【ボーソー油脂・金子俊之社長に聞く】設備・仕組み・人員の健全化を取り組み根幹に

ボーソー油脂・金子俊之社長
ボーソー油脂・金子俊之社長

ボーソー油脂は、2020年9月に昭和産業グループとなった。

金子俊之社長は当時、昭和産業で技術責任者を務めており、ボーソー油脂の事業や設備状況、人員を把握していた。そのため、2022年4月の社長就任後も、「取っ掛かりはある意味スムーズだった」と振り返る。

ボーソー油脂は採算の悪い状況が数年続いていたが、昭和産業グループとなった年度から黒字化を達成し、2023年3月期まで3年連続で増収増益となっている。「それまでのコスト低減の努力をベースに、こめ油市場の拡大が追い風になった」とV字回復の理由を説明する。

一方で、「『設備』、『仕組み』、『人員』が、企業として危ぶまれる状況と捉えている。健全化を取り組みの根幹に据えて、現状は道半ばと捉えている」と述べる。

ボーソー油脂は、元々は副産物であった国産原料の米糠から、こめ油などの食品、飼料・肥料向けの脱脂米糠、米糠由来ワックスなどの有用成分、石けん、化粧品などを幅広く提供している。「1947年創業からSDGsの活動を行ってきたが、さらに磨きをかけて社会により必要とされるサステナブル企業を目指していく。原点を強化するのが目指すところだ」と意気込む。

中長期的には「設備」、「仕組み」、「人員」の健全化に取り組む。「設備」に関しては、国内に8工場、2倉庫の10拠点を持つが、「これらは老朽化も進み、順次、改善や更新が必要だ。製品の安全・安心の確保、効率化の推進から優先順位を付け、ブラッシュアップを含めて取り組んでいる」と述べる。

「仕組み」については、昭和産業が現在に至るまでの経験の中から、ボーソー油脂の課題だと感じている部分を順次取り入れ改善しているという。

「人員」については、新卒・中途採用でキャリアや年齢の補完を進めるとともに、従業員一人ひとりが個人の能力、経験を高めて複数の役割をこなせる「多能化」を目指している。「これは昭和産業で取り組んできたことだ。それぞれの特性に応じて多様な働き方ができる職場づくりが、人員の健全化のゴールイメージだ」と説明する。

こめ油の製造を安定的に行えることは最優先の課題だ。「昭和産業もこれまで、安定していない時期はあった。現在のボーソー油脂は20年前のデジャブがある。供給し続けるための設備投資を優先し、その内容を生産系の社員とも議論している」と述べる。

〈昭和産業の積み重ねにボーソー油脂に適した状態が、部分的には先取りできる〉

昭和産業とのシナジーについて、「昭和産業は1936年創業で、ボーソー油脂よりも少し先輩だ。90年近い歴史があり、振り返ると今あるものの多くは、20~25年前からの積み重ねで現在に至っている。ボーソー油脂より先を行く部分が多く、昭和産業が現在に至る途中に、今のボーソー油脂に適した状態があると考えている。昭和産業が4半世紀かけて行ってきたことを、ボーソー油脂は数年で整えることを目指す」と述べる。

一方で、「部分的には昭和産業が目指すところを先取りできるかもしれない。脂肪酸、ワックス、ファインケミカル、石けん・化粧品は、ボーソー油脂の方が先輩面できる。これらは昭和産業時代に私も研究に取り組んだが形にできなかった。研究からだと石橋をたたき壊して渡れなくなるパターンが多い。商品があって事業が動いているのは強みで、さらに発展させていきたい」と述べる。また、「ボーソー油脂の営業拠点は船橋本社のみで、家庭用と業務用を兼務した方が効率的だ。昭和産業は2023年3月に創業来の大きな組織変更を行ったが、目指していることの一部は、小回りの利くボーソー油脂の方が先行できるかもしれない」と期待する。

ほかにも、ボーソー油脂は、国産原料の米糠を集めて使う非常に大きいノウハウを持つ。「対象が何か分からないが、ボーソー油脂のノウハウで国内原料を集めて、昭和産業の新しい事業になるかもしれない。すでに知見の共有、物流の相乗りなどに取り組んでいるが、こういったことを含めて、双方にとってのシナジーになると捉えている」とする。

〈こめ油の特性をさらに認知、国産のこめ油の生産量を増やせる技術開発も〉

好調なこめ油については、「素材の風味を生かすおいしさ、劣化しにくく、ベタつきにくい使用感、トコフェノールなどの健康感のある成分が評価されてきた。家庭用のこめ油は2022年度に160億円に達したとされている。過去8年ほどで、家庭用は20倍近く伸長した。ここ2年程、キャノーラ油などの植物油が高騰する中で、相対的に汎用油と価格差が小さくなり、ユーザーがリピーターになってきたことが大きい」と拡大の背景を分析する。それを踏まえ、「こめ油の特性をさらに認知され、深掘りできれば。そこが研究の役目だ」と語る。

こめ油の原料である国産米糠は、ご飯離れなどで米の生産量が減るにつれ、供給量については今後も課題だ。現状、日本のこめ油産業では、国内の米糠の6割を使って国産こめ油を製造している。残り4割の米糠は、きのこの培地、飼料・肥料用地、ぬか漬けなどに使用されているという。

「米糠を全量こめ油の抽出に使い、出てきた脱脂米糠をこめ油以外の用途に使ってもらえないかと考えている。すぐには脱脂米糠には置き換えられないかもしれないが、国産のこめ油の生産量を増やせるよう、技術開発ができればと考えている。過去にも類似の取り組みは行われている。時間のかかる話だが模索してみたい。実現できれば自給率も向上し、米糠のサステナブルな利用にもつながる」とする。

「原料や製造方法を含めて、こめ油の特性の解明をさらに進めることで価値を高められる。米糠に由来する有用成分については、ある程度確立されているが、まだまだ可能性はある。純度を高めてコストを下げれば、健康素材のみならず、美容素材として活用の幅が広がり、研究する意味はある。米糠の活用の技術開発は歴史的に積み重ねてきた。いくつかの可能性を追求して、将来につなげられれば」と構想する。

〈SNSを通したこめ油の啓発に注力、こめ油の古くて新しい可能性を深掘り〉

2024年3月期第1四半期の実績については、「概ね堅調に推移している。春以降の食品の値上がピークを迎えてきたことが原因と考えているが、買い控えや消費低迷が起きており、業務用、家庭用も、こめ油は荷動きが鈍くなっている。特に家庭用は、菜種油や大豆油の価格が下落しているが、こめ油は価格を維持しているので、消費者の手が伸びにくい状況と見ている」と分析する。

その上で、「家庭用の容量と価格設定は、消費者にとって、より買い求めやすい設定を模索していきたい」とする。具体的には、ユニット単価の安い大容量も1000円を超えると手に取る回数が減る。そこで少しサイズを落として売価を抑え、3ケタの価格実現という方法も模索していく考えだ。

今年度のトピックスとして、SNSを通したこめ油の啓発に力を入れていく。7月に食品ロス削減サイトと共同でキャンペーンを行った。規格外品の野菜のプレゼントは想定以上の反響で、1800人以上の募集があったという。9月は、複数のSMでデジタルサイネージを使ったレシピ紹介を行う予定だ。「こういった努力を積み重ねて、前期実績並みの着地を目指したい」と見通す。

9月には、地元である船橋市内の飲食店タイアップ企画の第1弾として、「ワインと自然派イタリアン trattoriaPIGNA」にて、こめ油を使用したコラボレーションコース料理「米油で作るイタリアコース」を、期間限定で実施している。

「オリーブ油は10月から値上げが行われるが、業務用でオリーブ油を使っているところは価格の高騰で店舗を経営する上で苦労されている。こめ油は安価ではないが、価格は安定しており、オリーブ油から替えてもそれなりにおいしく調理できる。強烈な個性はないが、それゆえに素材の味を引き立てる微妙な甘みなど、『意外とイタリアンにも合う』と評価されている。こめ油にキノコなど別の素材の風味を移して使っており、なるほどと思わされた。こめ油の可能性はまだまだある。昔のボーソー油脂の販促ポスターには、『西洋のオリーブ油 日本のボーソーこめあぶら 天ぷら油』というコピーがあるが、そこにもつながる。こめ油には古くて新しい可能性がある。その辺りを深掘りする研究的な取り組みもしたい」と述べる。

〈大豆油糧日報2023年9月25日付〉

媒体情報

大豆油糧日報

大豆と油脂・大豆加工食品の動向を伝える日刊専門紙

大豆油糧日報

大豆から作られる食用油や、豆腐、納豆、みそ、しょうゆを始めとした日本の伝統食品は、毎日の食卓に欠かせないものです。「大豆油糧日報」では、発刊からおよそ半世紀にわたり、国内外の原料大豆の需給動向、また大豆加工食品の最新情報を伝え続けております。昨今の大豆を巡る情勢は、世界的な人口増大と経済成長、バイオ燃料の需要増大により、大きな変化を続けております。一方で、大豆に関する健康機能の研究も進み、国際的な関心も集めています。そうした情勢変化を読み解く、業界にとっての道標となることを、「大豆油糧日報」は目指しています。

創刊:
昭和33年(1958年)1月
発行:
昭和33年(1958年)1月
体裁:
A4判 7~11ページ
主な読者:
大豆卸、商社、食用油メーカー、大豆加工メーカー(豆腐、納豆、みそ、しょうゆなど)、関係団体、行政機関など
発送:
東京、大阪の主要部は直配(当日朝配達)、その他地域は第3種郵便による配送 *希望によりFAX配信も行います(実費加算)
購読料:
3ヵ月=本体価格29,700円(税込)6ヵ月=本体価格59,044円(税込)1年=本体価格115,592円(税込)