サントリービール「市場が変容しているときこそ、3位メーカーとしてチャンス」/執行役員経営企画本部長・大塚徳明氏インタビュー
ビール類総市場は10%弱くらいのマイナス。今年、総市場の規模感は3億数千万ケースと、さかのぼれば1970年代くらいの数字になる。4月の緊急事態宣言がその後の市場を一気に押し下げた。今後、業務用マーケットが完全にもとに戻ることは考えにくい。本格的な回復は2、3年後を待たないといけないだろう。
一方、家庭用は外出自粛の影響で堅調に前年を超えている。業務用が厳しい反面、ビール類でもチューハイでもワインでもハイボールでも、巣ごもり需要を獲得している。
家庭用市場の変化のポイントは次の3点だ。まず、価格コンシャスが強まっていること。2019年10月の消費増税以降、生活防衛意識が高まっている。次に健康志向だ。カロリーオフ・糖質オフなどがノンアルを含めて広がっている。3つ目に飲み方の多様化だ。オンライン飲み会に象徴されるように、私はビール、私は最初からチューハイといったように、自分らしさを出している。多様化が進んでいる。
――ビールと新ジャンルにフォーカスすると。
当社のビール類は1~9月で93%、ノンアル除いて91%であり、市場平均並みだ。「金麦」は生活防衛意識を反映して103%。「オールフリー」は109%、うち缶容器は113%だ。「ザ・プレミアム・モルツ」は、業務用を含めたブランド全体では3割ほどのマイナス。GWやお盆といったハレの日需要やギフト市場が厳しく、缶も9%のマイナスだ。春先から準備していたイベントなどが中止になったことも大きく影響した。ただし「香るエール」の缶は102%と、さきほど述べた多様化を反映して伸びている。これは大きなチャンスと捉えている。
減税がスタートした10月以降は、「プレモル」缶が2ケタ増で推移している。店頭によっては350ml6缶パックで1,100円を切っており、インパクトは大きい。業界全体としては、スタンダードビールでは1,000円を切るなどで、チャンスがでてきている。とはいえ、新ジャンルもまだ、6缶パックで650円くらいであり、圧倒的な差はある。単純にビールに戻るとはいえず、そこまで甘い見通しは立てられない。
「オールフリー」は、流れが変わってきており、特に「からだを想うオールフリー」は、年間で200万ケースを超えてくる勢いだ。これまで本体とは2対1の構成比だったが、夏ころからは拮抗してきている。ノンアルビール市場は2,000万ケース市場だが、もっともっと伸びる市場とみている。
〈業務用は「1杯」の品質にこだわり続ける〉
――業務用市場の展望は。
前年比30~40%というような事態に陥っているお店が多い。繁華街・オフィス街では、テレワークなどで会社の帰りに「とりあえずビール」といった飲用シーンは大きく減っている。今後も「2時間飲み放題」など、多人数での宴会が戻ることは期待できない。
一方で、郊外型の外食店は70~80%と戻している店舗もある。量を飲む、ということではなく、“この店に行きたい”と思える店が生き残っていく。チューハイ・ハイボールと嗜好が多様化するなかでいかに“おいしい生ビール”を提供できるか。1杯だけでなく、2杯・3杯と飲んでもらえるよう、生ビールの価値を伝えることが問われてくる。
需要が家庭用にシフトしているといっても、業務用の役割は依然として重要だ。いかにそこでプレモルファンをつくっていくか。家でもプレモルを飲んでもらうためには外食の使命は大きい。特に大都市だ。
――家庭用では。
「金麦」は、食との組み合わせで支持されるブランドを目指している。四季で味を変えるということが本筋ではなく、四季折々の食事に合わせてもらうために、それにベストな味わいを提案するということだ。うまくアピールしており、10月下旬からスタートした「チ金麦鍋専用チキンラーメン」を付けたプロモーションは、大変好評だ。
「金麦糖質75%オフ」は、4月くらいからどんどん伸びてきて、1~9月で121%だ。2年目の「金麦ゴールドラガー」は2割減だが、もう一度来年はてこ入れしていく。
「プレモル」も、10月から家庭用缶は2ケタの伸びで、流れが変わってきている。これまでよりも“小さなハレ”を狙っていく。やはり週末が一つの軸となる。“週末の1杯目をもっとうまい!に。”をコピーとしていく。数年来の取組が奏功して「プレモル=神泡」というのが浸透しているのは大きなアドバンテージになる。
――年末まで2カ月になりました。
減税もあり、来年、ビール需要をいかに活発化できるか。業界全体の課題になる。「プレモル」は年末にプロモーションを準備し、来年につなげる。「金麦」は鍋との相性を訴求することを12月に入っても第2弾を考えている。「オールフリー」も年末年始の休肝日需要を取り込む。
業務用でも家庭用でも市場が大きく変動している。大きくみれば、ビール類市場は大手2社が7割を占める寡占市場だ。当社は3位メーカーだが、この環境をリスクと捉えるのではなく、逆にチャンスとできるはずだ。その意味でコロナは決して言い訳にはならない。
いかに戦略・戦術を転換できるか。営業は、ブランド力と営業力の2つが両軸だが、今までの商談の仕方では通用しない。消費者がどういう売り場でどういう買い方をするのか。内食が進み、Eコマースも含めて、お酒の売り場はどう変わっていくのか。マネキンでの対面販売もできないなか、店頭の情報発信をどうするのか。
業務用については、少し冷静に回復をみながら、まずは1杯1杯の品質にこだわり続ける。ここで力を抜くと、余計にビールの需要は離れていく。業務用のお得意先様を決してなおざりにはしない。理研などと組んで、独自に飲食店向けのフェースシールドを開発したのはその証左だ。2026年まで続くビール減税を「プレモル」をファーストとして、取り組んでいきたい。
〈酒類飲料日報2020年11月6日付〉