【新春醤油特集】広まる下げ止まり感、国内需要は厳しさ続く
昨年の醤油出荷量は、わずかに前年に届かなかったものの、2年連続でほぼ横ばいをキープした。業界筋では下げ止まりが現実化したとの見方が広まっている。その一方で、大豆をはじめとした輸入原料は円安が長引いていること、ノンGM大豆のプレミアムが上昇するなどの影響を受けて、コストアップ要因になっている。今期は引き続き、醤油の需要創造と価値向上に加え、上昇したコストの転嫁をいかに実行するかがカギとなる。
15年10月までの醤油出荷量は1・4%減となっている。ただ表に示したように14年11月の出荷量が少なかったこと、輸出が好調なことなどから15年の出荷量は微減で着地したと推計される。なお、輸出量は11月までで11・6%増の2万3354kl。年間では4000kl程度増加して2・5万kl以上になる。
一方、1~11月の家計消費をみると、購入額は2・7%減、購入量は5・9%減と減少傾向が強い。和食の世界遺産登録直後の14年は購入量微増となったが、1年でその効果が薄れた。なお、家計消費の購入額の方が購入量より減り幅が少ないのは単価アップによる。これは大手2社はじめ、中小まで広がっている鮮度訴求容器が増えていること、またそれに伴い1?PETなど一般品の特売比率が下がっていることなどによる。
このように、出荷量の下げ止まりといっても、まだ家庭内はじめ国内の減少傾向は続いており、輸出の増加に負うところが強い。
醤油は長期的に減少が続いており、その理由にはいろいろな要素がある。人口構造の変化と嗜好の多様化、女性の社会進出の進展等による家庭内調理の減少と中食など食の外部化、調理冷食など醤油で味付けした加工食品の輸入などが言われている。現在も大きな変化はなく、しかもまだしばらく続くことが見込まれる。近年の不況で内食化傾向が強まっていることは、一見プラスだが、中食へのシフトや簡便化で醤油及び醤油関連調味料が素直に増加する環境にはない。
現在の醤油業界にとって最も大きな課題が需要の減少だが、業界には「数量より価値を求める」という考えが強まっている。その代表例が新鮮さを保持する新容器による価値向上だ。キッコーマン食品、ヤマサ醤油の大手2社が先行した開封後も新鮮さを保持できる容器(鮮度保持容器)は、容器メーカーの提案もあっていわゆる大手5社の全てに加え、地方メーカーでも採用が進んでいる。
鮮度保持容器の容器代はPETに比べて高いことから、一般醤油を詰める例は皆無で、全てが高付加化価値醤油となる。このため、鮮度保持に加え、醤油そのもののおいしさの再発見にもつながっている。流通側からも価格訴求ではない販売が可能と評価も高い。容器メーカーの増産やさらなる改革によって今後の普及が期待される。
また最近好調なのが健康志向に根ざした「減塩醤油」や塩分控えめタイプだ。昨年4月から運用されている「日本人の食事摂取基準」で塩分摂取量が下げられたことも追い風になっている。その一方で「丸大豆」「有機」「国産」など特徴ある原料を使った高付加価値醤油は鮮度保持容器の製品とかぶるケースもあってやや苦戦している。500mlなどの小型容器や液だれしにくい注ぎ口容器なども価値訴求にはプラスとなっている。
一方、原材料の国際価格はやや下がってきたとはいえ、「高止まり」の状況であり、さらに円安が継続しており、国内調達価格は高止まり状況だ。特に大豆はノンGMの脱脂大豆が多いが、米国産のプレミアムが高騰しているのが問題。ブラジル、インドなど他国にノンGM大豆を求める動きがあるが、品質面に加え、丸大豆供給が多く脱脂大豆が少ないのが課題となっている。
幸い、原油安で一息ついているが、コストアップは続いており、価格改定を模索しているのが現状。しかし値上げで需要の低下を招くことを恐れ、価格改定に踏み切れないというジレンマを抱えている。そのため上昇したコストの転嫁を社内努力でカバーせざるを得ない状況だ。