魅力大きいアセアン市場、2018年に域内の関税撤廃

昨年暮れ、アセアン10カ国によるアセアン共同体が正式に発足した。共同体は3つの分野からなるが、日本にとって最も注目されるのが経済共同体(AEC)となる。人口6・2億人、GDP(名目)は約2・5兆億ドルで世界の3・3%を占める単一市場が誕生した。我が国食品業界にとって、AEC時代のアセアンは経済発展に裏付けられた人口増加という非常に魅力的なものになる。

アセアン経済共同体が正式発足したが、劇的に変わることはない。それでも着実に域内の関税が撤廃されていくし、ソフト、ハードのインフラ整備が進むはずだ。

人口減が進む我が国の食品業界にとって、中国と並び進出の的となるのがこのアセアンである。日本アセアンセンターの中西宏太貿易投資部部長代理は「現地のニーズや商習慣などは日本人にはわかりにくい。また国内市場を対象にした場合、独資では一定の規制がある。パートナーとして現地企業が育っており、食品や流通などはパートナーとの合弁のほうが成功しやすい」と述べる。

食品業界や流通業界が現地市場としてのアセアン諸国への進出及び事業強化のプラス要因はいくつもある。まずは6億人という巨大な人口。しかも若い国ばかりで今後も人口増は続く。経済発展も目覚ましく、GDPは30年には日本と同等(現在は約半分)規模になるといわれる。

またAECにより域内流通がしやすくなる。域内での関税は各国に残る特殊な原料・製品を除き18年には撤廃される。さらに物流に必要なインフラも整備されていく。特にメコン5カ国では自動車用の道路である経済回廊の整備が着実に進んでいる。昨年4月には南部経済回廊のネックだったメコン川に日本の援助でツバサ橋が完成、バンコク、プノンペン、ホーチミン市間が荷の積み替えなしに往来可能となった。また東西回廊のラオス国内の整備も進み、タイからベトナムへのもう一つのルートも確保された。メコン地域ではミャンマーのダウェイへの南部回廊、モーラミャインへの東西回廊の整備が今後の課題となる。

回廊の整備により比較的人件費が安いラオス、カンボジア、ミャンマーで労働集約的な生産を行い、タイ、ベトナムでの消費及び輸出というモデルが可能になる。すでに服飾企業がラオスで行っており、食品業界にとっても参考になるモデル。食品では各国の農産物の利用も考えられる。

しかし、課題もある。アセアン域内での消費という形態をとる場合、外食や流通など現地産業の保護育成の観点から出資比率の規制がある。また中西氏の指摘するように日本企業が現地のニーズの動向や各国の商習慣などの違いを把握することは難しい。そこでアセアンに根をおろしたパートナーと組むことが望ましいという。現地企業の中には伊藤忠商事と提携しているチャロン・ポカバンのような有力企業も育っている。また日本企業の生産技術や流通ソフトなどを現地側が必要としている側面もある。

さらに食品の場合、国境措置の簡素化が絶対必要だ。AECができたといってもそれは当面、関税のことだけで、通関、検疫はほとんど変更がない。25年までの課題となるが、それでも東西回廊ではシングルストップが実施されるようになった。さらに食品の場合は各国の認証制度が統一されておらず、表示方法や使える原料などに差異が生ずる。これも大きな課題だが、一部では「経験」によって簡素化されるケースもある。