〈新春インタビュー2018〉日清製粉グループ本社社長・見目信樹氏 「総合力」を実践に移し、強い企業集団目指す
製粉最大手の日清製粉を事業会社に持つ日清製粉グループ本社は、2015年度から2020年度を最終年度とする経営計画「NNI―120 Ⅱ(バージョン2)」を掲げ、収益基盤の再構築に取り組んでいる。
2015年度、2016年度は2期連続で増益とし、2014年度対比で50億円の増益を達成している。2017年度も、増益での着地を目指し、施策を着実に進めているほか、新たに10年後、20年後を見据えたグループのビジョンを示す長期経営計画の策定も進めている。製粉事業では、国内生産基盤の強化として長年取り組んできた臨海大型工場への生産集約がほぼ完了した。海外製粉事業では昨年10月にカナダのロジャーズ・フーズ社のチリワック工場生産能力約80%増強工事が完工し、新ラインも含めたフル操業体制、販売拡大に取り組んでいる。また、2019年初頭の稼働を予定している米国ミラー・ミリング社サギノー工場で生産能力約70%増強工事も進めており、同工場の増強工事完工の暁には、海外製粉4社11工場の生産能力が、国内9工場を上回るところまで拡大する。本紙では、日清製粉グループ本社の見目信樹社長に、事業の現状と今後の方向性を伺った。
〈収益基盤の強化に手応え〉
――今期のグループ事業推移について伺います。
日清製粉グループでは2015年度から経営計画「NNI―120 Ⅱ」で、ボトムライン重視の収益基盤再構築に取り組みながら、業容の拡大を図ってきました。この結果、2015年度から2期連続で増益となっており、収益基盤が強化されたことについて手応えを感じています。
2018年3月期第2四半期は、連結ベースで売上高2621億4000万円(前年同期比3.4%減)、営業利益131億200万円(14.0%増)、経常利益155億9300万円(10.4%増)、四半期純利益105億5300万円(4.0%増)となりました。
出荷数量は国内外事業とも、また各事業会社とも順調に推移しており、加工食品事業では、高付加価値製品群を販売強化し、中食・惣菜事業でも出荷拡大が続いています。一方で、前年の輸入小麦の政府売渡価格引下げに伴い、業務用小麦粉価格を改定したこと、事業ポートフォリオの見直しで子会社だった大山ハムを売却し、連結除外とした等で減収となりました。これらの影響を除くと実質増収であると認識しています。
営業利益は、2桁増益となっています。製粉事業では、主に北米地域における販売競争により収益的に厳しい面がありましたが、コストダウン等で補い、ほぼ前年並み。加工食品事業では、高付加価値製品として「ボトルタイプ」シリーズの第4弾として発売したパン粉が順調に販売を伸ばしシェアアップを図ったほか、中食・惣菜事業も順調で利益に大きく貢献しています。
また、加工食品事業では、最適生産体制構築の取り組みとして進めているトルコのパスタ事業、ベトナムのパスタソース事業とも生産が軌道に乗り、フル操業に向け前進しています。その他の事業も順調です。
〈お客様との関係強化で販売拡大〉
――事業別の状況はいかがですか。
製粉事業は、売上高1138億6800万円(5.1%減)、営業利益43億6100万円(0.6%増)でした。国内の業務用小麦粉の出荷は前年を上回っていますが、前年の輸入小麦の政府売渡価格引下げに伴う製品価格の値下げ等で減収でした。営業面では、お客様との関係強化に磨きをかけ、販売数量の拡大に取り組んでいます。海外事業では、昨年10月にカナダのロジャーズ・フーズ社チリワック工場の生産能力増強工事が完工し、現在、フル稼働に向け取り組んでいるところで、今後、出荷拡大を図っていきます。また、2019年初頭の予定で、米国のミラー・ミリング社サギノー工場の生産増強工事にも取り組んでおり、工事は順調に進んでいます。その完工・稼働によって米国での小麦粉販売の一層の拡大を図っていきます。
ニュージーランドのチャンピオン製粉は大手得意先の不振もあり出荷数量は若干影響を受けましたが、コスト削減を進めたほか、輸出にも積極的に取り組み収益は堅調に推移しています。
食品事業は、売上高1273億4000万円(2.3%減)、営業利益71億9400万円(22.2%増)の実績でした。グループの主力事業の一つに育てるべく取り組んでいる中食・惣菜事業では、和惣菜のイニシオフーズ、調理麺のジョイアス・フーズ、弁当・おにぎり・サンドイッチ等を製造する関連会社であるトオカツフーズがあり、「フルラインアップ体制」が整いました。さらに、戦略的成長投資の一環として進めてきた、ジョイアス・フーズ京都工場の生産能力増強が昨年4月に完了・稼働したほか、イニシオフーズでは、名古屋に新工場を建設し、昨年9月に稼働しました。
このほか、昨年7月には、オリエンタル酵母工業がインドにイースト工場建設を決定しています。同社の酵母事業としては、初の海外工場となり、この新工場がフル稼働すると、同社はインドで約3割のシェアを持つイーストメーカーになります。
――通期の見通しについて伺います。
通期連結業績予想は、既に発表しているものから修正はしていません。売上高5350億円(前期比0.6%増)、営業利益260億円(1.9%増)、経常利益300億円(1.1%減)、当期純利益201億円(3.3%増)です。
第2四半期までは、計画対比プラスで推移していますが、上半期から下半期にずれ込んでいた広告宣伝費の投入を予定し、また、海外事業で若干のブレーキがかかる面も織り込んでのことです。
全体としては出荷は順調で、収益面における販売構成も良化していますが、引き続き気を緩めずに取り組んでいきます。
〈情勢の変化注視し適切に対応〉
――昨年は、日EU・EPA交渉の妥結、TPP11交渉の大筋合意がありました。製粉産業に与える影響も含め、ご感想を伺います。
2つの経済連携交渉がまとまり、一定の方向性が見えるようになってきました。麦制度もSBSカテゴリーⅢが導入されるなど一定の見直しが進められていますが、貿易交渉の結果は、製粉産業に少なからぬ影響をもたらすだろうと見ています。これらを踏まえると、2017年は製粉産業界にとって、大きな転換点の年になったと言えるのかもしれません。
TPP等による事業環境の変化も予想されるほか、米国をはじめ世界的な保護主義やポピュリズムの台頭、中東や北朝鮮にいてみられる地政学的リスクが高まってきており、これまで以上に、株価も各種相場が大きく上下に振れる可能性もあります。
当社グループは、原料小麦のかなりの部分を輸入に頼っていますし、海外に広く事業を展開していることから、これらの情勢は特に注視していかなければなりません。
一方、国内では人口減少・高齢化に加え、人手不足という問題も、広く社会で認識されるようになってきました。こうした事実を直視するとともに、消費者の嗜好や購買行動の変化などを的確に捉え、技術の進歩も取り込みながら、これをビジネスチャンスとして前向きに取り組む姿勢も大事です。
日清製粉グループでは、こうした時代が到来することを予測して、海外と戦えるコスト競争力を目指した国内生産体制の再構築、国内市場が縮小していくことへの対応としての海外事業の展開を着々と進めてきましたが、これらが今後、本当の意味で活かされてくると考えています。
ただし、そのことは国内市場をおろそかにすることでは全くありません。むしろ逆で、当社グループにとって国内市場は非常に重要であり、それぞれ事業基盤をさらに強化し、お客様との関係強化、継続したコスト削減の実行、そして提供できる付加価値・サービスが何なのかを常に問い続けることが、今まで以上に重要になってくると強く認識しています。
製粉産業界の今後の動きも含め、情勢の変化を注視し、適切な対応を採っていきたいと考えています。
〈10~20年後見据え長期計画策定〉
――日清製粉グループでは現在、経営計画「NNI―120 Ⅱ」に取り組んでいます。あわせて、10年後、20年後を見据えた長期経営計画の策定も進めています。
経営計画「NNI―120 Ⅱ」は、2020年度を最終年度にしていますが、これはあくまで通過点として、その先を見据えて、さらなる成長、企業価値の向上を図っていかなければなりません。しかも、先ほど申し上げた、社会・事業環境の大きな変化も乗り越えながら前に進まなければなりません。
そのため、日清製粉グループでは、2020年をもう一つの起点として、さらに10年後、20年後を見据えた「あるべき姿」(達成可能性の高い目標)、「ありたい姿」(理想の将来像)を方向性として示す長期経営計画を策定中です。今年のいずれかの時期に発表する予定です。
当社グループは2001年に分社化し、持株会社制に移行しました。その当時に掲げた旗印は「自立と連合」です。各事業会社はそれぞれの事業領域で確たる地位を築き、時代や社会にフィットしていくことを目指しました。それから17年経ち、「自立」は相当実現できたのではないかと思います。その上で、今一度「連合」の部分を見直し、グループとして「総合力」をいかに発揮していくかを長期経営計画の中に盛り込んでいこうと考えています。
グループの向かうべき方向を示すものとして、長期経営計画は羅針盤となります。10年後、20年後には、事業環境や販売環境が想定以上に変化しているかもしれません。厳しい航海になるのかもしれませんが、その中でも羅針盤を持つことによって、場当たり的にならず、認識のベクトルを一致させて取り組んでいけものと思っています。
――新年を迎えての抱負を伺います。
先ほども申し上げましたように、2018年には新たな長期経営計画の第1年度が始まることになります。
私は、日清製粉グループ本社の社長に就任するに際して、「総合力」という言葉で、グループの進むべき方向性を表現し、機会あるごとに口にしてきました。
「総合力」は、言葉で言うことは簡単ですが、すぐに結果が出せるものではなく、様々な施策の地道な積上げが必要です。
しかし、日清製粉グループが、非常に多岐にわたる事業を展開している以上、「総合力」の発揮は必須のことであると考えています。今回の長期経営計画では、各事業の持つ強み、可能性をどのように組み合わせ、いかに「総合力」の発揮につなげていくか、すなわち「実践」が大きなテーマになります。2018年は、言葉を実践に移していくという意味で、当社グループが新たなステージに踏み出していくその第1年目と言えるでしょう。
〈食品産業新聞 2018年1月1日付より〉