コカ・コーラ WWFジャパンへ資金供与2.8億円、減災と淡水生態系保全の両立・漁網など海洋プラごみの実態把握に
日本コカ・コーラは11月22日、米国コカ・コーラ財団が、淡水及び海洋の生態系保全の促進のため、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)に対し、総額約200万米ドル(約2.8億円)を2つのプロジェクトに資金供与すると発表した。
WWFは、スイスで設立されて世界100ヵ国以上で活動している環境保全団体。2大目標として生物多様性の回復と脱炭素社会の実現を掲げ、さまざまな活動を展開している。
今回のコカ・コーラの資金供与は、ザ・コカ・コーラカンパニーの設立した慈善団体である米国コカ・コーラ財団(The Coca-Cola Foundation)からの助成金として実現した。
対象は、有明海の河川の流域における生態系の保全やそれに伴う自然環境の保護・整備をするプロジェクトと、漁網などの海洋プラスチックごみの実態把握のプロジェクトの2つ。助成金は4年間の総額となる。
2つのプロジェクトについて、WWFジャパンの各プロジェクト担当者と日本コカ・コーラに話をきいた。
〈有明海の河川の流域における生態系の保全やそれに伴う自然環境の保護・整備をするプロジェクト〉
ひとつめのプロジェクトは、九州有明海の河川流域における農地用水路や河川などで、生物多様性と災害対策の両立を目指す活動。
WWFジャパンがこれまでに九州の佐賀、福岡、熊本三県における有明海流入河川の流域を対象とした淡水生態系保全活動の成果をベースに、同地域の小河川や水田・水路等に生育・生息する生きものの保全と地域の防災や減災を両立するための知見を蓄積し、農業従事者、地方自治体、企業、学術機関などの様々なステークホルダーと協働で実施するもの。111万ドル/約1.6億円を助成する。
WWFジャパン淡水グループの久保さんによれば、現在、生物多様性の劣化が進行しており、その右肩下りの状況を2030年までに反転することを目指しているという。特に、淡水の魚類や両生類の生き物の減少が、陸や海の生き物と比べても顕著で、世界的に河川などの流量の変化やダム建設などの影響により、淡水の生き物は最も危機に瀕している状況だ。
WWFジャパンの淡水グループは、2016年から九州・有明海沿岸をターゲットエリアとして活動を展開。水田が広がるとともに、水鳥や渡り鳥の生息地・越冬地としてもラムサール条約で登録されるなど重要な地域だ。生物多様性の保全において重要地域のため、九州大学と協働で、過去10年間の生物層の変化を地図で示し、絶滅危惧種や貴重な生物が残存している地域や、自然再生が急務な場所などをマッピングするなどして保全活動に役立ててきた。
久保さんは、次のように語る。「これまで私たちは、生物多様性に配慮した工法を進めましょうというメッセージを出してきたが、激甚化する災害の中で生物多様性を維持できるインフラ(社会的基盤の仕組み)を考えなくてはならない。ひとつの解決策として注目されているのが、ネイチャーベースドソリューションズ(自然に根差した課題解決策)というもので、研究者や地元の行政の方と検討し、モデルになるような事業を展開していきたい」。
「すでに生物多様性の上で重要な地域を特定しており、そこに治水の観点を入れたらどうなるかという検討を進めている。治水と生物多様性の重要地域を特定するようなマップ作りを進めていく」。
治水対策や災害対策に貢献しながら生物多様性にも寄与する水路のあり方を検討し、実証事業をいくつか展開する考えだ。生物多様性にも治水にも役立つ水路のモデルを4年の間に作っていく。そして、流域に生産拠点を置く企業とも協働して進めていくとしている。
〈日本沿岸における漁網などの海洋プラスチックごみ(ゴーストギア)の実態把握プロジェクト〉
2つめのプロジェクトは、日本の海に流出したプラスチック製の漁網やロープ、釣り糸など漁業由来のごみの調査だ。
漁業系の海洋プラスチックごみは総称して「ゴーストギア」と呼ばれ、海底のサンゴや海藻の群落へ悪影響を与え、ウミガメや海鳥などの生物に深刻な被害を与えている。プロジェクトでは漁業組合と自治体との連携のもとダイバーと協働した「ゴーストギア」の実態把握と回収により実態を可視化し、データに基づく提言を行って問題解決に向けた政策の改善をねらう。86万ドル/約1.2億円を助成する。
WWFジャパンの海洋水産グループの浅井さんによれば、年間1100万トンのプラスチックが海洋に流出しており、その中で魚網や仕掛けのカゴなど漁業系の海洋プラスチックごみの「ゴーストギア」は年間64万~110万トンあり、海洋プラスチックごみ全体の1割近くになるという。
これにより、流された漁網に海洋生物がからみついたり、珊瑚や藻場を覆い尽くすなど生態系へのダメージを与えることがある。さらに漁業者への影響もあり、流れ出たカゴや魚網が魚や漁獲物をとってしまうため、漁獲量自体も減るという。
「ゴーストギア」が発生する背景は、大きく3つある。ひとつは、天候不順や潮流など、さまざまな事故的なもので海洋にプラスチックごみが流出してしまうこと。2番目は、操業中にやむなく、意図的に廃棄せざるをえない状態になること。3番目は、違法操業のIUU(違法・無報告・無規制)漁業者が、証拠を隠すために流出させることだ。
WWFジャパンの海洋水産グループでは、「ゴーストギア」の課題解決に向けて、予防と軽減と回復という3つの方策を打ち出している。ひとつは、発生を未然に防ぐ取り組み。2つめは、漁業系の海洋プラスチックごみを、海の中で影響が少なくなるように素材を生分解性プラスチックなどに変える取り組み。3つめは、流出してしまった漁具を放置するのではなく、回収する取り組みだ。
そして、コカ・コーラ財団の助成金を得て取り組むプロジェクトは、どのような形で日本沿海領域で存在しているのかを探りながら、漁業者や自治体の協力を得ながら回収もするプログラムになっている。
WWFジャパンの海洋水産グループの浅井さんは次のように話す。「沿岸域で発見するプログラムで“ゴーストギア探偵”という名前をつけて活動する。仕組みとしては市民ダイバーやダイビング事業者の方々に、日本沿岸地域の実態を探ってもらうもの。ダイバーと自治体、漁協が連携し、ダイビング中に発見した時の写真や位置情報を集めてデータベースを作っていく」。
4年間のプログラムで、調査地をリストアップした後に来年度以降展開地を広げ、4年間で合計7地域を調査していくという。WWFジャパンによれば、「ゴーストギア探偵」は、香港のWWFで2019年から実施され、2019-2020年の報告では、43地点で実施し、119本のレポートと99個の「ゴーストギア」が発見されたという。日本は香港の事例を活用しながら、日本での事情に合わせた形で進め、持続可能な水産業や海洋プラスチックごみの問題に取り組むとしている。
日本のコカ・コーラシステムは、水資源保護をサスティナビリティー戦略における優先事項のひとつとし、製品製造過程における水使用量の削減、工場排水の管理、水源域における涵養活動などを行ってきた。また、プラスチックの諸問題の解決に向けて、2025年までに、国内で販売するすべての容器をリサイクル可能な素材に切り替えるとともに、全てのPETボトル製品にサスティナブル素材を使用することを目指している。
今回の米国コカ・コーラ財団による資金供与では、地域の流域保全やそれによる減災と海洋プラスチックごみの課題解決など、2つのプロジェクトに助成している。
日本コカ・コーラのサスティナビリティー推進部の飯田征樹部長は、次のように語る。「コカ・コーラは、これまでも工場における水使用量の削減や、適切な排水管理、地域の水源や森林の保護などに取り組んできた。その結果、2021年度はグローバルでも167%の涵養率を達成している。ただ昨今では水をめぐる問題はより広い視野でとらえるべきテーマとなっている。たとえば、単に使った水を自然に還すだけではなく、流域の減災や生物多様性の維持、気候変動などにどう取り組むかも含め、私たちはもっと大きな役割を果たしていきたい」。