キリンビール「“お客様のことを一番に考える”スタンスをぶらさずに」/執行役員マーケティング本部営業部長・鳥越康博氏インタビュー
もちろんコロナの影響は大きい。特に、業務用市場における打撃は非常に大きく、飲食関連業界の皆様のご苦労には心が痛むばかりである。しかし、もう少し長いスパンで見た場合、ビール類市場は1994年をピークとして、数量・金額とも縮小が続いており、長年にわたり、お客様に十分な価値を提案できていないことをメーカーとして反省しないといけない。コロナ禍だけではないということだ。
――2020年1~9月の販売状況は。
ビール類総市場は9%減くらいだろう。当社は5%程度の減だ。ビールは市場が約25%の減、当社もそれくらいだ。発泡酒は市場も当社も3%程度の減、新ジャンルは市場が7~8%増、当社はそれより1ポイントくらい上になる。また、いわゆる巣ごもり需要の高まりもあって、缶容器では市場は2%程度前年を上回ったようである。
ノンアルコールビールテイスト飲料は、市場が4%程度拡大している中、当社は新商品「カラダFREE」「グリーンズフリー」が順調に上乗せとなり20%強の伸びだ。RTDは市場を9%程度の増とみており、当社は10%程度の増、洋酒は当社は9%程度の減だ。
――10月の酒税改正後の状況は。
2019年の10月は、消費増税の反動減があり、その裏となって、ビール・発泡酒はプラス基調であった。当社は10月6日に発売した「一番搾り 糖質ゼロ」がお客様にも流通にも高い評価をいただいて販売が好調であり、その結果、ビール単体では17%程度の伸びとなった。健康志向の意識の高まりの中、「一番搾り 糖質ゼロ」を新たなブランドとして着実に成長させていきたい。
一方、新ジャンルは9月の増税前仮需が想定以上だったこともあり低調で、残念ながら前年を割り込んだ。
――業務用・家庭用それぞれの方針は。
業務用は大打撃だ。ここはしっかりお客様に寄り添ってお客様の困りごとの解決に向けた提案を行っていく。例えば11月から中部・九州の6県でテスト展開する2タップタイプの新たなサーバー「TAPPY(タッピー)」は、ロスが少ない、おいしいビールが飲める、手軽なオペレーションが可能という、飲食業界の困りごとを解決する、新しいビジネスモデルの提案である。
家庭用市場については、ライフスタイルの中での健康意識の高まり、お客様のリーズナブルな価格志向と価値を求める志向の二極化という要素を見ていく必要がある。
10月の酒税改正による構造的な影響についてはもう少し状況を見極めることが必要である。
――その他ブランドごとでは。
「本麒麟」は、発売3年目の2020年、1~9月で前年比41%増。この時点ですでに前年の販売実績を超えた。低価格でも価値ある商品とのお客様の強いご支持を基盤に、現場と、本社との連携がとれていることが勝因の1つだと考える。この点は、引き続き更なるレベルアップを図っていきたい。健康志向の意識の高まりを背景に、「淡麗グリーンラベル」は1%増、「淡麗プラチナダブル」は4%増。ノンアル「カラダFREE」「グリーンズフリー」も好調だ。
〈本社と現場が一体となってブランド育成へ〉
――“絞りを効かせるマーケティング”を継続している。
4、5年前は22ブランド程度あって、現場は自ら優先順位を判断して動いていた。しかし布施の社長就任以来「お客様のことを一番に考える」を基軸にして、ブランドの集中と選択、絞りの効いたマーケティングの意識を合わせてきた。段々と目線が揃ってきたと感じる。広告ひとつとっても「こういうことをお客様に感じて頂きたい」という本社の想いが、現場レベルでも理解され、全体が同じ方向を向いてブランド育成ができている。
――RTD(チューハイ・サワー類)も新提案が続いている。
4月に上質感を訴求してリニューアル発売した「キリン・ザ・ストロング 麒麟特製サワー」は、1~9月で50%程度伸長している。RTD市場は価格の下落傾向が続いているが、この秋に発売した「ベジバル フルーツ&ベジの特製カクテル」「麹レモンサワー」は、あらためて高付加価値の市場を創造したいという、キリンの決意だ。
――最終盤戦、営業現場に強調することは。
「お客様のことを第一に考える」というスタンスをぶらさずに、絞りの効いたマーケティングの実践として、しっかりとブランドの価値を伝え、育成していくことだ。この点をそれぞれの分野・持ち場で更にレベルアップしてもらいたい。「一番搾り」「本麒麟」をはじめとする各ブランドの長期的な育成こそ、当社の成長の源泉となる。第4四半期に既に計画していることを、レベル高く実行に移してほしい。
〈酒類飲料日報2020年11月11日付〉