芋焼酎「Amazing #1 STILL LIFE 2020」発売、25年ぶりの新銘柄は“豊かな香りと味わい”に/中村酒造場・中村慎弥氏

中村酒造場「Amazing #1 STILL LIFE 2020」
中村酒造場(鹿児島県霧島市)はこのほど、25年ぶりとなる新銘柄「Amazing #1 STILL LIFE 2020」(550ml瓶、税別4,500円、アルコール分33%)を発売した。

中村酒造場は、明治21年(1888年)の創業時から続く銘柄「玉露」、上品な味わいと余韻を持つ「なかむら」などの本格芋焼酎を伝統的な手造り甕(かめ)仕込みで造る焼酎蔵。コロナ禍の業務用市場への打撃は、業界全体へのそれと同様に同蔵を襲った。逆風下で試行錯誤した末に発売を決意した「なかむら新焼酎2020」、そして新銘柄「Amazing(アメイジング)」には、蔵の歴史と六代目杜氏・中村慎弥氏の挑戦が詰まっている。

コロナ禍が中村酒造場の商品の出荷に顕著な影響を与え始めた2020年6月、強烈な逆風が吹く中、六代目杜氏の中村慎弥氏は、「危機感や焦りだけで行動してはならない」と自らを戒めた。同氏は、中村酒造場の次男として生まれ、家業を継ぐために東京農業大学醸造科学科へ進学、清酒蔵や酒類卸での経験を経て10年程前に蔵に入った。歴史ある蔵に生まれた者として、「小手先のアイデアで切り抜けるべきではない」との思いがあった。一方で、逆境を乗り越え進化するには、自由な発想や心躍る挑戦が不可欠だった。

中村酒造場杜氏・中村氏

中村酒造場杜氏・中村氏

 
ジレンマを抱えつつ、研究を重ね、試行錯誤した末に誕生した商品が、2020年11月に発売した「なかむら新焼酎2020」だ。ルーツを辿り、じっくりと丁寧に造った「新焼酎」の仕上がりついて中村氏は、「我々が一番大事にしている最も正統派で王道の極みのような味わいを実現できた」と胸を張る。

中村酒造場「なかむら新焼酎2020」

中村酒造場「なかむら新焼酎2020」

 
4月下旬には、挑戦を具現化した25年ぶりの新銘柄「Amazing」を発売した。南国鹿児島の環境下では難しいと言われる「酵母無添加」、蔵で生まれたオリジナル麹菌の使用、原料のさつまいもには熟成させたオレンジ系の「ハロウィンスイート」と、中村杜氏の新たな試みが凝縮されている。中でもオリジナル麹菌は、同蔵に共存していた白麹、黒麹、黄麹の3種をブレンドしたハイブリッド麹菌を使用するという大胆な試みだ。ユニークな麹菌によって複雑さを増す味わいが「美味しい」ものになるか否かは、造り手の技にかかっている。果たして新銘柄は、「グレープフルーツやライムのような豊かな香りと味わいのある、おもしろい酒質になった」という。
 
〈「生きた証がつまった酒」を造りたい〉
2019年に逝去した五代目杜氏・上堂薗孝藏(かみどうぞの・こうぞう)氏は、今では希少となった杜氏のプロ集団の一つ「阿多(あた)杜氏」の最後の一人だった。上堂薗氏は生前、後継となる中村氏に、「慎ちゃんの造りたい酒を造らんね(造りなさい)」と言葉をかけた。「先人たちの生きた証がつまった酒を造りたいと思った」という中村氏は、蔵と焼酎の歴史を代弁する微生物、そして師匠から承継した技術で、それを表現した。
 
構想から5年にわたって温めてきた新銘柄の第1弾「Amazing #1 STILL LIFE 2020」のラベルには、「先人達に畏敬の念を、未来に希望の種を、だからこそ、イマ目の前にある何気ない風景や日常を大切に。このボトルには、そんな想いが詰まっています」との文言が記されている。コロナ禍の逆風が吹く中で発売の時を迎えた同商品は、限定1,182本に対し4,000本以上の注文が殺到する話題の一本となった。
 
今後シリーズ化を予定している「Amazing」、2021年秋の仕込みでは#1をブラッシュアップさせるとともに、#2、#3と、次なる展開も見据えている。
 
◆中村酒造場「Amazing」特設サイト