に拡大する中で、需給関係のギャップが生じていることだ。茶産地の農家も茶葉原料の生産量も減少し、茶園面積は35年間で約28%減少している(2015年時点)。また、就農者の高齢化や後継者問題により、日本には約42万ヘクタールの耕作放棄地があり(2015年時点)、その面積は広がっている。
伊藤園は、日本の緑茶(荒茶)生産量8万2000トンのうち25%を取り扱っており、日本一のお茶屋だが、持続的な成長に向けては、原料茶葉の安定確保と品質の維持向上、そして茶農家の課題解決を重視している。取り組みのひとつとして「茶産地育成事業」に注力する。
「茶産地育成事業」は、伊藤園社員が茶産地の人々とともに茶葉の品質向上に取り組む「契約栽培」と、耕作放棄地などを活用して自治体や地元企業などと協力して大規模茶園を造成し、畑づくりから行う「新産地事業」の2つから構成されている。徹底した機械化で生産性の高い農業を実現することがねらいである。
新産地事業によって生産された茶葉も、伊藤園が全量を買い取る。その結果、安定的で持続可能な農業経営が実現できることが生産者にとってのメリットだ。現在、九州5県7地区で展開しており、今年から静岡県にも拡大する予定だ。
地域において、伊藤園の「茶産地育成事業」は、耕作放棄地対策になるほか、環境保全型農業の推進、後継者育成など、雇用の創出につながっており、各地の自治体から注目を集めている。
また、伊藤園にとっては、原料調達コストの低減、高品質茶葉の安定的な確保などが期待できる。「お〜いお茶 緑茶」は、食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証であるGAP認証茶葉100%を目指しており、その実現にも貢献する活動だ。
〈日本茶文化を未来へつなぐ〉
日本茶文化を若い世代に伝えていくことも、市場を牽引する企業としての使命だろう。伊藤園には、「ティーテイスター」という社内資格制度(厚生労働省認定)がある。社員がお茶の知識と技能を磨く制度だ。資格には1級から3級まであり、2289名の有資格者がいる(2019年度)。全国のさまざまな場所でお茶の歴史、健康性といった知識や、“おいしいお茶のいれ方”を実演し、お茶の文化の普及を進めている。
男性社員がプレミアムティーバッグを紹介
コロナ禍の5〜6月には、お茶のスペシャリストとして「ティーテイスター」が、“IeTimeOEN(家タイム応援)プロジェクト”を公式ツイッターで展開した。お茶のいれ方から素朴な疑問まで、お茶に関することならなんでも相談でき、日常生活の中にお茶を取り入れる提案を行うサイトとなっている。お茶に関する情報が豊富でスペシャリストと交流できることから、同プロジェクトは急須でお茶をいれたことのない人にも幅広く支持され、22万人以上のフォロワーを集めるなど反響の大きい取り組みとなった。
ティーテイスターの方々のZOOM写真
加えて、インスタグラムには、「OchaSURU?(お茶する?)」というアカウントを立ち上げた。同アカウント内では人気モデルを起用した番組を通じて、ファッショナブルにお茶を楽しむ姿を訴求している。“IeTimeOEN(家タイム応援)プロジェクト”が比較的日常的にお茶に触れている人々に向けたものであるのに対し、こちらは普段あまりお茶に関心がない人々、特に10〜20代に向けた取り組みとなっており、将来的な裾野を広げるねらいがある。日本茶のユーザー拡大に向けて、今後もデジタルを駆使した活動を行いながら、日本茶文化の魅力や価値を、若年層も含めて浸透させ、お茶ファンを増やしていく考えだ。