【未踏のマーケティング】森永製菓「サイミート」開発秘話、逆転の発想により失敗から成功へ、スリットは味が染み込みやすく食感が良い利点に/新規事業開発部・松崎慎也氏インタビュー
森永製菓は9月20日、繊維感と厚みがある一枚肉タイプの代替肉「SAI MEAT(サイミート)」を新発売した。
これまで開発した代替肉の知見を元に、菓子ブランドの製造ノウハウも生かして開発した商品だ。断面にスリットが入っているのが特徴だが、当初は失敗作と考えたという。味が染み込みやすい、食感が良いという利点に気付き、安定的に製造できるように試行錯誤し、2022年3月には製造特許を取得した。「サイミート」を担当する新規事業開発部の松崎慎也氏と、研究開発に携わった研究所未来価値創造センターの齋政彦氏と山口貴裕氏に話を聞いた。
同社の代替肉の開発の歴史は古く、肉不足の時代だった1969年に、高騰する牛肉に変わるたん白源として代替肉「バーグメート」を発売した。2017年には、新規事業開発部の前身である新領域創造事業部で、肉不足という将来的な社会課題の解決を図るため、玄米入りの大豆ミート「ゼンミート」を開発した。松崎氏は、「それぞれ技術や開発背景は異なるが、基本的には必要な栄養素をおいしく食べてもらいたいという思いは共通している」と述べる。
齋氏は、「当社の開発の歴史を振り返ると、たん白の加工技術を強みにしており、『inゼリー』や『inバー』、『ウイダー粉末プロテイン』などに活用してきた。2018年4月に研究所内に未来価値創造センターが設立された。新しい研究テーマが求められ、将来的な食肉不足が重要課題と考えていたことから、植物性肉の開発を手掛けることになった。私自身はそれまで食品開発の経験はなかったので、有志を募ったところ山口氏が手を挙げてくれ、この4年間、2人で開発に取り組んだ」と振り返る。
〈一枚肉や大きな塊肉を進化させ、もっとおいしくして世界を目指したい〉
森永製菓は長年、さまざまな原料を用いて、機能性の付与やおいしく食べてもらう商品の開発に取り組んできた。未来価値創造センターには研究者が集まっており、さまざまな知見が寄せられ、複合的に製品開発が進められた。そのため、「サイミート」の食感や風味には、「ポテロング」や「inゼリー」など、同社の代表的な菓子ブランドの開発手法が活かされている。
一枚肉にした理由として山口氏は、「開発当初は、海外を見ても大豆ミートの一枚肉タイプの製品はなかった。大半が結着剤を使い、ハンバーグなどが作られていた。そこで食感や大きさにこだわり、結着剤を使わず大きな一枚肉タイプを目指した。開発段階からユーザーの意見を聞き、レトルト食品で水戻し不要の仕様にした。また、調理の幅が広がるということで、味付けせずに商品化している」と説明する。
齋氏は、「一枚物は意外と早い段階でできたが、通常の植物性肉を開発しているメーカーであれば、失敗作と思うようなものだった」と振り返る。「サイミート」は断面がスリットで空隙が見えるのが特徴だ。通常は、羊羹やういろうのような形状に繊維感を付与するという。当初はそういった形状を目指していたが、断面にスリットが入ったものが出来上がる。「条件を見直そうとしたが、味の染みこみや食感の点で、この形状の方がいいと判断した」と振り返る。
松崎氏は、「どこに商談に行っても面白いと評価される。一番印象に残っている反応は食感に対してだ。プラントベースに造詣の深い人からも、この食感は今までなかったと価値を感じてもらえる」と手応えを得ている。「味をつけて欲しい、容量的にもう少し増やして欲しいという声もある。最大公約数を取るにはもう少し調査が必要だ。まずはtoBからスタートし、toCに拡げることも視野に入れている」と語る。
齋氏は、「大豆ミートは、技術が進化して全体的においしくなっている。当社は一枚肉や大きな塊肉を進化させ、この分野でリードできるように試行錯誤している。現在の品質で満足はしていない。もっとおいしくしていきたい。『全ての人がおいしく食べられるように』とうたっているので、世界中の方に食べてもらえる日を目指して頑張りたい」と意気込みを語る。
〈大豆油糧日報2022年12月6日付〉