ネスレ「Good for You」戦略の日本市場へのインパクト、数十億人にバランスの取れた食生活を届ける挑戦
世界最大の食品・飲料企業であるネスレは、数十億の人々においしくバランスの取れた食生活を提供するため、「Good for You」戦略を展開している。この戦略の一環として、2024年秋からカロリーが一目でわかる表示を、日本の「キットカット」のパッケージに採用した。
「Good for You」戦略は、次の2つの柱に基づいている。1つ目は“ポートフォリオと製品”で、製品群を4つの区分に分け、それぞれの価値と役割を明確にし、優先順位に沿って各ブランドの活動を展開している。2つ目は“コミュニケーションとサービス”で、バランスの取れた食事への選択肢を促す情報やサービスを提供し、消費者の責任ある食生活を支援している。
たとえば、菓子類は“時折の贅沢”として楽しむ製品群に、ブラックコーヒーは“毎日の良い食習慣”に分類されるなど、食品の種類に応じた摂取頻度を提案している。
さらに、菓子やアイスクリームのマーケティングに関しては、新たな約束(コミットメント)を設定しており、有料メディアでの広告対象を16歳未満に制限する方針を追加した。これまでは13歳未満が対象だったが、年齢を引き上げてより厳格に対応する形となる。これは、日本の食品業界には珍しい発想であり、ネスレの取り組みが日本の市場に影響を与える可能性もある。
「Good for You」は単に栄養価の高い食品を推奨するだけでなく、すべての製品がバランスの取れた食事に役立つと捉えている。ネスレは、従来から「栄養・健康・ウエルネス」を理念に掲げ、数十億の人々においしく、バランスの取れた食生活をサポートしてきた。「Good for You」では、製品をセグメントごとに分類し、それぞれの役割を明確化している。
ネスレ日本コーポレートアフェアーズ統括部ウェルネスコミュニケーション室の原田大輔室長は次のように語る。「グローバル企業として、社会に良い影響を与えることを目指している。消費者に寄り添い、製品自体だけでなく全体の食生活がバランスよくなるように、情報提供やコミュニケーションに努めている」。
ネスレの製品セグメントは以下の4つがある。
1 「時折の贅沢」=適度に楽しむための製品群(菓子やアイスクリームなど)。
2 「心の楽しみ」=バランスの取れた食生活の一部として、楽しむための製品群(調理済み・調味料食品、粉末液体飲料など)。
3 「毎日の良い食習慣」=バランスの取れた食生活の一部として、毎日習慣的に摂取する製品群(水、ブラックコーヒー、乳製品、プラントベースなど)。
4 「専門的な栄養」=特定のユーザーニーズに対応した栄養設計の製品群(乳児用飲食料、サプリメント、医療用製品、栄養補助食品など)。
ネスレは、栄養価の高い製品(毎日の良い食習慣と専門的な栄養)において売上成長を目指し(GROW)、研究開発やマーケティング投資をしている。また、バランスの取れた食生活を推奨するため(GUIDE)、製品設計(糖類や飽和脂肪酸の基準など)や、消費者の食事に責任を持って、栄養価値のある選択肢を推奨するため、パッケージを含めさまざまな媒体を通じて情報提供を行っている。
さらに、2024年からは、子ども向け菓子やアイスクリームの1食分を110Kcal以下にし、複数回分の量を包装する製品にも、1食分のカロリー表示を採用している。消費者が正しい情報に基づいて食品を選べる「インフォームドチョイス」を推進し、パッケージ、店頭、ウェブサイトでの栄養情報も表示している。
ネスレ日本も4つのセグメントに応じた製品を展開している。“時折の贅沢”の「キットカット」、“心の楽しみ”には「ネスカフェ スティックミックス」や「ネスレ ミロ」、“毎日の良い食習慣”には「ネスカフェ レギュラーソリュブルコーヒー」、そして“専門的な栄養”は「アイソカル」などを展開する「ネスレ ヘルスサイエンス製品」に分類される。
「ネスカフェ」では、1日3杯のコーヒーを通じて、健康的な食習慣や人とのつながりを提案し、バランスの取れた生活に寄与している。スティックミックスは“心の楽しみ”、ブラックコーヒーは“毎日の良い食習慣”に分類されている。
「キットカット」は、バランスの良い食生活でのスマートな間食をサポートするため、大袋タイプでは1食分や1回分の個包装にしたほか、視覚的・直感的にエネルギーが一目でわかるデザインを採用した。
加えて、ネスレのウェブサイトでは、管理栄養士監修の簡単レシピ約3000品目を紹介し、食事を通じた楽しみ方を提案するコミュニケーション活動を行っている。
女子栄養大学栄養学部栄養生理学研究室の上西一弘教授は、食事摂取におけるバランスの重要性について、次のように述べている。「栄養成分表示を活用し、エネルギーや栄養素の摂取量を把握することが、健康的な食生活に重要だ」。
その上で、1回分の栄養成分表示に取り組むネスレの活動を評価し、「菓子や飲料などの食品は、1食分や1回分を明確に表示することが望ましい。現在は、企業によってバラバラな表記なので、見る人によって解釈が異なり混乱する恐れがある。消費者が容易に栄養成分を認識できる機会づくりが求められる」としている。