〈インタビュー〉三菱食品・佐藤達也フードサービス本部長 FS本部初年度は売上29%増、矛盾解決力で「役に立つ」「頼れる」卸に進化
全社の業務用商品の売上高は前年比18%増、フードサービス(FS)本部単体では29%増となった。同本部発足1年目としては上々のスタートを切った。
分野別では食材、酒類とも前年を大幅にクリアした。特に業務用酒販店向け酒類売上の伸長が顕著だった。
一方で、昨年6月に施行された改正酒税法の影響や今春のビール類の値上げなど、現場における業務の負担は重く、業務用酒販店と飲食企業との交渉は現在も継続的に続いていると聞いており、マーケットへの影響を懸念している。
昨年4月の組織再編では大手外食ユーザー向けの直販事業と業務用食材卸・業務用酒販店向けの卸事業を統合した。
また、今年4月に事業の再編を行った。100%子会社の業務用酒販店「都貿易」へ当社のリクエ事業を分割、吸収させ、社名を「クロコ」に変更した。社名は「クロスオーバーコーポレーション」の略称である。同社を酒類、食材の総合卸化し、顧客であるシティーホテル・中小飲食店の利便性向上を図ることが狙いで、完全に営業が主体の会社となる。商品在庫、物流運用、決済機能、基幹システムなどのバックオフィス機能は継続して当社が保有する。これは11年に開始した「オープンストックシステム(OSS)」の考え方にのっとったもので当社における5社目の特約企業が誕生したとも言える。OSSは業務用卸が特約企業として参画し、リクエ事業の在庫・サービス全般を利用できる取組となっている。当社はあくまで受発注、売掛金の回収、営業支援などそれぞれのシステムや運用を提供するポジション。業務用卸の皆さんから見れば「役に立つ」「頼れる」一次卸に進化していきたいと考えている。
――事業領域での特徴、強みは
リクエ事業等、新規事業開発が注目されるが、当社の強みの1つに全国展開する大手外食事業者との全国一括物流、一括商流に関する仕組み構築が挙げられる。
大手外食事業者の多くはM&Aなどで多業態化、店舗展開スピードの高速化が著しい。その中で柔軟性と拡張性を併せ持つロジスティクスを作り上げる事は容易ではない。
メニュー、商品の入れ替え情報をメーカー様の倉庫も含めた倉庫内の「在庫」とシンクロさせる業務は営業スタッフと物流オペレーターの連携によって支えられており、まさにこの分野が卸の出番だ。外食事業者、物流事業者、メーカー様のかすがいになっていると考えている。
一方、大手外食事業者向けの商流面では、昨年度初めて売上げの3割以上がPB、留型など当社コーディネートの顧客専用商品となった。顧客の要望が多岐に渡る中、協力頂けるメーカー様を見つけ出し、国内外の工場に出向き、顧客の要望に沿った商品作りを支援する取組だ。
当社コーディネートの範囲は▽全国各地からの商品・原料の発掘▽「味」の向上に関するリクエスト対応▽作業性向上のための規格変更――など多岐にわたる。外食事業者とメーカー様を繋ぐ中間結節機能は当社の強みとして一定の評価を頂けていると考えている。
〈今秋千葉・舞浜にリクエ対応で最新設備の第二物流センター開所〉
――現在の重点取組課題は
昨年も申し上げたが、業務用食材卸、業務用酒販店の皆様への機能提案が最重要取組課題である。業務用卸は日本の外食・給食産業を支える重要なポジションにある一方で、対象顧客の規模が小さく、業容拡大のためには顧客数が多くなる。顧客数の多さは取り扱い商品の多さと密接な関係にあり、各顧客のニーズへの対応は在庫の問題に直結している。ビジネス上必要な情報のやりとりについても膨大な時間がかかっている。
外食産業全体の課題はシステム化の遅れが顕著であり、受発注関係のアナログ対応は顧客数の多さと重なり業界全体の課題となっている。
営業スタッフ一人当たり、配送ドライバー一人当たり、一顧客当たり、一商品当たりといった「生産性」を上げていくにはシステムの高度化と業務運用の見直しが不可欠である。「生産性」を上げながら顧客へのサービスを維持、向上させる「矛盾」解決力こそが、今、業務用卸経営に求められていると考えている。そのような意味でリクエ事業のユニークな「システム」と「運用」が近代的な業務用卸経営の一助になるのではないかと考え、お取組頂いている業務用卸の皆様には全て開示し、必要であれば個別提供する取組を開始している。すでに食材、酒類の大手卸の皆様へ機能提供が決まっており、更に広がりを見せるものと考えている。
一次卸として業界の課題をどのように解決していくか更に深く考えたい。受発注インフラなど非競争領域であれば、各社が協同してできることもたくさんあると考えている。また今秋には千葉県・舞浜に第二物流センターを開所予定だ。
リクエ事業が拡大局面にあり、配送ドライバー、庫内作業者の枯渇問題や、現場作業員に関する「働き方改革」への対応を進める必要がある。第一物流センターでは取り入れてない新たなマテハン導入等、倉庫内の運用システム面の充実、配送運用の見直しをするなど「成長の痛み」に対応する各種施策を打っていく。
この「成長の痛み」に関する対応力も今後、業務用卸の皆様へのノウハウ開示につなげていきたいと考えており、「システム開発」だけでなく「運用面」の改善力も継続して磨きこんでいきたい。
〈冷食日報 2018年6月7日付より〉
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