全日本・食学会が「シェフ牛事業」推進、乳用種雄子牛に新たな付加価値を
ジャージー種やブラウンスイス種などホルスタイン種以外の乳用種の雄子牛に新たな市場価値を生み出そう――。
生産者や料理人、流通関係者、コンサルタントなど食に関わるプロたちが食を通じて社会貢献する団体「全日本・食学会」(理事長:村田吉弘・菊乃井三代目主人)は、牛肉としての評価が確立されず、利用価値の少なかった乳用種雄子牛を放牧などで健康的に育て、おいしい赤身肉として商品化する「シェフと支える放牧牛肉生産体系確立事業」(JRA助成事業、以下シェフ牛事業)を2017年度から進めている。3カ年事業のため今年度末で終了するが、同学会では来年度以降も自主事業として継続し、東京都八丈島の乳業メーカー・畜産農家と連携して特産化を目指していく方針だ。
このほど、3年間の成果発表会が東京都内で開かれ、同事業で肥育されたジャージー種雄子牛(去勢)の牛肉を村井理事長ら著名シェフの手でメニュー化された試食会が開かれた。
事業推進委員会の原田英男座長(畜産環境整備機構副理事長)によると、近年、全国各地でヨーグルトやチーズ生産に取り組む酪農経営が増えるとともに、「ジャージー種」「ブラウンスイス種」といった畜種も増えているという。ただ、ホルスタイン種に比べて太り難いという性質から、ほとんどがひき材向けなど子牛の段階で安値で処分されている状況という。「牛肉として評価が確立されていないため、コストの高い配合飼料を給餌して育てても効率が悪く、採算が合わないため、生産体系が確立していなかった」という。
この課題を解決するために立ち上げられたシェフ牛事業は、ジャージー種など雄子牛を効率的に、かつ放牧という自然な手法で健康的に育てると同時に、市場で食肉としての価値を高める仕掛けをつくり、生産体系を確立するもの。とくに放牧で育てることで黄色みがかった脂肪の色など市場で敬遠されがちとなることから、同学会会員のシェフらを通じて熟成や調理方法の工夫により付加価値を高めていく点も事業の特徴だ。具体的には、酪農経営・育成経営で10カ月齢までの子牛の段階で高タンパク飼料を給与することで“太り易い体質”に刷り込む「インプリンティング育成」を施す。その後、公共牧場や営農集団へ肥育預託し、18カ月齢まで放牧(冬期は牛舎で粗飼料給餌)して肉量を増やして出荷、販売店やレストランですべての部位の魅力を引き出すため熟成肉などに加工・調理する。これら一連の流れを通じて新たな食肉としての価値を創造・提案していく。出荷体重は概ね550kg(枝肉重量300kg以上)を目標に肥育するという。「生産者からシェフまで命のリレーをすることで、いままで牛肉としての価値を発揮することができなかった牛の付加価値を高めていきたい」(原田座長)。
試食会では、栃木県那須町の「森林の牧場」で哺育し、宮城県蔵王町の蔵王酪農センターで肥育したジャージー種雄(去勢、枝肉重量345.5kg、B2)の牛肉を、11日間枯らし熟成させ、村田理事長と石鍋裕氏(クイーン・アリス)、山根大助氏(ポンテベッキオ)の3人のシェフがそれぞれ得意とする調理法とアイデアを凝らしたメニューが会員や生産者らに提供された。
同学会の髙岡哲郎副理事長(人形町今半副社長)は「これまでJRAの補助事業として取り組んできたが、今後はこの事業をいかに我々の事業としていくかがポイントとなる。それには、我々の取組みに賛同してもらえる生産者や地域の方々との出会いが必要になる。そのなかでいま、八丈島の素晴らしい環境のなかで放牧事業を進めていこうと地元に提案している。その先には我々が流通できるようなブランドもつくることができると考えている。その前段階として会員のシェフに試食してもらうため無料で牛肉を提供していく。より広めていくためにレトルト食品もつくっていきたい。今後、皆さんのアイデアをいただきながら、ともに素晴らしい価値をつくっていきたい」と展望を語った。
〈畜産日報 2019年12月23日付〉