搾油用大豆が数十年ぶり太平洋岸北西部から出荷、パナマ運河の水位低下の影響で安定供給のため/エクセノヤマミズ穀物部に聞く海上物流の現況

エクセノヤマミズ・穀物部宮田恭副部長
エクセノヤマミズ・穀物部宮田恭副部長

パナマ運河の水位低下の影響で、12月積みでPNW(太平洋岸北西部)から搾油用大豆が日本向けに出荷された。業界関係者によると数十年ぶりだという。

品質への懸念や慣習などからガルフ(ニューオリンズ港と日本間)が主流だったが、安定供給のためにやむを得ない状況と見られる。夏には水位は戻ると期待されるが、中東での戦争の影響でスエズ運河も使えない現状では、アフリカ南端を迂回する喜望峰ルートが主流になりつつあるという。

一方、PNWは2週間で日本に届くため、品質や歩留まりなどに問題がないと製油メーカーが判断し、かつ価格次第では今後、PNWが選択肢に入ってくる可能性もありそうだ。大手商社やJA全農と船会社を繋ぎ、大豆やトウモロコシなどの穀物輸送契約を仲介するエクセノヤマミズ穀物部の宮田恭副部長に海上物流の現況を聞いた。

日本の米国大豆の輸入量の約7割は、米国南部のニューオリンズ周辺から穀物を積み、大型のばら積み船をパナマ運河経由で太平洋を横断し、日本で揚げている。このガルフ航路は主に搾油用大豆が運ばれており、PNW周辺の港からは、食品用の大豆が小型のコンテナ船で運ばれている。

今回、水位低下によるパナマ運河の通航制限を受け、搾油用大豆が12月積みでPNWから出荷された。業界関係者によると数十年ぶりといい、宮田副部長も「日本向けの搾油用大豆がPNWに積まれたと聞くのは初めて」と驚く。「4~5月に雨期が始まるので、7~8月辺りに元に戻ると期待する関係者の声を聞くが、ガルフの大豆は喜望峰ルートがメインになりつつある」という。喜望峰ルートはパナマ運河経由よりも20~25日伸びることになる。

これまで搾油用大豆では、PNWは品質などの問題から製油メーカーには使われなかったという。「パナマ運河経由で届くと思っていたものが届かず、在庫が薄くなってきたのではないか。安定供給のためには、背に腹は代えられない」と分析する。

品質面については、「中国はPNWの大豆を普通に購入している。ただ、PNWから輸出される産地の大豆はニューオリンズから輸出されるものに比べて、一般的にたん白質含有率が低い傾向にあり、日本の搾油メーカーはその点を非常に気にしている」と背景を説明する。

〈PNWはガルフの日数の半分、品質や歩留まり、価格次第では選択肢に〉

一方、PNWの利点もある。ポートランド港から積めば2週間で日本に着く。これはパナマ運河ルートの半分の日数で、喜望峰ルートと比べると、3分の1から4分の1の短縮となる。「製油メーカーが品質や歩留まりなどからPNWの大豆が使えると判断すれば、価格次第だが選択肢に入ってくると思う」と見通す。

現状、海上運賃だけ見ると、ガルフは$60超え、PNWは約$30で2倍の価格差があるが、大豆価格はガルフの方が安価だという。「トウモロコシの話を聞く限りは、PNWの方が安価だが、品質的にプレミアムを払ってでもガルフ出しを使いたいという根強いファンはいる」と述べる。

パナマ運河の水位低下以降、1日の通航は制限されたが、一部日本の大手海運会社には優先通行権があり、制限前よりは少ないがパナマ運河経由の出荷もゼロではない。ただ、1月からシステムが変わり、「現在は2日連続では枠を使用できず最大で月に15枠、片道7~8枠ほどになる。自動車船やガス船などでも枠を使うため社内でも取り合いがあるという話は聞いている。状況が変わらなければガルフは喜望峰ルートになるが、赤道を2回またぐことになるので品質については懸念されている」と指摘する。

中長期的な海上物流のトピックとしては、「北極海航路は欧州から距離が近く、穀物を持ってくる場合、パナマ運河やスエズ運河を経由するよりも早い。今後、温暖化の影響で北極の氷が溶けると、中長期的には海上物流が変わる可能性を秘めている。過去には夏場にガスなどが運ばれている実績はある。北極海に面している米国、カナダ、ロシア各国のしがらみもあり、ロシアとウクライナの戦争が続いているため、簡単には進まないと思うが、10年ほど前から北極海航路の話は出ている」と、新たな航路について期待を寄せる。

〈大豆油糧日報2024年2月5日付〉

媒体情報

大豆油糧日報

大豆と油脂・大豆加工食品の動向を伝える日刊専門紙

大豆油糧日報

大豆から作られる食用油や、豆腐、納豆、みそ、しょうゆを始めとした日本の伝統食品は、毎日の食卓に欠かせないものです。「大豆油糧日報」では、発刊からおよそ半世紀にわたり、国内外の原料大豆の需給動向、また大豆加工食品の最新情報を伝え続けております。昨今の大豆を巡る情勢は、世界的な人口増大と経済成長、バイオ燃料の需要増大により、大きな変化を続けております。一方で、大豆に関する健康機能の研究も進み、国際的な関心も集めています。そうした情勢変化を読み解く、業界にとっての道標となることを、「大豆油糧日報」は目指しています。

創刊:
昭和33年(1958年)1月
発行:
昭和33年(1958年)1月
体裁:
A4判 7~11ページ
主な読者:
大豆卸、商社、食用油メーカー、大豆加工メーカー(豆腐、納豆、みそ、しょうゆなど)、関係団体、行政機関など
発送:
東京、大阪の主要部は直配(当日朝配達)、その他地域は第3種郵便による配送 *希望によりFAX配信も行います(実費加算)
購読料:
3ヵ月=本体価格29,700円(税込)6ヵ月=本体価格59,044円(税込)1年=本体価格115,592円(税込)