「笑顔あふれる給食のおかずを」これからの学校給食と食育を語る/学校給食用食品メーカー協会の山木会長と三島副会長対談
学校給食現場は、2022年11月の政府の新型コロナ対処指針の改訂を受けて、適切な対策を行えば会話が可能になった。少しずつ、従来の安全・安心でおいしく、“楽しい”給食に戻りつつあるようだが、原料・エネルギー費高騰に伴う食材価格の高騰が懸念されている。
そこで、給食現場に学校給食用食材を供給する企業33社が集う学校給食用食品メーカー協会の山木一彦会長(理研ビタミン社長)と三島豊副会長(三島食品会長)による対談を企画した。学校給食を支えるメーカーとして、2人はこれからの学校給食に何を思うのか。メーカーの使命や将来を担う子どもたちへの食育の強い眼差しを届ける。
〈“異次元の少子化対策”に給食の無償化を〉
――学校給食をめぐる課題を教えてください。
山木 一番はやはり原料価格の高騰ですね。直近だと卵価がとても上がっています。学校給食費は定額なので、このまま価格が上がり続けると給食が成り立つのかとても気がかりに思っています。一方、学校給食費の保護者への負担軽減のため、2022年から23年にかけて、全国で学校給食費の無償化を実施、検討する自治体が増えてきております。それはとても良いことだと考えます。
――東京都では葛飾区、品川区、足立区、中央区と拡大しており、大阪府高槻市や青森市等でも起きています。
山木 そうした動きがどんどん拡大して欲しいですね。
三島 岸田文雄首相は“異次元の少子化対策”を政策に掲げられています。給食の無償化もここに入れるべきではないでしょうか。
山木 私もそう思います。
三島 思い返すと、給食の無償化の話は協会内では10年ほど前に、塚本哲夫元会長(六甲バター前社長)が言い始めました。協会では、より良い学校給食を目指してメーカー同士が話し合う機会を大事にしています。その時は、無償化の実現に向けて調べるだけに留まりましたが、この無償化の動きがより多くの自治体に広まり、これまで通りの学校給食が続くことを期待しています。
〈本物のワカメを初めて見て大声で感動する子どもも〉
――2022年末、給食時間は適切な対策を行えば会話が可能になり、少しずつ、“楽しい”給食に戻りつつあります。食育への意気込みをどうぞ!
山木 子どもたちにとって、学校給食は楽しく笑顔になる大切な時間です。私たちメーカーは、食材の提供を通じて、給食の充実に少しでも貢献したいと思います。また、食べ方や食材の知識といった食育も重要だと考えています。食育ができるのはご家庭や学校現場だけではありません。メーカー自身も、自分たちの食品について率先して食育を行っていくべきだと考えます。
三島 そうですね。食育は協会としてというのではなく、メーカー単体で様々な取組を行っています。以前、理研ビタミンさんの出前授業の話を聞いたときには感激しました。子どもたちに、「ワカメを知っていますか?」と問いかけて、2~3メートルもあるワカメを子どもたちに見せたそうです。すると、その中の子どもが、それまで食べやすいサイズに切ったワカメしか知らなかったものですから、「うおーーーーーーー」と大声を出すほど感激されたそうです。先生もその子がそんなに感動するとは思わなかったのでとても驚かれたようです。私はその話を聞いて、涙が出そうになりました。
〈デジタル・WEBの活用でコロナ禍でも食育〉
山木 三島食品さんも率先して、工場見学を行われています。慣れ親しんだ食の製造工程を知ることは学習の一環です。我々の時代は浜辺に行けば、ワカメや昆布を見ることができましたが、今はそんな時代ではないので、食育を伝えることは大事だと思います。
三島 子どもたちが工場見学に来てくれるのはありがたいですね。就職面接のとき、「小学校の頃の工場見学がきっかけで応募しました」と言われたこともあります。
山木 しかし、コロナで工場見学がこれまで通りできなくなりました。
三島 当社もリアル開催を中止にしましたが、代わりにWEB上での工場見学を実施しました。DVDを作成し、それを学校に送って、見てもらった後、オンラインで質問に答え、やりとりをしたこともあります。最初は、リアル開催じゃないとつまらないと思いましたが、とても喜んでもらえました。現在も、広島の工場見学を北海道の小学校で行う話が進んでいます。WEBだと距離関係なく実施できるのが良いですね。
山木 コロナが落ち着いてきましたら、Web開催・リアル開催を使い分けて、食育活動をさらに活性化していきたいです。
〈「キムタクご飯」を超える人気レシピを目指して〉
――学校給食用食品メーカー協会の活動について教えてください。
山木 いま最も注力しているのは協会ホームページの充実です。給食で使えるレシピや食材を幅広く紹介しています。ホームページを見やすく、簡便性を高めることで、学校栄養士の皆さんの給食献立の悩みを解消したいと考えています。幸い、アクセス数も増えています。
――レシピ・食材は、様々な用途で検索でき、学校栄養士の先生方にとって大変便利だと思います。行事食や世界の料理など画期的なメニューも掲載されていますが、新たに載せたい料理はありますか。
三島 ホームページでメーカーのコラボをしてみたいです。個別で実施している会社もありますが、協会としてはやっていません。メーカーのコラボという自由なアイディアが、給食の楽しさを増すと思います。当社では、個別にたくさんのメーカーコラボをしています。以前、協会会員の伊那食品工業さんとコラボしたときは、それぞれの強みを活かして相乗効果がたくさんありました。
山木 ホームページには500のメニューが掲載されています。組み合わせを考えるのは面白そうですね。
三島 あと、以前、47都道府県の郷土料理について自社でパンフレットを作ったところ、結構、学校栄養士さんに使ってもらいました。メーカー協会として、いろいろな食材を使って郷土料理を提案すると、さらに面白くなると思います。
山木 郷土料理はそれぞれの市町村でやっておられて、学校栄養士の皆さんの方が我々よりもご存知なのではないでしょうか。
三島 地場の郷土料理はそうかもしれませんが、地場から離れた地域の郷土料理を給食で出して、他都道府県の食事への興味を育むケースも増えているそうです。反響あるレシピを掲載したいですね。現在のホームページ一番人気レシピは、「キムタクご飯」でしょうか。
山木 名前がいいですよね。レシピ検索ランキングがずっと一位です。(笑)
三島 引きずり下ろすのはとても大変です。(笑)
〈笑顔あふれる給食食材の提供とアレルギーへの対応〉
――メーカー協会は2025年に設立50周年を迎えます。今後の抱負を聞かせてください。
山木 子どもたちが楽しみにしている笑顔あふれる給食のおかずを今後も提供していきたいと考えます。日々、学校栄養士の皆さんとコミュニケーションをとり、栄養士の先生が考える食材や方向性を考えながら期待に応える食材やレシピを提案していけるよう、頑張っていきたいですね。
三島 アレルギーに苦しむ子どもたちを少しでも減らすことができないか、考えています。今の子どもたちはとてもかわいそうです。卵と牛乳と小麦のアレルギーがあると、食べられるものがほんとうに限られてしまいます。ニコニコして学校給食が食べられる環境を整えられたらと思います。
※給食総合誌月刊メニューアイディア3月号「学校給食と食育特集」から抜粋、編集。