くら寿司“水産専門会社”設立の狙いは?KURAおさかなファーム「スマート養殖」
新会社の事業内容は、〈1〉高付加価値魚の「自社養殖」、〈2〉AIを活用した「委託養殖」、〈3〉くら寿司や全国のスーパーへの「卸売」。
設立の背景には、2020年12月1日施行の改正漁業法がある。水産業の活性化をめざし、養殖への企業参入の促進や水産資源管理の強化を図るため、約70年ぶりに大改正したもの。
養殖を含む日本の漁獲量は、ピークとなった1984年の1282万トンから、2018年は442万トンまで減少。一方、世界で見ると1960年代以降、魚介類の消費量は年間約3%の伸びで増加し、漁獲量も日本とは対照的に、右肩上がりに増えている。
こうした海外の需要増で、国際市場における水産物の価格は高騰。日本の業者が同水準の価格を出せず購入できない“買い負け”も増えている。安定した価格と量の供給を実現するためにも、国内の水産業活性化は喫緊の課題となっている。
くら寿司の新会社に話を戻すと、設立の目的には「水産業の活性化」と、価格高騰に左右されない「安定した仕入れ」があるという。
〈「委託養殖」はスマート給餌機と稚魚を提供〉
KURAおさかなファームの「委託養殖」事業では、水産業の深刻な人手不足や労働環境の厳しさを、テクノロジーの活用で緩和することをめざす“スマート養殖”を掲げる。くら寿司ではこれまでも委託養殖を行ってきたが、大きく異なるのは、生産者にAIを活用した「スマート給餌機」と稚魚を提供する点だ。AIを活用したエサやりで、労働の負担やエサの使用量の削減が期待できるという。稚魚は、KURAおさかなファームで用意するため、赤潮などで養殖魚が全滅した際の生産者のリスクも軽減できる。
スマート給餌機「UMITRON CELL(ウミトロン セル)」は、水産養殖事業者向けに、データプラットフォームサービスを開発・提供するウミトロンとの協業によって、同社が開発したAIやIoT技術を活用。スマートフォンのアプリで、どこにいてもエサのタイミングや量を設定できる。最大で3日分のエサを貯蓄できるため、養殖事業で最も手間がかかり、大変だといわれるエサやりの負担を大幅に削減できるという。
スマート給餌機で投入したエサを食べる様子(撮影は水中カメラ)
これまでもタイマー制で自動的にエサやりをする給餌機はあったが、「ウミトロン セル」では、魚の食いつきを判断し、あまり食べないときはエサの量を少なくし、たくさん食べるときは多く与えるため、効率的なエサやりができるという。必要な分だけを的確なタイミングで投入するため、成育スピードを早めることや、エサのロス削減が期待できる。食べられずに無駄になってしまうエサが減ることで、生産者のコスト削減や海を汚さないことにもつながる。
KURAおさかなファームでは、委託養殖の地に愛媛・宇和島を選んだ。選定理由は、養殖が盛んな地であり、くら寿司で以前からフルーティフィッシュ(果実を配合したエサで育てた魚)などの取り組みで付き合いがあったからだという。
委託養殖地の愛媛・宇和島
KURAおさかなファームが、鯛の魚種で養殖をすでに委託している、中田水産(愛媛県・宇和島)の中田力夫代表取締役は、「(養殖業では)餌代がやっぱり一番かかっていて、大体7割近くを占める」「(スマート給餌機は)無駄なく餌を落としているので、自分たちがエサやりをやるより、1割近く(エサのコスト)を無駄にしていないんじゃないかと思います」と話す。
「すごく労働は楽になりましたね。これが全養殖いかだについたら、もう今の倍か、3倍くらい飼えるんじゃないかと思うくらい」
「今は試験段階ですが、徐々に増やして経営が安定していけたら、(漁業が)楽で魅力のある商売にどんどん変わっていって、うちで言ったら経営に息子が帰ってきてくれたり、若い人が戻ってきて、後継者不足も解消できるんじゃないかと思います」と期待をのぞかせる。
〈「自社養殖」では付加価値商品を生産〉
一方、「自社養殖」事業では、国際的基準を満たしたオーガニック水産物として、日本で初めて認証取得した「オーガニックはまち」の生産を、和歌山県で進めている。紀州日高漁業協同組合の準組合員となり、漁業権を取得。くら寿司の店舗では12月に、2貫200円での発売を想定。また、くら寿司初の卸売として、一部スーパーでの販売も順次行う予定だ。海外輸出も視野に入れ、他魚種の生産も検討しているという。
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「オーガニックはまち」店舗提供・卸売販売イメージ
「卸売」事業では、自社養殖の「オーガニックはまち」や委託養殖の魚を販売。将来的には全国の漁協と提携し、天然魚の販路開拓支援も計画している。
くら寿司株式会社・営業本部マネージャーの清水雅彦氏は、新会社が目指すものとして、「AIを駆使したスマート給餌器を活用することで、労働環境の改善や効率化、中長期契約による生産者様の収入の安定化に貢献したい。このような水産ビジネスモデルを示すことで、新たな新規雇用を創出し、漁業創生につなげていきたいと思っております」とコメントした。