原田産業「無浸漬システム」、豆腐の浸漬時間をわずか数分に、浸漬槽をなくすことを実現
原田産業(埼玉県上尾市)は大豆を中心とした穀物選別機のパイオニア企業だ。
豆腐、豆乳、納豆、みそ、しょうゆなど、大豆を原料とする食品や調味料の安全安心な製品づくりに同社の選別機は欠かせない。豆腐や納豆の製造設備も手掛けており、営業部の堀井浩男部長が2007年から着想した「無浸漬システム」は、大豆を一次加工することにより、豆腐の製造工程で通常12~15時間程度必要とする浸漬時間を、わずか数分に短縮できる画期的な設備だ。複数台の納入実績があり、豆腐プラントメーカーの協力を得て、豆腐工場から浸漬槽をなくすことを実現した。
この「無浸漬システム」は、丸大豆を豆腐の生産開始と同時に一次加工し、吸水効率をアップする仕組みだ。摩砕機以降は従来の設備をそのまま使うことができ、浸漬槽を用いずに豆乳を製造できる。メリットとして、製造時間を大幅に短縮できるので生産調整が容易になり、余剰生産が減ることで製品ロスを低減できることを挙げる。
また、浸漬水が減ることで給排水を削減でき、排水処理が大幅に減るためランニングコスト削減にもつながる。通常は廃棄物となるおからの発生も2~3割減らせるという。
加えて、浸漬大豆としての仕掛品がなくなることから、浸漬工程に振り回されること無く生産が可能になることも訴求する。
廃棄される豆腐のリサイクルは難しく、容器から中身を出して、フィルム、容器、豆腐に分ける必要がある。また、水分の多い豆腐はそのままでは腐敗するため乾燥させるのが一般的であるが、その負担はかなり大きいので豆腐メーカーはできるだけ廃棄を避けたいというニーズがある。フードロスの問題、SDGs及びCO2削減の観点から同システムは今後さらに注目を集めそうだ。
〈地道に営業とテストを繰り返しラボ機の初納入、評価も高く本採用に〉
堀井部長によると、無浸漬のアイデアは豆乳に着想を得たという。40~50年前に、第1次ブームで世に出始めた頃の豆乳は現在のような製法が確立しておらず、エグミも強かったという。その豆乳を飲みやすくするため、豆乳メーカーと協力しながら大豆を一次加工する技術を開発した。
2007年、同装置で一次加工した大豆を豆腐メーカーで試作してもらい、その後も数社の協力を得ながらテストを行ったが、「試せば試すほどおいしい豆腐ができた」という。2014年、消費者も来場できる豆腐の展示会(豆腐フェア)に出展した際、この装置で試作した豆乳と豆腐の試食を行った同社のブースには終始大勢の人が押し寄せていたという。「スイーツみたいと好評で、絶対にいけると自信を持って営業を続けた」と当時を振り返る。
とはいえ選別機メーカーということもあり、「話は熱心に聞いていただけるが実績のない設備は、なかなか受け入れてもらえず導入に至らなかった」という。そうした中、油揚げ用でテストが決まる。
「最初は生地がうまく作れず失敗の連続だったが、テストの回数を追うごとに従来通り生地が伸びた製品ができるようになった。出来上がった油揚げはガラス目も少なくB級品が減ることから、懸念していた歩留まりは従来と変わらない。また、一次加工することと浸漬時間が極端に短いため製品の菌数も従来とほぼ変わりがないと評価を受けた。当時テストに協力いただいた油揚げメーカーから太鼓判を押していただき確信した」と述べる。
その後、地道に営業とテストを繰り返し「無浸漬システム」のラボ機の初納入が決まった。「その評価も高く、後に同装置を本採用いただき、浸漬槽の無い工場が実現した」という。
堀井部長は、「『無浸漬システム』は16年前から考えていたが、これまで紆余曲折を繰り返しここまで来た。今では認めてもらい、お客様にも喜んでもらっている。この無浸漬システムはお客様をはじめ多くの方々の協力が無ければ実現しなかった。協力いただいた皆さまに感謝し恩返しをしたい。これからも地に足を付けながら、焦らずに提案していきたい」と述べる。
原田産業の強みとして、「当社のお客はリピーターが多い。新規案件は約2割ほどだが、ほとんどが紹介だ。売ったら売りっぱなしではなく、定期的に設備の状況の確認に行き、1年点検もこちらから呼びかける」と語る。
堀井部長は携帯電話の番号が記載された名刺を「携帯電話は24時間営業です」と言って渡している。過去には夜中の2時に他社製の機器故障の電話を受け、翌日には納期3カ月の該当製品を社内調整し、4日後には既設機と入れ替え、生産を開始させたこともあるという。たまたま条件がそろい、運が良かったというが、このエピソードは今でも語り草となっているという。「うちに電話して良かったですね。幸運をお持ちですね」と感謝する相手に伝えたという。「“原田産業なら何とかする”という信頼を大事にしたい」と胸を張る。
〈大豆油糧日報2023年7月6日付〉