「つまり、ビールは、神泡。」家庭用でコンパクトな新型「神泡サーバー2020」140万個投入/サントリービール
サントリーは今年、メッセージを「つまり、ビールは、神泡。」として、引き続きビールの選択肢を「泡」に変える活動に取り組んでいる。家庭用には新型「神泡サーバー2020」を大規模投入し、〈神泡〉のおいしさと、実際に自分で〈神泡〉を注ぐ楽しさを訴えている。
〈ビールの選択肢を「泡」に変える〉
サントリービール西田英一郎社長は2018年からの〈神泡〉プロモーションの成果として「市場環境は非常に厳しく、2019年の(狭義の)ビールの総市場は前年比4%減、うち樽生は3%減となった。その中でプレモルは1%増の1,726万ケース(大瓶20本換算)、うち樽生は4%増の906万ケースと伸長した。その理由は、神泡プロモーションだ」と振り返る。
今年で3年目になるが、なぜ、プレモルは泡にこだわるのか。「醸造家が“泡はビールの履歴書”というように、素材の良さと、それを引き出す醸造の良さが、そこに明確に示されるからだ。
炭酸ガスを逃さないという役割だけでなく、欧州産アロマホップを100%使用し、泡が“香りの粒”になっているから、香りを存分に楽しめる。また、口当たりの良い、やわらかな香りがあることで、ダイヤモンド麦芽のコクをしっかり感じることができる。お酒のなかで、泡は、ビールにしかなく、ビールのおいしさに直結する価値を持つ。ビールの選択肢を“泡”に変える神泡プロモーションはビール市場全体の活性化も担う」と力強く語る。
〈「やってみなはれ精神」で進化を続ける「神泡」〉
さて、改めて〈神泡〉とは何か。お店で飲むおいしい生ビールは、必ず泡とビールの間に、モコモコとした微細な泡が生まれている。この泡はビールに含まれる炭酸が再生されているものだが、この再生泡を家庭で再現することは難しかった。それを可能にしたのが2018年春から投入した画期的なツール「神泡サーバー」である。
初代サーバーから進化を重ね、19年には、なんと洗浄いらずの電動式サーバーを開発した。初代は、缶蓋に直接載せ、注ぐ際に液に超音波を当てるというシンプルな構造だが「思った以上に洗浄が面倒」という声から、キッチンの奥底にお蔵入りになることがままあったという。
その限界を超えるために「洗浄の手間をなくすには、液体そのものに超音波を当てるのではなく、液の外から、つまり缶胴に超音波を当てて泡を生成すればよいではないか」という“掟破り”の発想から生まれた。まさにサントリーの〈やってみなはれ精神〉の面目躍如であった。
〈“ひと手間”かけるを価値にする〉
さて、洗浄いらずの新型サーバーは爆発的人気を得たが、しかし、開発陣はそこにとどまることはなかった。2020年、サーバーはさらに驚くべき進化を遂げるのである。その全貌を含めて、今年の具体的な活動方針を水谷俊彦マーケティング本部プレミアム戦略部長に聞いた。
サントリービール水谷氏
――改めてこの3年間の〈神泡〉活動の成果を振り返ると。
ビールを美味しく飲むということの基準に、“泡”を意識してくれる方が着実に増えた。シャンパンにも缶チューハイにも泡はあるが、液の上にずっと乗っているものではない。泡とセットになっている飲み物はビールしかない。
今まで、それがあまり意識されていなかった。我々が〈神泡〉と呼んでいる理想的な泡の状態のビールを飲むと、“こんなにおいしさが違うんだ”ということに気付いてくれる方をつくれたことが一番の大きな成果だ。
それを具体的に数字にすると、料飲店での神泡品質提供店は3万9000店、総計4億杯が飲まれ、家庭用サーバーは750万個を出荷した。特に昨年の洗浄いらずのサーバーは、ツイッターを参照しても、継続して使って頂けていることが分かっている。サーバー愛用者は着実に増えているという実感だ。実際に、使用されているご家庭に訪問したりもしているが、洗う必要がないので、特に奥方に人気を得ている。
「ビールの選択基準を〈泡〉に変える」という信念でやってきているが、まだ道半ばであるとも認識している。3年やってきているので、〈神泡〉の認知率は6割強までいっているが、経験率はまだ5割だ。
神泡品質提供店で〈神泡〉の生ビールを飲んだことがある人はそこそこいるが、ただ“いま飲んだビールは神泡である(からおいしい)”という認識までいっているかというとそこまではつくれていない。まだまだ、5年・10年とやり続けていかないといけない。これは3年で終わるような施策ではない。
神泡サーバーの進化
――今年の具体的な方針は。
一言でいえば、“ファン化”を加速させる。プレモルが2月のリニューアルも通じて最高のうまさであるという独自価値子の、独自価値の体験により、“愛着”を生む、人に語りたくなるストーリー(自信と信頼)を生む――の3つを掛け合わせる。
ファン化のポイントは「これまでの“神泡…なんとなく、泡がいいのかな…”というものから“神泡のプレモルは泡が良くて、質が良くておいしい”とブランドイメージ構造を変えていくこと」「グラスを準備し、サーバーで注ぐ、飲むという一連の時間・行為が価値になる。おいしいビールを自分で丁寧に注ぐのが楽しい!上手に泡ができると嬉しい!という確信にする」の2点。
“いいビール”を“ひと手間”かけて愉しむ豊かな時間を拡大する。そのために、まず2月に「プレモル」と「香るエール」を同時リニューアルし、おいしさと泡品質双方をレベルアップした。
料飲店では、これまでの“プレミアム達人店”を名称変更して“神泡達人店”(※)とするとともに、達人をヒーロー化する。また、ファーストフードや駅構内売店、レジャー施設など、樽生ビールが設置できなかった接点での体験拡大に向けて缶専用の“全自動神泡サーバー”を、初年度1000店の目標で導入する。
※「神泡超達人店」=“神泡”達人店に認定されてから1年以上が経過した飲食店のなかで「樽生三原則」(毎日の洗浄、静置冷却、適正なガス圧)と、「こだわり2ヶ条」(きれいなグラスと自然乾燥、注ぎ方が大切)を徹底し、常に美しい見た目で、おいしい「ザ・プレミアム・モルツ」を提供すると、認定される。
全自動神泡サーバー
家庭用では「神泡サーバー2020」を展開する。コンパクト(約11センチの手のひらサイズ)、超音波(神泡サーバー史上最大の超音波波動数)、洗浄いらず(手入れなしで繰り返し使える)、生活に浸透(冷蔵庫専用マグネットでいつでも使える)――とイノベーティブになった。
「神泡サーバー2019」は、好評を得る一方で“置き場所に困る”“転がる”といった不満も聞くことができた。邪魔になると、食器棚に仕舞われてそこから出てこなくなる可能性がある。そこから出てきた発想が“実際に飲む旦那さんが自分で完結できる”ということだった。
そこで極限まで小さくして、磁石で冷蔵庫にペタッと貼れるようにした。これまでは、振動する面を注ぎ口に間違いなく当てるようにかぶせる方式だった。発想を変えて、“どうせ缶を持たないといけないなら、小さくして指で押さえればいい”とした。前回も画期的だったが、今回もそれに匹敵する画期性だと自負している。
――一層の「ファン化」には体験が重要ということですね。
この2年間、“泡がいいビールはおいしいビールです”と訴えてきた。いわば、事実を知ってもらう2年間だったといえる。しかし、それはあくまで知識・情報であり、左脳的だ。認知率は上がっているのに、まだ経験しないのはなぜだろうと問題を立てた。
そして、やはり“お酒は基本的に楽しいもの”ということに立ち返った。そもそも、お酒は飲んでいる瞬間や飲むこと自体が、結果的に嬉しくなること・楽しくなることが目的だ。〈神泡〉という状態になった後だけが、お客さんの楽しみではない。視点を変えて、お客さんが実際に自分でサーバーを扱って、丁寧に泡を注いで実際に上手にできた、この完成形がおいしくないはずがない、という“プロセス”そのものの楽しさを伝えるというようにした。
最後にひと手間かけるというのは、加工食品でもトレンドになっている。メーカーから提供されたものをそのまま受け取るのではなく、最後に自分が関わるという時間なり動作があると、嬉しい、という気持が増幅されるのではないか。
実際、先行的に都内の「プロント」で「プレモル」350mlを1缶300円で提供し、新型サーバーを使って自分で〈神泡〉をつくってもらうイベントを開催したが、キャーキャー言いながら楽しくつくってもらった。
サーバーを「絶対もらえるキャンペーン」は好評につき、5月15日から6月22日まで延長する。応募数は17年比で2倍と絶好調だ。
サーバーマイレージキャンペーン応募数比較(20年対17年、開始16日間での比較)
なお、たまに「他銘柄でも試せますよね?」というご意見を頂く。SNSなどをみると、そう多くは見受けないが、試してもらって全く構わない。逆に「やっぱりプレモルの泡が一番おいしい」ということが分かってもらえると思う。
――コミュニケーション戦略は。
メッセンジャーには矢沢永吉さんに加えて、神泡認知率・経験率が相対的に低い50~60代に特に人気の堺雅人さんを新たに起用した。矢沢さんは起用してもう15年くらいになるが、プレモルのイメージにぴったりだ。とはいえ、その世界観に魅せられる方にはすでに到達している。そこで、矢沢さんに引けを取らない、力のある俳優さんということで堺さんに白羽の矢を立てた。堺さんはコメディからシリアスな役まで幅広くこなし、ファン層も幅広い。
――2月のリニューアルの中味の変更については。
原料は変えていないが、シンプルに言うと、きめ細かい泡を生成するタンパク質を、より多く残す工程の工夫をした。仕込み釜の麦汁にホップを入れて煮沸する。ろ過して、酵母を投入して発酵させる。これらの工程の全てでタンパク質を残す。最終的に泡に残るタンパク質を増やすようにした。
味の設計は変えず、プレモルの方向性からずれることはしていない。当社の醸造家には、泡に関する研究データの蓄積がある。醸造家の粋を集めたといって過言ではない。タンパク質が泡の粘度、モチモチ感に影響する。神泡サーバーは、超音波で泡を細かく生成するが、粘度がないとすぐにはじけてしまう。
――「全自動神泡サーバー」の戦略は。
樽生は、当社としては、年間を通して、せめて3日で1本は空けてほしい、でないと品質が担保できないからだ。しかし、小さいお店だが高級店など、樽で売るほどの規模ではないところで、最高のプレモルをお出ししたいところも多い。缶容器でも〈神泡〉を提供できないか。開発は簡単ではなかったが、ボタンを押すだけで、それを実現できるサーバーができた。
イートインや社員食堂、また需要があると思うのはホームの駅の売店だ。1000件と、控えめに言っているが、樽生と違って洗浄がいらないことは大きい。「樽生」ではないが、「缶ビール」という必要もない。バックヤードでのサーブで、最高品質の「プレモル」を出せるということは大きい。
――〈神泡〉プロモーションは続きます。
各家庭に1個、まだまだ道半ばだが、もう750万個、手動式まで入れてプレゼントしている。今年は140万個を投入する。10月にはビール減税があるが、それでビールの消費が増えるとは単純にはいかないと思う。
ビール需要が飽和状態の中で、今後プレモルを伸ばそうと思ったら、この2年間くらいでもうひと段階上げていかないといけない。10年後、20年後、争いは更に強くなる。長期的にも価値をどうつけていくのか、考えるのがこの3~4年ということができる。〈神泡〉プロモーションは長期的に続けていく。