レトルトカレー戦国時代、パイオニアの「ボンカレー」が“個人消費”で攻める理由
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〈レトルトカレー市場が拡大、1000億円規模に〉
レトルト食品のパイオニアである大塚食品の「ボンカレー」が、3月17日から「ボンカレーネオ にんにくマシマシ 辛口」を発売する。これまで、“ずっと、家族のまんなかに。”をキーメッセージに展開していた同ブランドが、好みが分かれる味の商品を投入するねらいは、生活者の嗜好や食シーンの変化が背景にある。
近年、レトルトカレー市場は成長を続け、2017年にはカレールウの市場を上回った。現在では地方発祥や名店監修など多様な商品が売り場に並ぶレトルトカレー戦国時代ともいえる状況で、簡便性や個食ニーズの高まりを背景に需要が拡大している。コロナ後に反動による一時的な減少を経て、備蓄需要の増加も追い風に市場は安定成長している。
日本国内のレトルトカレー市場は、2022年時点で約965億円規模(富士経済調べ)となり、その後も微増を続け、現在は約1000億円規模とみられる。
市場の成長を支えるのは、単身世帯や共働き家庭の増加に加え、備蓄食としての需要の高まりだ。一方で、単価の高いプレミアム系や名店監修タイプの差別化商品の人気も拡大しており、「日常食」と「高付加価値商品」の二極化が進んでいる。この動きにどう対応するかが、各メーカーにとって重要な課題となっている。
〈ボンカレーの成長と戦略〉
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世界初の市販用レトルト食品として1968年に発売された「ボンカレー」は、この市場変化にどう対応しているのか。同ブランドは、コロナ前と比べて2ケタ成長となり、順調に販売を伸ばしている。「ずっと、家族のまんなかに。」をキーメッセージに掲げながらも、時代の流れに適応し、生活者の多様なライフスタイルに合わせた「個人消費」に対応する高付加価値商品の開発を進めている。
「ボンカレー」は長年、家族向けの定番商品として親しまれてきたが、市場環境や嗜好の変化に対応し、個々のニーズに合わせたラインアップも強化している。2009年に大きめにカットした具材感やスパイスを強調した「ボンカレーネオ」を投入し、2024年は前年実績を上回る販売を記録した。この流れをさらに強化し、より個性を際立たせた取り組みとして発売するのが「にんにくマシマシ」だ。
ボンカレーの主力商品である「ボンカレーゴールド」は、ファミリー層に支持されている。一方で、個々のニーズに合わせた製品を提案する中で、「ボンカレーネオ」シリーズが新たな柱となっている。同社は、これまで「ボンカレー」が築いてきたブランド価値を活かしつつ、ターゲットを広げる試みを続けている。
〈「にんにくマシマシ」の登場〉
「ボンカレーネオ にんにくマシマシ 辛口」の主なターゲットは、30~50代や60代以上の男性。家族向けの商品とは一線を画し、「もっとニンニクを感じたい」という消費者の声に応えた一品だ。にんにくの量を従来の2倍に増やし、コチュジャンを加えたことで辛さと旨みの深みをプラスし、レトルトカレーでは珍しいスパイシーでパンチのある味わいにしたという。また、「ボンカレーネオ」の特徴である、赤ワインでソテーした牛肉と濃厚な味わいのソースを使用している。
2023年8月に「ボンカレーゴールド うま辛にんにく 辛口」、「ボンカレーネオ 焦がしにんにく やみつきスパイシー辛口」を発売したところ好評で、“もっとにんにくを感じられるカレーが食べたい”のユーザーからの声に応えた。
レトルトカレーは「手軽さ」の魅力がある一方で、数多くの製品がある中で味の差別化が難しい。そこで各社は特徴ある製品の開発に乗り出しており、ハウス食品は2月から自社レトルトカレー史上最大の肉量の新商品「カレーでニクる。」を発売。エスビー食品も同月に「町中華」シリーズからガラスープの旨みが楽しめる「中華カレー」を投入している。
そうした中で「ボンカレーネオ にんにくマシマシ 辛口」は、これまでのボンカレーのイメージを覆す“攻めの商品”として開発された。「ガツンとした刺激的な風味」と「電子レンジ調理の手軽さ」を両立させることで、従来のユーザーだけでなく、新たな層にも訴求していく。
〈カレーうどんや植物由来の素材使用の商品も〉
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「ボンカレー」は、新しいフレーバーを投入するだけでなく、レトルトカレーの楽しみ方の多様化にも対応している。
2024年3月には、カレーうどん専用の「ボンカレー 旨みを味わうカレーうどんの素」を発売した。公式ブランドサイトではアレンジレシピを提案しており、「麺」を使うレシピが閲覧数上位だったことから開発に至ったという。カレーうどんの商品化は、「ボンカレー」ブランドで初となる。
そして、2022年3月には動物性原材料不使用の「ボンカレーベジ」を発売した。野菜と豆を使い、具材の煮とけた味わいや食感が楽しめる植物由来の素材のおいしさを引き出したカレー。小麦粉不使用・グルテンフリーが特徴だ。健康志向や動物性原材料不使用の製品を求める人々に対応したという。
担当者は、「お客様から自分のよく知っているブランドで植物由来原料の商品があって嬉しい。安心して食べられるなどのコメントが寄せられた。これからも世の中の嗜好や環境の変化に対応するブランドでありたい」と話す。
大塚食品は、これまでも業界でいち早く電子レンジ調理に対応したほか、アレンジメニューの発信にも注力。競合からは、カレー専門店監修やプレミアムタイプ製品の台頭が続く中で、「ボンカレー」は老舗ブランドとしての立ち位置を確立しながら、生活者のニーズに応えることで市場の変化に対応し、新たな市場の開拓を進めている。
そして、同社は「ボンカレー」の最大の差別化ポイントとしてイメージを挙げる。一般的に食品のイメージは味が多いが、「ボンカレー」は家族と一緒に食べた思い出など、情緒的な評価が非常に高いという。
この長年培われたブランドの価値を維持することと、市場の変化に柔軟に対応し進化を続けることが「ボンカレー」のブランド成長のカギとなる。
特に、「ボンカレーネオ にんにくマシマシ 辛口」をはじめとする個々のニーズに合わせた商品の投入は、レトルトカレー市場の今後の方向性を示唆している。レトルトカレー戦国時代の中で、「ボンカレー」はどのような進化を遂げていくのか。市場の変化に対応するため、パイオニアによる挑戦が続いている。