〈シグナル〉ものを考え、体を使う

人間は、自分が生まれた時にすでに存在したテクノロジーを、自然な世界の一部と感じる。

15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーは新しくエキサイティングなものと感じられ、35歳以降になって発明されたテクノロジーは自然に反するものと感じられる――。

これは、イギリスのSF作家ダグラス・アダムス(1952年~2001年)の言葉で、「ダグラス・アダムスの法則」だそうだ。年齢が全てではなく、人の性質や好みや価値観も影響するが、この見方は目安としてはおもしろい。

新しいテクノロジーもいいが、昔からの営みに感心することが多い。60代半ばの元上司は、退職後、スポーツジムから遠ざかった。畑仕事や家事に精を出せば、十分運動になるからと。母の80歳のご近所友達は、一人暮らしだが手間をかけて料理を作り、毎年欠かさずおせち料理も用意する。年齢なりの健康上の悩みはあるが、いつもシャキッと元気そう。

こういった人生の先輩を見ていると、一見手間に思えることを続け、頭も体も感性もフル活用することが、生きる上で欠かせないことだと思わされる。

テクノロジーの恩恵で世の中が便利になる中で、自分の頭でものを考えること、体を使うことを怠ってはいけない。食品では簡便さが求められているが、それは忙しい人のため。ものぐさな人のための簡便食品は、長い目でみると、その人のためにならないだろう。

〈食品産業新聞 2018年3月5日付より〉