〈シグナル〉みんなでシェアする幸せ
長年にわたり子どもたちに親しまれてきた絵本の作者の訃報が続いている。2024年10月には、「ぐりとぐら」シリーズで知られる中川李枝子さんが亡くなったというニュースが飛び込んできた。幼い頃に読み、親になっても子どもに読み聞かせた絵本なので、心に穴が空いた気持ちになった。
絵本で子どもたちに人気のシーンのひとつは、食べ物が出てくる場面だ。
「ちびくろさんぼ」では、溶けたトラからできたバターを使ったホットケーキをおいしそうに感じ、「はらぺこあおむし」も、おいしいものがたくさん出てきて読むたびにおなかが空いてしまう。
その中でも多くの子どもたちの胃袋を刺激したのは、「ぐりとぐら」の大きなカステラだろう。家でも同じように作ろうとした人は多いはずだ。作者の中川さんは、戦後間もない頃に執筆した当時、保育園に勤めていたという。子どもたちにおなかいっぱい食べさせたいという思いが、この物語の根底にあるのだろう。
私が「ぐりとぐら」で最も印象的なシーンは、カステラの匂いで集まってきた森の動物たちが、分け合って食べるところだ。みんなでシェアする姿を見るだけでとても幸せに思ってしまう。
現代は単身世帯が増え、食品や飲料メーカーのCMも一人で食べるシーンが多い。だが、人は育つ中で食事を誰かと分け合う幸せを、生活や絵本などで感じている。食はシェアすると幸せになる訴求は今後もなくならないだろう。