〈シグナル〉「特権」に気づく

 
『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(太田啓子著)という話題の本がある。
 
男児2人の子育て中の著者が、弁護士としてDV離婚やハラスメント事案にかかわる中で、これから大人になる男の子たちが性差別的な言動を取らないようにするには、どのようなことに気を付けて子育てすればいいか考えたものだ。
 
日本は、2019年のジェンダー・ギャップ指数ランキングで、153カ国中、過去最低の121位に後退した。男女平等度を表すこの指数を上向かせるためにも、この本は一読の価値がある。
 
本の中に、多様性を尊重する教育を実践する小学校教諭・星野俊樹さんとの対談があった。星野さんは、出口真紀子・上智大学教授に聞いた話として、講義名を「女性差別について」とするより、「男性特権について」としたときのほうが男子学生の食いつきが良かったという事例を紹介。
 
また、「特権」と「抑圧」を実感できる手法“教室の各生徒の席から、ボール紙を黒板前の箱に投げ入れる”を紹介。前の席からは簡単で、後ろの席からは困難。これが差別構造であり、前の席に座っている人には特権がある。振り返って気づいても、行動せず、特権にとどまれば、差別構造の再生産に加担したことになる。
 
著者は別のテーマの差別構造に、自分も消極的に加担しているかもしれないと自戒していた。「特権」に気づくことが、世の中をよくする第一歩だ。
 
〈食品産業新聞 2020年11月30日付より〉