サッポロビール「新ジャンル“ツートップ”戦略当たり、市場平均を大きく上回る」/取締役常務執行役員マーケティング本部長・野瀬裕之氏インタビュー

取締役常務執行役員マーケティング本部長・野瀬裕之氏
――大変な年になりましたが、1~9月を振り返って。

2020年は10月のビール類増減税を織り込んであり、価格差は縮まり、ある程度、新ジャンル(ビール・発泡酒以外のビールテイスト飲料=第三のビール)からビールにシフトするという見立てだった。当社は年初から引き続き“ビール強化”を掲げていたが、コロナ禍で新ジャンルが伸びる年になった。当初の、10月以降新ジャンルは前年割れしていくとの見方も崩れている。

当社は2019年、他社ブランドの影響もあり新ジャンル市場が脚光を浴びる中で、課題は新ジャンルと据えていた。「麦とホップ」単独ではお客様ニーズには応えきれないと判断、2月4日に「GOLD STAR」を発売、すでにこのときにコロナが怪しい雰囲気もあり、店頭やマーケティング活動に充足できない部分はあったが、いいスタートが切れた年だった。

しかし、コロナ禍はあれよ、あれよという間に広がり、リモートワークとステイホームから巣ごもり需要が生まれるという、世の中がガラリと変わっていった。家飲みが主役となり、新ジャンル・RTDが伸長した。

1~9月の新ジャンル市場は総需要では前年比108%とみられるが、当社は130%と、計画より10ポイント以上上回っている。立ち上がりでコロナの影響さえ受けなければ、もっと上にいっただろう。

――ビールはどうですか。

当社はビールのウェイトが大きいから、樽生と瓶の影響は全体としても大きい。しかし、「黒ラベル」と「ヱビス」という、他社にない2つの基幹商品を持っており、2ブランドを軸に強化していくという方針に変わりはない。この5年くらい、「黒ラベル」はじめ当社の缶ビールは成長しているし、2026年の酒税一本化を見据えた長期的トレンドでも伸びるとみている。

実際、コロナ禍でも、家庭用の缶は好調だ。「黒ラベル」の缶は1~9月で104%と、6年連続プラスに向けて順調に推移している。11月4日に「旨さ長持ち麦芽」100%使用の「黒ラベル エクストラモルト」を発売するが、流通様の期待も感じる。

「ヱビス」も、今年は130周年という大きなテーマがあったが、ほとんどプロモーションはできなかった。しかし缶については健闘しており、第4四半期のボリュームが一番大きいということもあり、なんとか前年をキープするべく取り組んでいる。ビール全体の缶でも前年を超えることはなんとか実現できるようトライしている。

一方で、業務用が大変な事態であることに変わりはない。8月、9月と戻ってきているとはいえ、宴会やホテルなど、ビールが大量に消費されるところが苦戦している。当社としても、8月に外食企業のECビジネスを応援するECストアを開設するなど、お手伝いをさせていただいているが、今年は瓶・樽の総市場は4割くらい減るだろう。

ただし、業務用は、ブランドタッチポイントとして依然有効であることは変わりない。また、日本全体からいっても26兆円といわれる外食市場は経済への影響が大きい。来年もオリンピックの開催も含めて、どのレベルまで戻ってくるか、見通しは立てづらい状況だが、ワクチンの接種や政府の施策などに期待したい。

〈変化する市場をスピーディに把握へ〉
――新ジャンルは「ツートップ」がうまく機能している。

当社は3分の1が業務用という会社。そんな中でも踏ん張れているのは、やはり家庭用のアプローチが比較的うまくっているからだ。「GOLD STAR」にかける思いが、バイヤー様に伝わり、お客様に伝わった。社内でも「麦とホップ」と両輪で取り組むことがポイントだと考えを一致させた。

新ジャンルのコミュニケーションは、商品特徴が分かりやすいかどうかが特にポイントとなる。プレミアムな商品は、お客様がその商品特性を深く知りたがり、探索するのだが、リーズナブルな商品は、わかりやすさがどうしても必要で、ここを難しくしてはならない。

「GOLDSTAR」の「黒ラベルの麦芽、ヱビスのホップ」という訴求はシンプルだ。我々のDNAに根差した価値を、ビールのブランド名で分かりやすく提示した。もっとも、まだ伝わっていない部分があるので、ここのコミュニケーションが来年の課題だ。

「おいしそうと感じる」ことは「実際においしいかどうか」という前に重要である。「おいしそうに感じないもの」にお客様は絶対にお金を出さない。売れている商品は全部その課題が出来ている商品である。当社が現在の新ジャンルの市場を「おいしさ価値の第2ラウンド」と表現した所以だ。

――「黒ラベル」缶も好調です。

間口が広がっているとともに、500ml缶、6缶パックなどのSKUがしっかりと店頭に並んできた。「ヱビス」もビールの楽しみを伝えていく重要なブランドだ。業務用・家庭用問わず、「いろんなビールを楽しみたい」というニーズはあり、いわば新ジャンルとは対照的だ。「黒ラベル」がいわば王道の生ビールのおいしさを伝えていくとしたら、「ヱビス」は多様な味覚や楽しみ方を提案していくブランドだ。

なお、これは一部推測も入るのだが、リモートワークによりビール類飲用者が在宅していることで、これまで家族による代理購買だったものを「自分で食べたいもの・飲みたいものを自ら購入する」という本人購買行動が増えているのではないか。外で飲んでいたブランドを家飲みで、と考えると「黒ラベル」「ヱビス」はピッタリの選択肢になっている。

――第4四半期、営業現場に強調することは。

ひとつは、我々の商品のアドバンテージを、独りよがりになることなく、冷静に伝えていく力をもっと磨いてほしい。ふたつめに、コロナ状況下では、今までのシナリオは通用しない。

市場は大きく変化しており、新ジャンルとビールの関係、お客様の買い方・買われ方、業務用・家庭用など、いろんな要素が絡み合い、変化し続けている。流通や飲食店の現場で何が起きているのか、我々が押さえておかねばならないポイントがあるはずだ。今まで以上に情報感度が求められる。営業の最前線でしっかりと把握して、情報をあげてほしい。お客様の課題解決に立ち向かうことが、果ては酒類市場の活性化にもつながる。

〈酒類飲料日報2020年11月5日付〉