伊藤園が考える高齢社会に欠かせない飲み物、水分補給の「とろり緑茶」と栄養補給の「玄米ミルク」が介護の人手不足で2ケタ伸長、きっかけは4人の専門部署立ち上げから
伊藤園は、高齢化社会を背景とした健康課題解決に向けた専門部署を2021年5月に4名で立ち上げ、健康課題の解決につなげる製品開発を行っている。2022年には「とろり緑茶」(1L紙パック)、2023年には「6大栄養素 玄米ミルク」(125ml紙、2024年9月リニューアル)を発売した。介護者の人手不足を背景に、前年より2ケタ増の販売になっているという。
この専門部署である業務用営業推進四課の久保田敦之課長は、専門部署を立ち上げた背景について次のように語る。「社内の研修で“経営課題解決講座”が2年間あり、そこから企業として社会課題にどう立ち向かい、どう貢献して、どう事業性を確保するかが求められる世の中になると感じた。当時は埼玉県の浦和支店で営業担当をしていたが、病院の先生とも話すうちに、高齢者や病院、介護者のみなさまのお困りごとのいくつかは、当社の強みを生かせる事業領域だと考え専門部署を立ち上げた」。
同部署の主力品である「とろり緑茶」は、伊藤園が東京大学大学院医学研究科に開設した「イートロス医学講座」を通じて共同開発されたもの。特徴は、とろみ付けが不要で、すぐ飲めるため水分補給がしやすいことだ。また、均質で安定したとろみになることや、カフェインが少なめの設計もポイントとなっている。
発売当初は、認知が低いために営業活動に苦労したというが、現在は前年比115%で成長している。販売先は、病院や介護業態の施設と、個人の在宅需要が半々だ。もともとECサイトを通じての注文が多かったが、2024年に入って介護者の人手不足の深刻さから、病院での採用も増えてきている状況だ。
伊藤園のお客様相談室には、利用者から“飲み込みに不安があるので試した。おいしくて感動した”などのコメントが寄せられ、社員の励みになっているという。
2024年1月の能登半島地震では、発生直後から現地の栄養士会から、すぐに「とろり緑茶」を手配してほしいという連絡が寄せられ、1月5日には金沢市内の1.5次避難所に「とろり緑茶」600本を提供した。高齢者を中心に飲み込みに不安がある人への水分補給に役立てられ、現地で救援にあたった管理栄養士などから重宝されたとする。
一方、栄養補給の商品では、「6大栄養素 玄米ミルク」を展開している。小容量、高カロリー(150Kcal)で玄米の甘香ばしい味わい。一般的な牛乳や豆乳飲料と比較しても、栄養成分量、種類ともに多いことも特徴だ。
加齢により心身が老い衰えた状態である「フレイル」の高齢者は、予備軍を含めて約半数いるという。「フレイル」にならないためには、カロリー摂取を制限するのではなく、適切なエネルギーを摂ることが大事になる。
久保田課長は、「カロリー摂取に関する世代別の考え方のギアチェンジが必要になる。高齢になる前のエネルギー制限の考え方からギアチェンジし、高たんぱく、高ビタミンDなど適切なエネルギーを摂ることが大切だ」と話した。「玄米ミルク」を飲み続けてもらうことで栄養課題の解決につなげたい考えだ。
今後に向けては、「高齢者と介護者の困りごとを解決していきたい。当部の2030年の売上目標は50億円。既存製品の販路拡大や商品の認知向上、新商品の開発を進めていく」(久保田課長)とした。
高齢社会の日本は、70歳くらいまでは元気な高齢者が多いが、75歳を境に要介護(要支援)認定率が増加する傾向にある。一方で、介護職の人手不足と社会保障費の増加、介護難民の増加が課題になっている。
さらに、経済産業省によれば、家族介護者負担は増大し、2030年の経済損失は約9.1兆円となるという。また、同年には318万人が仕事をしながら家族を介護する「ビジネスケアラー」になることも予測されている。
伊藤園による介護者の手間を減らし、高齢者においしく水分や栄養を補給してもらう取り組みは、高齢者の増加と人手不足の加速で、今後ますますニーズが高まりそうだ。