「すったもんだがありました」CMで宮沢りえが飲んでいた缶チューハイはアルコール度数何%だった?「タカラcanチューハイ デラックス すりおろしりんご」1994年2月発売【食品産業あの日あの時】

宝酒造 2024年9月10日発売の新缶チューハイブランド「発酵蒸留サワー」
宝酒造 2024年9月10日発売の新缶チューハイブランド「発酵蒸留サワー」

「すったもんだがありました」

1994年2月に発売された「タカラcanチューハイ デラックス すりおろしりんご」(宝酒造)のCMで、女優の宮沢りえが発したセリフだ。宮沢は前年の1月、大関・貴ノ花(現・貴乃花 光司)との婚約をわずか2か月で解消。貴ノ花の「愛情が無くなった」発言も追い打ちをかけメディアスクラムの渦中に置かれ、しばらく表舞台からも遠ざかっていた。

【関連記事】サッカー日本代表を救った前園、中田、そして「日清ラ王」!?90年代を席捲した生タイプめんの技術革新、1992年9月21日発売【食品産業あの日あの時】

久しぶりに姿を見せた彼女があっけらかんとした様子で缶チューハイを飲む様子は、商品特徴を巧みに織り込んだキャッチコピーととともに大きな反響と共感を呼んだ。おりしもバブル崩壊の影響が世間一般にも顕在化し始めたころ。「すったもんだがありました」はこの年の新語・流行語大賞で「イチロー(効果)」「同情するならカネをくれ」とともに年間大賞を受賞し、宮沢も鮮やかに芸能界の第一線へ返り咲いた。

宝酒造は1842年(天保13年)の創業以来、発酵・蒸留にまつわる独自技術を磨き上げ、和酒カテゴリーで強い存在感を醸してきた。1984年には日本初の缶チューハイ「タカラcanチューハイ」(度数8%)を発売。同社にとって缶入り製品はこれが初だったが、だからこそ先入観にとらわれない斬新なマーケティングも展開できた。CMには米俳優・歌手のジョン・トラボルタを起用。まだ誰も見たことのなかった缶チューハイを都会的なイメージとともに「セクシーに飲めるヘルシー」な飲料として訴求した。

結果、「タカラcanチューハイ」は発売初年度に600万ケースを売り上げる同社史上最大のヒット商品に。現在では世界中の飲料メーカーがしのぎを削るRTD(レディートゥドリンク)チューハイ市場を創造したと言っても過言ではない。

80年代後半から90年代初頭にかけビール各社による“ドライ戦争”が過熱するなか、宝酒造は自身の切り拓いた缶チューハイ市場をさらに深堀りしてゆく。1993年には果汁20%が入った「タカラcanチューハイデラックス」を発売し、スウィート系チューハイというジャンルを確立。さらなる新規ユーザーの獲得を目指して開発されたのが初の果肉入りチューハイ「すりおろしりんご」と「あらしぼりオレンジ」の2品だった。アルコール度数はともに4%。従来品より低いアルコール度数と果実感を高めた味わいで、フルーティなお酒を求める若い女性たちの飲用を想定していた。

そこで企画されたのが冒頭の宮沢りえのCMだった。宮沢は自身の過去の騒動を逆手に取り、「私だってお酒を飲みたい日もある」という女性たちの気分を代弁してみせた。ちなみにCM撮影当時の宮沢はまだ20歳。2016年に酒類業界団体が酒類の広告に出演するモデルの年齢を25歳以上とする自主基準を定めたため、現代であれば企画自体が成立しないことになる。

厚生労働省が今年2月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を受け、現在缶チューハイ市場には大きな変化が起こっている。アサヒビール、サッポロビールは今後、アルコール度数8%以上の新商品を発売しないと発表。ここ数年の“ストロング系”ブームをけん引したサントリーは、度数3%の「ほろよい」ブランドを刷新し、11月にはネットフリックスとのコラボによる「ほろよい〈ネトフリコーラサワー〉」の発売も予定している。キリンビールも度数3%の新ブランド「華よい」を立ち上げた。

宝酒造も2024年9月10日から3年ぶりの新缶チューハイブランド「発酵蒸留サワー」を発売。度数はこちらも3%。かつての「すりおろしりんご」の4%よりもさらに低く、現在発売中の同社製品の中で最も低アルコールの商品だ。「果皮発酵スピリッツ」を使用することで複雑な香りと厚みを実現しており、度数3%でもじゅうぶんにお酒を飲んだ満足感を得られるという。開発の背景には“飲んだ後にもやりたいことがある”、“飲みたいけど翌日が気になる”という消費者の声がある。宮沢りえのCMから30年、消費者の“飲みたい気分”を探り当てる酒類メーカーの開発競争は続く。

【岸田林(きしだ・りん)】

媒体情報

食品産業新聞

時代をリードする食品の総合紙

食品産業新聞

食品・食料に関する事件、事故が発生するたびに、消費者の食品及び食品業界に対する安心・安全への関心が高っています。また、日本の人口減少が現実のものとなる一方、食品企業や食料制度のグローバル化は急ピッチで進んでいます。さらに環境問題は食料の生産、流通、加工、消費に密接に関連していくことでしょう。食品産業新聞ではこうした日々変化する食品業界の動きや、業界が直面する問題をタイムリーに取り上げ、詳細に報道するとともに、解説、提言を行っております。

創刊:
昭和26年(1951年)3月1日
発行:
昭和26年(1951年)3月1日
体裁:
ブランケット版 8~16ページ
主な読者:
食品メーカー、食品卸、食品量販店(スーパー、コンビニエンスストアなど)、商社、外食、行政機関など
発送:
東京、大阪の主要部は直配(当日朝配達)、その他地域は第3種郵便による配送
購読料:
3ヵ月=本体価格12,000円+税6ヵ月=本体価格23,000円+税1年=本体価格44,000円+税