“サステナビリティは事業そのもの”、関心高まり競争優位のビジネス戦略に〈サステナビリティの取り組み〉

飲料各社の取り組みイメージ
新型コロナウイルス感染症が世界中に拡大した2020年以降、持続可能な社会(サステナブル社会)を目指す動きが強まっている。共通目標である羅針盤の国連SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、民間企業の取り組みに注目が集まる。事業活動の一環として取り組む投資・イノベーションで、社会課題を解決することが期待されているためだ。

食品業界でもサステナブルな活動が目立ってきた。プラスチックごみの課題解決に向けては、プラスチック容器を紙容器に変更する商品が増えたほか、飲料メーカーではペットボトルの水平リサイクルが拡大している。

そして現在は、持続可能な社会の実現に向けて、環境問題だけにとどまらず取り組み範囲が広がり、食品ロス削減や多様性の尊重なども進んでいる。また、人々の健康的な生活に資する食品の開発も進んでいる。食品は日常生活に身近なため、生活者のライフスタイルにも大きく影響する。コロナ禍の変化では、家庭内食や健康への意識がより高まった。今後はサステナビリティが競争優位のビジネス戦略のひとつになるだろう。

サステナビリティやSDGsへの生活者の意識がコロナ禍で急速に進んでいるようだ。電通が行った第4回「SDGsに関する生活者調査」(電通Team SDGs)によれば、SDGsの認知率は2021年1月時点で54.2%となり、2020年1月時点の29.1%からほぼ倍増した。また、年代別では10代が最も高く、SDGs認知率は7割超になったという(10〜70代の男女1400人を対象)。さらに、「コロナ禍を経てSDGsへの関心が高まった」人は32.4%で、SDGs商品・サービスの利用意向も高いことがわかったとしている。

SDGs認知率(時系列) 調査;電通マクロミルインサイト、第1回(2018年)、第2回(2019年)、第3回(2020年)、第4回(2021年)

SDGs認知率(時系列) 調査;電通Team SDGs、第1回(2018年)、第2回(2019年)、第3回(2020年)、第4回(2021年)

SDGs認知率(性年代別・前回調査比較)

SDGs認知率(性年代別・前回調査比較)

 
SDGsへの関心が高まる中、食品業界の活動も活発化している。多くの企業が「個人・家族」「地域社会・コミュニティ」「地球環境」という3つの重点領域を定め、事業活動を通じてそれぞれの領域で社会課題の解決を図っている。
 
サステナブルな活動として、清涼飲料業界では、これまでも容器のプラスチック減量化などに取り組んできたが、ここにきて使用済みペットボトルを新たなペットボトルへ生まれ変わらせる「ボトルtoボトル」リサイクルを推進する企業が増えた。コストは増加するが、循環型社会へ貢献と生活者の理解を図る取り組みだ。また、アサヒ飲料が率先して取り組んできたラベルレス飲料も市場に浸透してきた。お菓子や他の食品もプラスチックを削減して紙製にするなどの動きが出ており、この流れは続きそうだ。
 
持続可能な社会の実現に向け、現在は環境問題だけでなく取り組み範囲が広がっている。コカ・コーラシステムは、「多様性の尊重」への取り組みの一環として、2021年5月から同性パートナー(戸籍上の性別が同じパートナー)にも対応した福利厚生および就業規則の整備を完了した。ネスレ日本は、納品期限超過のキットカット・ネスカフェ商品などを販売する、業界初の無人販売機「食品ロス削減ボックス」の設置を同年6月から始めている。
 
また、調達・製造・販売・消費を示す、いわゆるサプライチェーンの中でも、食品業界では特に重要とされる農業も改めて注目されている。伊藤園は、日本のお茶農家を支援し、安定的な調達を目指す「茶産地育成事業」を50年近く取り組んでいるが、その活動範囲は現在も広げている。キリンは、2007年からスリランカの紅茶農園を支援し、持続可能な農業の取り組みを本格化しているが、2021年8月には、「午後の紅茶」でスリランカ産のレインフォレスト・アライアンス認証茶葉を使った初の商品を発売し、生活者の目に見える活動に進化させた。
 
〈健康・環境面で食品企業の活動進む〉
健康への貢献においては、食品企業の本業でもあり、各社が積極的に取り組んでいる。特定保健用食品や機能性表示食品のほか、カロリーを抑えた製品の拡充が進むとともに、手軽で食べやすく、栄養バランスがよい食品の提案も目立っている。
 
一方、啓発活動では、大塚製薬の熱中症対策の取り組みが進んでいる。熱中症という言葉がまだ浸透していない1990年代から、さまざまな機関と協働し、スポーツの場や学校、工場など、熱中症が起こりやすい現場で水分補給の重要性などを伝え続けている。
 
今後、注目されるのは、政府が目指す「カーボンニュートラル」、食品業界においても具体的な動きが加速する二酸化炭素を中心とした温室効果ガス削減の取り組みだろう。サントリーは、2022年までに日本・米州・欧州の自社生産研究拠点の電力を、100%再生可能エネルギーに切り替えることを発表した。他社も温室効果ガス削減に向けた取り組みを強化しており、この動きはさらに大きくなりそうだ。
 
〈環境への取り組み、生活者の見える場所で展開〉
2021年は、コカ・コーラシステムやサントリー食品など、製品パッケージで積極的なリサイクルを呼びかける取り組みが出てきた。アサヒ飲料は環境配慮素材を使用していることが一目でわかる環境ロゴを導入。市場には、ラベルレス飲料も含め、視覚でも環境に優しいことがわかる製品が増えている。空き容器の回収ボックスの小売店への設置も、キリンやネスレなどがチャレンジしており、生活者の目に見える場所での活動が目立ち始めた。
 
〈食品産業新聞 2021年11月4日付より〉