【米国大豆のサステナビリティ2】テクノロジーや農法開発で単収上昇/USSEC
米国大豆の2024年の生産量は1億2,481万t(9月12日現在)と記録的な生産量が見込まれ、現在のところ作柄も順調なことが報告されている。各農家の農場でも概ね順調で平年以上の生産量が期待されているようだ。単収に関しては現時点で53.2Bus/A(同)と過去最高が見込まれている。
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環境負荷となるため、米国では新たな農地を開墾することはないが、新しいテクノロジーの台頭や遺伝子学の研究の実施、イノベーションの登場により、「単収は今後も上がっていく」とアメリカ大豆輸出協会(USSEC)のジム・サッターCEOは強調する。農家サイドも種子開発に投資しており、全米大豆基金財団(USB)など農家が組織する団体が種子や農法の開発に取り組んでいるという。
USSECのサッターCEO、マーケットアクセス・戦略エグゼクティブ・ディレクター北東アジア地域代表のロズ・リーク氏、農家代表のUSSEC会長のランス・レーザック氏、アメリカ大豆協会(ASA)会長のジョシュ・ガックル氏、シンディ・パルスカンプ氏のインタビューを掲載する(インタビューは9月19日実施)。
〈全体的に作物の状況は良好、非常に良い作柄、価格は下がり需要は増加〉
――今クロップの大豆の生産量の見通しは
シンディ ノースダコタ州の私の農地では今年はかなりの水分が確保でき、作柄も非常に有望だ。収穫には少し早く、一番短くて4週間後に収穫となる。今のところポジティブな要因ばかりで過去の生産量を超えると思っている。
ジョシュ ノースダコタ州に農地を持っている。シンディの農地とは150マイル離れており、土壌の状況は若干違う。私の農地では大豆、トウモロコシ、大麦を生産している。大麦は8月に収穫した。大麦の収穫が大豆の収量予測にかなり役立つが、今年は平均より少し上回る形で収穫できた。大豆は来週から収穫が始まり、平年並みの収量が見込めると思っている。米国の農地は広大なので、一部で問題があっても、高品質な大豆が獲れると思う。
ランス 作柄はかなり自信を持っており、良い収量が見込めると思っている。記録的な生産量になるかはわからないが、今朝ニューヨーク州で収穫を始めた農家からは、平均以上でうれしいというメッセージを受け取った。私の農地があるカンザス州の収量も良くなると思っている。今年はトウモロコシが非常によく、過去最高の収量よりも10%良い記録的な生産が見込める。大豆はそこまでではなく、少し下方修正があったが、平均以上の収量になると思う。
ジム 全体的に作物の状況は良好だと考えている。米農務省の発表でも記録的な数字になる見込みだ。まだ確定ではないが、非常に良い作柄だ。過去2年は天候状況も少し不利に働き、収穫面積もふるわなかった。今年は右肩上がりのトレンドラインで非常にいいと考えている。
市場もそこに目をつけて、価格は大分下がっている。ここ2年の価格に比べると、30%か、場合によってはそれ以上下がっている状況だ。今年は供給が豊富ということで、大豆の価格はかなり下がってきている。世界中の畜産・大豆食品業界の人たちと話をすると、彼らの方でもビジネス状況は非常にいいと聞いている。需要も少し上がっているようで、かなり楽観的に構えている。飼料としても食品としても価格が下がってきており、逆に需要は上がってきている。
〈テクノロジーや遺伝子学の研究実施、同じ作付面積・同じCFPでさらに収量は向上〉
――過去最高の単収が予測されている
ジム 53.2Bus/Aは最良の予測になるが、今後数年でさらに上がっていくと考えている。新しいテクノロジーが出てきており、遺伝子学の研究も行われている。新たなイノベーションも起きることで、米国大豆は今後も継続的に供給ができる。森林破壊などは一切なく、同じ作付面積、同じカーボンフットプリント(CFP)でさらに収量を上げていける。
ジョシュ さまざまな装置や、畑における慣行などに加えて、遺伝子学の研究にも投資をしている。農家も新しい種子開発に投資をしている。GPSや肥料だけでなく、品種開発にも力を入れている。例えば、今まではノースダコタ州では育たなかった品種の大豆を育てることができるようになり、単収が上がるということもある。また、米国の農家やさまざまな企業も品種改良に投資している。
シンディ 全米大豆基金財団(USB)という農家で構成する団体が主導し、さまざまな研究をしている。種子の開発や農法の開発なども行っている。農家の視点から農法改善の研究に取り組んでいる。生産者側がより良い農法を開発するために力を入れている。
ジム 農家が自らテクノロジーの開発や普及に努めるだけでなく、国際的な市場に対するコミットメントも行っている。日本は最初に海外オフィスを出した国でもある。なぜ国際市場にここまで力を入れるかというと、大豆は生産量の60%が毎年輸出に回される。その他の作物の輸出割合よりもはるかに高い。そのため、常に国際市場を考えて、長期的な関係構築に力を入れてきた。USSECも農家が自ら資金を出し、生産者が主導で活動している団体だ。米農務省と一緒に大豆を普及させるべく取り組んでいる。日本との長期的なパートナーシップを誇りに思っている。それを維持するために日本のメンバーがおり、生産者が日本のお客に会いに来ている。
今後、作付面積の拡大は横ばい状態になると思う。新たに農地を開墾することはしない。同じ作付面積でも生産量は今後も上がっていく。新たなテクノロジーや農法が開発されることで可能になる。日本は国際市場の中でも大事で、今後も関係構築に力を入れていく。
〈世界6拠点に経営の仕方を学べる「ソイエクセレンスセンター」〉
――USSECの持続可能な目標のうち、飢餓をゼロにするという目標を最重視している
ランス ナイジェリアなどで行っている取り組みを紹介する。USSECとしては「ソイエクセレンスセンター」を各国で立ち上げている。次代の役員になる人を対象に、動物飼料や大豆食品の生産などについて学んでもらう機会を提供する取り組みだ。同センターは世界に6拠点ある。私が行ったことがあるのはナイジェリアのセンターで、家禽類の育て方についての研修が行われていた。若い男性が私のところに来て、今までは役に立たないやり方だったが、利益が出る形で鶏を育てられるようになると感謝された。地域によってさまざまなプログラムがある。
ジム 知識は力だと思っている。よく言われるが、困っている人に魚をあげるとその時は食べられるが、釣りを教えるとその後もずっと魚を取ることができる。同じことを、ビジネスのやり方を教える形で行っている。対象となるのはエグゼクティブクラスの人ではなく、もっと若手になる。若い時にトレーニングの機会がないということで行っている。こうした研修を通して、農家や企業の効率的な経営の仕方を学ぶことができる。経営が良くなれば、その国の人々により多くの食品を提供できるようになるので、この取り組みは飢餓をなくすことにも一役買っていると思う。研修を受ける過程で米国の大豆についても学んでもらえるため、将来のお客になる可能性もある。対象となるのは先進国ではなく、新興国、開発途上国だ。
シンディ 大豆はたん白質に秀れた食品だが、このプログラムの展開により、それ以外の食品にも貢献できる。それによって世界中の食の安全保障が確保できると考えている。
ロズ 日本と米国の間でパートナーシップを組んでいることが、食品の安全保障と飢餓をゼロにするという取り組みにつながる。安全な形で、サステナブルな形で生産を行えるようにして、その上で市場アクセスを確保するという取り組みだ。
――大豆輸入業者や大豆・油脂メーカーといった読者に向けてコメントを
ランス 世界各国を回って気付いたのは、誰を信頼できるビジネスパートナーとして選ぶかについて、懸念が高まっていると感じる。例えばインドからは、ロシアや中国よりは米国と手を組みたいという話を聞く。米国と日本は政治から日々の生活まで非常にいい関係が築けている。メッセージとしては、米国は信頼できるサプライヤーとして、皆さんの食の安全保証に貢献することができる。
ジョシュ 私は米国大豆協会(ASA)の人間でもある。米国には3つの大豆の団体があり、互いに緊密に連携している。ASAではワシントンDCで政策や規制の策定に関する活動も行っている。生産者団体としてロビー活動もしている。米国大豆の60%が輸出されている。自由でフェアな貿易が重要だと思うので、その重要性をぜひ見失わないでもらいたい。よりフェアなトレードをしていくことが重要だ。
シンディ 私が言いたいことは米国の生産者は一所懸命いい作物をたくさん供給しようと頑張っている。日本のパートナーの皆さんとは今後もぜひ一緒にさまざまなことに取り組んでいきたい。
ロズ 日本と米国の業界団体や業界同士では特別でユニークな関係を構築できている。相互に信頼関係があり、リスペクトできる関係だ。日本が成功すれば米国も成功、米国が成功すると日本も成功する状況だと思う。失敗はともに回避すべく取り組みたい。
ジム 業界の皆さんに感謝したい。非常に特別な長期のパートナーシップを米国の生産者と日本の企業は結べており、信頼のある関係だ。オープンにコミュニケーションを続けていくことが重要だと思う。サステナビリティの品質についても継続的に対応が必要で、開かれた自由な貿易のためにもそれが必要だ。お互いに得るものも多く、私としても相互の関係の成功の一部を担えていることをうれしく思う。
〈大豆油糧日報2024年10月17日付〉