冷食市場、さらに拡大へ コンビニ・ドラッグストアで販売強化、無印良品の参入も
家庭用冷凍食品では昨年、販売チャネルの枝が太くなった。食品スーパーが最大の販売チャネルであることに変わりはないが、コンビニエンスストア(CVS)やドラッグストアの販売力は着実に強まっている。
良品生活が運営する無印良品でも独自開発した冷凍食品の販売を開始した。家庭での調理時間・機会の減少傾向を捉え、中食の延長として冷凍食品が選択されている。
業務用冷凍食品では調理現場の人手不足が深刻化し、中食、外食、給食の各業態において、現場ごとの調理方法や経時耐性、容量規格、価格帯――に合致する簡便食材が求められている。これらのあらゆるニーズに応えられるのが冷凍食品だ。
〈課題はコスト メーカー各社は業務用で値上げも、家庭用の値上げは限定的〉
需要の掘り起こしに無限の可能性がある一方で多様なニーズに応えるにはコストがかかる。
冷凍食品の工場でも自動化は包装や梱包を中心に進んでいるが、日本冷凍食品協会の会長として伊藤滋マルハニチロ社長は「冷凍食品は完全な装置産業ではなく、一部に労働集約的な工程が必要だ」という。自動化が実現できるのは2~3割との見方を示し、手間がかかっている部分の価値を認めてほしいと漏らす。
自動化を追求したテーブルマーク 魚沼水の郷第2工場(新潟)
昨年は原材料・包装資材の価格や人件費・物流費など各種コストアップへの対応が大きな課題となり、冷凍食品メーカーとしては、味の素冷凍食品が11月8日に、今年3月からの業務用冷凍食品の値上げを公表した。その後12月にかけて冷食大手各社はそろって業務用冷凍食品の値上げを公表している。
一方、家庭用の値上げは一部メーカーが公表しているが、限定的だ。価格志向の根強さから、市場への浸透が容易ではないという状況が背景にはある。
〈「商品価値を伝え切る」取り組みが必要〉
需要が拡大するなかで業界が健全な成長を果たすために、今年は第一に値上げの浸透が冷食企業のテーマとなる。そのためには商品価値を伝え切る取り組みに精力を注ぐ必要がある。これは家庭用でも業務用でも同じことだろう。
近年の冷食市場の拡大は、メーカー各社が得意分野に新技術を導入するなど技術の向上を図り、大手を中心にテレビCMなどプロモーションにも力を入れることで、消費者に冷凍食品のおいしさや便利さに気付かせたことが大きい。それだけ多くの人が冷食の価値に気付いていなかったということだろう。
販売チャネルも広がり、消費者との接点が増えている。モノだけではない情報伝達の手法は、今後さらに広がりが出そうだ。
商品開発の面では新カテゴリーの創出も大きなテーマだ。昨年春には本格的なおつまみカテゴリーの創出に複数社が取り組んだが、市場づくりは道半ばだ。
調理用食材としての冷食という分野にも焦点を当てたい。冷凍野菜は生鮮野菜の価格高騰が毎年のように起きていることから、需要が高まっている。同様に調理用食材としてカット済みサラダチキンなどの肉類が登場している。生協の宅配ではバラ凍結のひき肉は人気商品だ。加工度は異なるが市場定着が期待できる。
ケイエス冷凍食品は主力「鶏つくね串」に“2度焼き製法”を導入
〈2019年は東京オリンピック・脱フロンに向けた節目の年〉
今年は2020年東京オリンピック・パラリンピックが視野に入り、使用食材に選ばれるための準備も急ピッチで進みそうだ。
社会的課題の解決を正面から経営テーマに掲げる企業が冷食業界にも増えている。SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は本来、持続可能な社会の実現のために長期的視点から考えるべきものだろうが、オリンピックという国際イベントに直面することで、短期的テーマとしてとらえる必要にも迫られている。
2020年はまた冷凍機の脱フロン対策にとっても節目となる。オゾン層破壊物質であるHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が全廃となるためだ。今年中に政府の支援制度などを利用して準備を進める必要がある。
今年は冷食業界にとって、これらさまざまな課題に対処すべき節目の年となる。
〈食品産業新聞 2019年1月10日付より〉