【山形米卸「アスク」ルポ(後篇)】ケツト科学研の新酒米水分計「ライスタ f7」で検査効率向上、インドでのはえぬき生産にも挑戦

アスク本社併設の直営店で販売する食用の山田錦。
アスク本社併設の直営店で販売する食用の山田錦。

山形の米卸・(株)アスクのルポ後篇では、酒米の品質向上に欠かせない機械の導入事例や各種認証の取得、米の自社生産など同社が新たに始めた事業を紹介する。

【前篇】アスク創業28年、卸に留まらない事業展開、主食用米は首都圏外食店中心、酒米は全国200酒造と取引

新水分計で検査効率向上、自社商品開発にも活用取材時は既に令和4年産の搗精(とうせい)が終了し、機械のメンテナンス時期に入っていたが、繁忙期になると12台の精米機が24時間フル稼働で搗精を行う。短期間で膨大な量の搗精・サンプル調査を行うため、素早く正確にデータを収集することが求められる。

サンプルの検査室にはさまざまな機械が並ぶなか「令和5年産に向けて新たに導入した」(酒米事業担当・船越健太氏)というのが、(株)ケツト科学研究所の酒米専用水分計「ライスタ f7」だ。「ライスタ」は米に特化した水分計シリーズで、少量のサンプルでも数秒で水分値を測定できるのが特徴。

ケツト科学研究所の酒米専用水分計「ライスタ f7」
ケツト科学研究所の酒米専用水分計「ライスタ f7」
ライスタf7。サンプルの量は親指の先程度。搗精歩合約40%で水分値は7・3%だった。
ライスタf7。サンプルの量は親指の先程度。搗精歩合約40%で水分値は7・3%だった。

アスクはこれまで、従来器「ライスタf4」を使用していたが、近年は大吟醸などの高搗精(精米歩合が高く水分値が低い)の日本酒がトレンドとなり、アスクにも高搗精の注文が増加。従来器で測定可能な水分値の下限は8%だったため、測定不能になってしまうこともあった。その場合はケツトの赤外線水分計を使用していたが、赤外線水分計はサンプルを熱で乾燥させて重量を測る仕組みのため「汎用性は高いが測定に10分ほどを要してしまい、効率化が難しい点がネックだった」。

そんななか、2022年11月に発売された「ライスタ f7」は、迅速性はそのままに、測定下限値を7%に引き下げたため、検査時間の大幅な短縮が期待できる。船越氏は「2023年の4月に納品され、令和5年産から本格的に使用する。作業効率を一気に向上できるので非常に楽しみ」と期待を膨らませる。また「ライスタ f7」は、酒米麹(枯らし麹)の水分測定にも対応可能になり、アスクは酒米麹用として別途1台導入した。

搗精した酒米は、玄米とセットで翌年まで保管する。
搗精した酒米は、玄米とセットで翌年まで保管する。

2019年に酒米麹専用の研究室として「ASK ユニークフーズ開発研究室」を竣工。麹を使った自社商品に取り組んでいる背景があり、「日本酒造りにとって麹の水分は重要な要素。これを自社で測定できれば更なる品質向上にも繋がり、商品開発にも役立てるという点から麹専用で導入した」と話す。本社併設の小売店ではアスクが手掛ける麹を使用した調味料や甘酒を販売中だ。

〈精米HACCPのみならずFSSC22000など各種国際認証取得〉

アスクの精米工場は精米HACCPとFSSC22000を取得し、工場内はFSSCの基準に沿ってゾーニングされた設計となっている。また、2010年から事実上の国際基準ともいえるグローバルGAP(GGAP)の取り組みを開始。アスクが認証機関となってGGAPに準拠した生産者と契約栽培を行っている。雄町のなかでも特にランクが高い「赤磐雄町」の生産者ともタッグを組み、GGAPによって付加価値向上を目指している。

酒米の搗精工場、左右に精米機が合計12台並ぶ。
酒米の搗精工場、左右に精米機が合計12台並ぶ。

〈自社生産に着手、インドでもはえぬき作付〉

さらに令和5年産からは4000万円を投じて田植機からコンバインまで一式揃え、本社近くの耕作放棄地ではえぬき3ha弱の作付を開始した。

「稲作は初期投資がかかるため、新規就農希望者で(稲作を)やりたいという人が滅多に出てこない。生産者の減少など農業の課題が山積するなか、まずは自分たちでやってみようという気持ちで始めた」。アスクは以前から試験田を所有し、そこでは原々種の保全や育種も行ってきた。船越氏は「実際の苦労が分かると金額交渉などの面で生産者の立場に沿った提案ができる。また、当社で取り扱う米は毎日社内で炊いてランチで食べたり、出来秋にはその年の最初の米を社員全員で試食したりするため、自社の米の理解に繋がる」とこだわりを見せる。

また、自社生産は国内に留まらない。人口増に伴い著しい発展を遂げるインドに目を向け、2018年にはインドの首都デリーにASK INDIAPvt.Ltd を設立。同社の技術顧問を務める谷藤雄二氏が主導し、はえぬきの栽培を開始した。現地で搗精も行い、業務用に9割、家庭用に1割販売している。谷藤氏は元山形農試勤務で、はえぬきの育種に関わった人物であることから、現地では「谷藤米(タニフジマイ)」という名称で流通しているという。3年産の作付は約100ha、4年産は約320ha まで拡大した。一方、収量面では「インドは2期作が可能だが、現状は日本での反収が10~11俵に対し、インドでは5俵ほどに留まっている」。

桜井努専務は「生産者・アスク・酒造メーカーなどの実需の三者で良いものを作り、広げていきたい。少人数の企業ではあるが、今後も作付や商品開発などさまざまなことに挑戦して米業界をもっと盛り上げていく」と意気込んだ。

〈米麦日報2023年6月19日付〉

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昭和34年(1959年)3月
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