日本食肉輸出入協会原田健会長「消費者の嗜好の変化に迅速に対応」
食肉輸入業界においては、先ごろ大枠合意した日EU・EPAへの対応や、TPP11および日米2国間協議の方向性など今後の輸入環境に大きな影響を及ぼす案件を多数抱えている。新興国など第三国の貿易動向が日本の輸入にも間接的に影響するなど、目まぐるしく変化する国際市場環境への迅速な対応も問われている。日本食肉輸出入協会は17年度通常総会で則本博文会長の後任に、三菱商事の原田健氏(畜産部輸入食肉チームリーダー=写真)の就任を決めた。原田新会長は本紙らの就任インタビューで、消費者の嗜好の変化によりスピーディーに対応し、国内への安定供給を図るため国内外の関係団体・機関との連携を強化する必要があると強調した。
国内唯一の総合食肉商社団体として1994年に設立した同協会は、総合および専門商社30社と賛助会員2社で組織する。その会員の取扱いシェアは近年、牛肉で79%、豚肉が80%、鶏肉では66%に達している。
原田会長は、食肉輸入商社の課題として「近年、赤身肉ブームやサラダチキンなどに代表される鳥ムネ肉の需要増加など、食肉に対する消費者の嗜好が変わってきており、こうした変化に適切かつスピーディーに対応する必要がある」と指摘する。そのうえで、「中国や東南アジアなどを中心に世界的な食肉の需要が拡大しているなか、日本としては今後も食肉の安定供給を図るため、海外団体や企業、省庁との連携を深めることで、日本が買い負けするなど供給量が不安定になるような事態が生じることがないよう対応してゆかなければならない。一方で会員企業では和牛など畜産物の輸出に力を入れてゆくケースが増えているほか、政府も2019年までに農産物の輸出1兆円規模、うち畜産物で300億円の目標を掲げており、当会としても輸出拡大に向けてできることを最大限サポートする」と会長就任に当たっての抱負を述べている。
こうしたなか、今年8月1日からフローズン牛肉について関税の緊急措置(セーフガード、以下sG)が発動される事態となった。フローズンでは21年ぶりとなるsG発動について、「今後の輸入に関しては、会員各社がそれぞれ適切に対応することに尽きるが、当協会としてもこれからどのような影響が生じてくるか、いままで以上に各社輸入予定数量などの情報を詳細に収集・精査をし、会員はもちろん、関係業界・団体と連携しながら国民生活に影響が生じないよう対応したい」と強調している。
このため、今期は牛肉部会の開催など協会の組織活動も強化する方針で、「sG発動によって北米産はチルドの輸入がどのように展開してくるのか、フローズンでは豪州産の輸入が増加してくるのか、あるいは豚肉にも影響が波及してくるのか、きちんと情報を精査して影響を見極めてゆきたい。必要とあれば部会の開催頻度も増やす事を検討する。とくに牛肉は、当協会で79%の取扱いシェアを持っているが、残る20%のシェアの中にも我々と同規模の取扱いをする大手の輸入業者もいる。ほかの畜種も含めて、同じ食肉輸入業界に身を置くものとして、彼らとコンタクトを取り、ともに仲間となるよう働きかけるなど、当協会の機能を強化してゆくための取組みも進めていく」としている。
一方、今後の食肉輸入環境については、「大国の消費動向、とくに中国やインドの動向がカギを握っているものと捉えている。需要の観点から見る限り、各畜種ともに共通して今後も比較的高値安定で推移するのではないか。供給においても、当面は生産量が大幅に拡大する要因は少なく、逆に干ばつや疫病の発生状況など供給に影響を及ぼす事案をよく注視していく。さらに、EPAなど国際交渉の動きも押さえておく必要があるが、たとえば日EU・EPAも最短で再来年以降の発効といわれており、2年後の発効を見据えて、しっかりと準備を進めていく。このほか、米中間の牛肉貿易の再開など、大国間の新たな動きもチェックする必要がある」と指摘する。
また近年、大手量販店や外食グループなどでは直接、海外から原料を仕入れる自社貿易・直接貿易を進める動きも出てきている。輸入商社の存在意義にもつながる流れともいえるが、「彼らもすべてを自社貿・直貿でまかない切れているわけではない。我々のような総合・専門商社の強みは、牛肉だけでなく豚肉や鶏肉、生体、加工品まで幅広い商品を、世界の様々な国から取り扱う、タッチポイントの多さにある。その面的な広さは我々総合・専門商社ならではの強みであり、そこから得ることができるグローバルな情報やネットワークも直貿では決して得ることができない機能である」と強調する。