乳児用液体ミルクの製造・販売解禁 乳等省令改正で規格基準を設定
液体ミルクは、栄養成分は粉ミルクと同じで、常温保存ができ、お湯に溶かす必要がなく調乳済みの状態で販売、世界各国で普及している。日本では食品衛生法、健康増進法で母乳代替品は粉ミルクしか基準が設定されていなかったため、これまで国内製造・販売していなかった。しかし、災害備蓄の観点や育児の負担軽減などの視点から必要性が議論し始め、09年に日本乳業協会が乳児用液体ミルクの規格基準設定を厚労省に要望、ここから9年を経てようやく省令改正、製造と市販が解禁となった。
後押ししたのは11年の東日本大震災と16年の熊本地震。特に熊本地震の際にはフィンランドの企業から液体ミルクが無償提供され、被災地で役立ったことが大きな前進につながった。
セミナーでは、「乳児用液体ミルクに関する制度改正の現状」を、順天堂大学大学院医学研究科の清水俊明教授が講演。その後「乳児用液体ミルクの解禁による子育ての形の変化の可能性」を、ぷちでガチ!育休MBAサポーター(江崎グリコ)の水越由利子さんが講演し、最後に特別講演として、慶應義塾大学の吉村泰典名誉教授が「乳児用液体ミルクによって広がる子育ての多様性」を話した。
厚労省が8日施行した乳等省令の改正では、「乳製品」の一つとして液体ミルク、名称は「調整液状乳」を追加。調整液状乳の定義は、生乳、牛乳もしくは特別牛乳またはこれらを原料として製造した食品を加工し、または主要原料とし、これに乳幼児に必要な栄養素を加え液状にしたもの、とした。規格基準の項目は成分規格、製造基準、保存基準、原材料管理、容器包装などにわたる。
粉ミルクを製造するメーカーなどが商品化するまでには、設備投資や安全基準に合致した製品作り、製品の品質・保存検査、厚労省の承認や消費者庁の特別用途食品の表示許可の手続きなど、いくつもの工程を経る必要があり、流通するのは早くても19年以降になりそうだ。
液体ミルクの必要性は、災害時の母乳代替品としての備蓄だけでなく、災害で清潔なお湯の入手が困難となり粉ミルクが使用できない場面、親が負傷した時の代理で授乳が必要な場合など、緊急措置の意味合いも大きい。また男性の育児参加の促進、海外からの旅行者への対応、オリンピック対応としても期待されており、製品化、販売に向けた今後の動きに関心が高まる。
〈食品産業新聞 2018年8月23日付より〉