【インタビュー】食糧部会長・中嶋康博東大教授に訊く①

農林水産省は先月末、食料・農業・農村政策審議会の食糧部会(部会長=中嶋康博東大大学院教授)を経て、いわゆる7月指針(基本指針=米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針=の策定)を策定した。それによると、昨年7月~今年6月の需要実績(速報値)を、前年度(確定値)を8.7万t下回る「778万t」(777.9万t)とした上で、例年通り過去19年分の需要実績を基にした算出方法トレンド(回帰式)により、今年7月~来年6月の需要見通しを、速報値ベースで「770万t」(769.8万t)とした。またもや過去最低水準更新にあたる。本紙では食糧部会長である中嶋東大教授にインタビューし、7月指針をはじめとした需給見通しなどに対する所見を訊いた。
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–まず7月指針、特に需給見通しに対するご所見を。
中嶋 これは大きな問題というわけではなく単なる感想だが、昨年7月~今年6月の当初の需要見通し(昨年の11月指針)と「結果」が全く同じ、そこにはある意味びっくりしている。26年産は値段が上に戻ったわけではないが、予定通りの需要量となった。構造的に色々な問題をはらんでいるのかという気がした。値が安いから本当は需要がもっと増えていてもおかしくない。また価格が安いままということは需要が足りなかった、少ないままだったとも考えられる。しかし、どちらでもなく、「予想」通りの需要量だった。私が予想していたのと違い、やや驚いた。極端に大きな問題というわけではないし、今まで通り大雑把に言って毎年8万tずつ需要が減っている状況は続いている。ただ、価格に反応して量が増えていないという事実は、これからのことを考えるのに考慮しなければいけない。そういう要素があると思った。
–26年産は安いまま、少なくとも価格が跳ね上がっていないなかで、需要量が増えなかった点に違和感があると?
中嶋 22年産の時は価格がかなり安くなり、需要実績が「予想」より多くなった。今回の需要実績からは、価格の弾力性がどういう構造になっているかを考えなければいけないという感想を持っている。「価格が上がると需要が下がる」構造と、「価格が下がると需要が上がる」構造、これがもしかすると非対称なのかもしれない点が、やや心配なところ。安くなったからといって量が増えないとすると、気をつけなければならなくなる。
–一般に米は価格弾力性が低いとされていますが、それにしても26年産は需要量が増えなかった。そこの構造が注視すべきポイントだと?
中嶋 そう。もっと価格が下がれば需要が増えるのか、どのくらい期待できるのか、今回の経験がひとつの試金石になる可能性がある。価格だけに頼って需要の喚起が期待できないのなら、それ以外の色々な取組みをしなければならない。
今までもあったのかもしれないが、私が食糧部会長を務めて以降、需要量の見通しと実績が全く同じだったのは初めて。ややびっくりした。当たったとか外れたとか、そういうことではなく、価格の動向と比べてこういう数字になったことに。
–価格が下がったままでも需要が上がらなかった。どのような要因が?
中嶋 中食・外食、家庭用での米の使用量がどのように推移して今回の数字に落ち着いたのか、この点は分析する必要がある。もしかすると3~4割の中食・外食の部分が、価格が安くなったからといって盛り上がらなかったのかもしれないのが、少し心配だ。それから家庭に関しては、パン食との関係があり、米の方がやや弱い。昨年までの米とパンの動きを家計調査でみると、依然としてパンの消費は増えている。米の値段は安くなっているのに、なぜパンが増えていくのか、私にとっては謎だ。そんなに食べにくいかと疑問に思うし、パンの値段は安くなっていないと思う。米の価格が下がり、パンは値段を上げざるを得ない状況のなかで、パンの消費が増えるのは謎だ。

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