日本酒電車、沿線の魅力発信、電車の揺れが“心地酔い”

関西の私鉄が運行する「日本酒電車」の人気が年々高まっている。貸切電車を走らせ、沿線上の酒蔵のおいしい日本酒と、特別に用意された食事が一緒に楽しめる内容で、「非日常を味わえる」、「揺れ具合と酔いが心地いい」などと参加者からも好評だ。近江鉄道が7年前から運行を開始し、灘に次ぐ酒どころ伏見を沿線に抱え、全国初の「日本酒で乾杯条例」を制定した京都市に賛同する形で京阪電車が3年前から、同じ京都の叡山電鉄も昨年から運行を開始。沿線の魅力を発信するイベントとして、地域ごとに特性を持つ日本酒が一役買っている。

今年で7年目を迎える近江鉄道の「近江の地酒電車」は、スタートから5年目までは「コトコト湖東電」として運行していた。びわこ湖東路観光協議会と同鉄道が、沿線の魅力を発信できるイベントとして、地酒を活用した電車を走らせる企画を立案。昨年からは同社が主体となり、「近江の地酒電車」として運行している。

電車内では沿線の酒蔵の日本酒とともに、おでんと滋賀の名産品が入ったつまみ6品のセットを3500円で提供。元々飲み放題だったが、昨年からそれをオープンにしている。2車両の定員は72人。「開始当初は席が埋まらなかったが徐々に浸透していき、今ではすぐに埋まるようになった」と定着した模様。参加者の年齢層も50代以上の男性が多かったが、今年は40代の夫婦や20代の女性グループも見られたようだ。

運行スケジュールは通常日と「蔵元の日」でパターンを分けている。通常日は5蔵のお酒を2種類ずつ計10種類のお酒が飲める。「蔵元の日」は蔵元に乗車してもらい、その蔵元のお酒を楽しんでもらうという内容で、昨年から4蔵元を5蔵元に増やした。

参加者からは「非日常を体験できる。普段電車で飲むと嫌がられるが、遠慮なく飲める」、「地酒の存在を知るようになった」といった声が聞かれている。

京阪電車は2014年1月15日に第1回「京阪日本酒電車」を運行した。その前年には京都市が全国初となる「日本酒で乾杯条例」を施行。その趣旨に賛同し、同市と共同企画した。「インバウンドで湧く東山という一番いい観光地を走っているので、京都といえば京阪電車と言ってもらえるようにしたい。沿線の伏見の産業を発信することで地域に貢献できる。沿線イメージが向上でき、旅客誘致にもつながる」と期待を寄せる。

京都の10蔵の日本酒が楽しめ、地元有名店のシェフによって日本酒に合う料理も提供された。チケットは即売り切れたが、参加者は20~30代の若者や女性も多かったようだ。「最近は若い人にも日本酒が飲まれることが多い。2年前も新芽が出ていたが、まだ浸透していなかった。京都市も日本酒を広めるための条例を制定したので、ウィンウィンの関係になれば」としている。

昨年までは京阪電車が企画していたが、今年はJTBが企画し、京阪電車は共催という形で、5月の7日と21日、9月3日と17日に開催する予定だ。

叡山電鉄(えいでん)は昨年に引き続き、2月27日に「えいでん・日本酒電車」を運行した。「京都市は『日本酒で乾杯条例』を制定している。電車を使って日本酒の良さを知ってもらいたい」というのが企画の狙い。伏見の招徳酒造の日本酒が味わえる「招徳号」と、北川本家の日本酒が味わえる「富翁号」の2部構成で、蔵元の解説を聞きながら銘酒が楽しまれた。

また、京都タワーホテルの「京料理 伏水」によって、鞍馬の「木の芽煮」や大原の「しば漬け」、一乗寺の「きらら漬」といった沿線上の特産品を使った特性おつまみ弁当「きらら弁当」も用意された。「お酒もそうだが沿線の特産品を使っているので、沿線の良さをアピールできる」と強調する。

昨年の運行は1車両で予定していたが、応募が多かったことから急遽2車両に増やした。今年は3日で56人定員がほぼ埋まったという。「揺れ具合と酔いがいい感じ」、「ほんわりと酔っていく」などと好評で、電車とお酒の相性はいいようだ。

1人2合分は飲める量を用意しており、5000円の金額は妥当という意見が大勢を占める。「今後も年に1度運行はできれば」と恒例のイベントを目指す。