「すったもんだがありました」CMで宮沢りえが飲んでいた缶チューハイはアルコール度数何%だった?「タカラcanチューハイ デラックス すりおろしりんご」1994年2月発売【食品産業あの日あの時】
「すったもんだがありました」
1994年2月に発売された「タカラcanチューハイ デラックス すりおろしりんご」(宝酒造)のCMで、女優の宮沢りえが発したセリフだ。宮沢は前年の1月、大関・貴ノ花(現・貴乃花 光司)との婚約をわずか2か月で解消。貴ノ花の「愛情が無くなった」発言も追い打ちをかけメディアスクラムの渦中に置かれ、しばらく表舞台からも遠ざかっていた。
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久しぶりに姿を見せた彼女があっけらかんとした様子で缶チューハイを飲む様子は、商品特徴を巧みに織り込んだキャッチコピーととともに大きな反響と共感を呼んだ。おりしもバブル崩壊の影響が世間一般にも顕在化し始めたころ。「すったもんだがありました」はこの年の新語・流行語大賞で「イチロー(効果)」「同情するならカネをくれ」とともに年間大賞を受賞し、宮沢も鮮やかに芸能界の第一線へ返り咲いた。
宝酒造は1842年(天保13年)の創業以来、発酵・蒸留にまつわる独自技術を磨き上げ、和酒カテゴリーで強い存在感を醸してきた。1984年には日本初の缶チューハイ「タカラcanチューハイ」(度数8%)を発売。同社にとって缶入り製品はこれが初だったが、だからこそ先入観にとらわれない斬新なマーケティングも展開できた。CMには米俳優・歌手のジョン・トラボルタを起用。まだ誰も見たことのなかった缶チューハイを都会的なイメージとともに「セクシーに飲めるヘルシー」な飲料として訴求した。
結果、「タカラcanチューハイ」は発売初年度に600万ケースを売り上げる同社史上最大のヒット商品に。現在では世界中の飲料メーカーがしのぎを削るRTD(レディートゥドリンク)チューハイ市場を創造したと言っても過言ではない。
80年代後半から90年代初頭にかけビール各社による“ドライ戦争”が過熱するなか、宝酒造は自身の切り拓いた缶チューハイ市場をさらに深堀りしてゆく。1993年には果汁20%が入った「タカラcanチューハイデラックス」を発売し、スウィート系チューハイというジャンルを確立。さらなる新規ユーザーの獲得を目指して開発されたのが初の果肉入りチューハイ「すりおろしりんご」と「あらしぼりオレンジ」の2品だった。アルコール度数はともに4%。従来品より低いアルコール度数と果実感を高めた味わいで、フルーティなお酒を求める若い女性たちの飲用を想定していた。
そこで企画されたのが冒頭の宮沢りえのCMだった。宮沢は自身の過去の騒動を逆手に取り、「私だってお酒を飲みたい日もある」という女性たちの気分を代弁してみせた。ちなみにCM撮影当時の宮沢はまだ20歳。2016年に酒類業界団体が酒類の広告に出演するモデルの年齢を25歳以上とする自主基準を定めたため、現代であれば企画自体が成立しないことになる。
厚生労働省が今年2月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を受け、現在缶チューハイ市場には大きな変化が起こっている。アサヒビール、サッポロビールは今後、アルコール度数8%以上の新商品を発売しないと発表。ここ数年の“ストロング系”ブームをけん引したサントリーは、度数3%の「ほろよい」ブランドを刷新し、11月にはネットフリックスとのコラボによる「ほろよい〈ネトフリコーラサワー〉」の発売も予定している。キリンビールも度数3%の新ブランド「華よい」を立ち上げた。
宝酒造も2024年9月10日から3年ぶりの新缶チューハイブランド「発酵蒸留サワー」を発売。度数はこちらも3%。かつての「すりおろしりんご」の4%よりもさらに低く、現在発売中の同社製品の中で最も低アルコールの商品だ。「果皮発酵スピリッツ」を使用することで複雑な香りと厚みを実現しており、度数3%でもじゅうぶんにお酒を飲んだ満足感を得られるという。開発の背景には“飲んだ後にもやりたいことがある”、“飲みたいけど翌日が気になる”という消費者の声がある。宮沢りえのCMから30年、消費者の“飲みたい気分”を探り当てる酒類メーカーの開発競争は続く。
【岸田林(きしだ・りん)】