【米国大豆の需給展望】食品用輸入大豆のトップシェア商社・兼松に聞く

兼松 食糧素材部食品大豆課長代理の藤井賢二氏
兼松 食糧素材部食品大豆課長代理の藤井賢二氏

◆2025年産作付面積は予測通り減少、搾油は増加で輸出の減少余力2億5200万bus

米農務省が3月31日に示した2025年産大豆の作付意向面積は8,349万500Aと、事前の市場予測通り減少した。米国の農家は作物選択の際、大豆とトウモロコシのうち、より儲かる方を選択する。現在はトウモロコシ有利の比価で推移している。

作付面積は2024年比で約300万A減となり、2024年の単収50.7bus/A(1bus=約27.2kg)を当てはめると、生産量は1億5,200万bus、約410万t減少することになる。

一方で、引き続き需要の強い搾油は5,000万~1億bus程度増える可能性があり、合わせた2億~2億5,200万busが期末在庫の引き下げ要因となる。大豆の最大輸入国である中国は米国から2,000万~3,000万tの大豆を輸入しているが、米国の大豆に対してかけた報復関税(4月4日時点で47%)によって、中国向け輸出量が減るのは確実とみられる。

「減少余力が2億~2億5,200万busで、それ以上に減るかがポイント」と解説する兼松の食糧素材部食品大豆課長代理の藤井賢二氏に、米国大豆の需給展望をはじめ、種子開発も行っているオハイオ州の事業会社KAPI(KG Agri Products,Inc.)の直近の取り組みなどについて話を聞いた(取材日は4月8日)。

――3月末の米国大豆作付意向調査の発表数字を受けて

当初の予想通り、大豆は約8,400万A弱で、トウモロコシは逆に微増となった。シカゴ相場における大豆の11月限月をトウモロコシの12月限月で割った比価は約2.2だ。一般的な損益分岐点は2.35~2.4とされている。トウモロコシ有利ということもあって大豆作付は減少した。

約300万A減となるが、2024/2025年の単収50.7bus/Aをベースにすると、生産量は約1億5,200万bus、410万tほど生産量は減少する。昨年と同程度の需要であれば在庫率は下がることになるが、ある程度織り込み済み、同時に発表された3月1日時点の在庫は1億6,100万busと、ほぼ事前予想と変わらなかったことから、相場もほぼ動かなかった。

――州ごとの増減トレンドは

それほど変わりなく、全般的に減っている。作付面積で1番大きいイリノイ州は30万A減の1,050万A、2番目のアイオワ州は45万A減の960万Aとなった。他の州も概ね同じくらいの比率で下がっている。増加しているオハイオ州は昨年取れ高が悪かった一方で搾油工場が増えているため需要が強いのだろう。昨年は東側のオハイオ州やケンタッキー州の作柄が悪かったこともあり、その分増えた可能性もある。

◆中国向け2,000万t出荷済み、25年産もある程度米国からカバーせざるを得ない

――商社としての需要予測は

現状、2024年産の需給報告は、輸出需要が18億2,500万bus(約5,000万t)に置かれている。ただ出荷ペースが早く、すでに90%は出荷されている。気になる中国向けも約2,000万tは出荷済みで、成約済未出荷分は確かなもので60万tとなっている。

仕向け先不明の200万tのうち、中国向けがどの程度含まれているかは不明だが、60万から最大で260万t、恐らく100万t強は残っていると考えている。ただ、この量自体は知れており、24年の需給バランスにはそれほど影響しない。4月10日に発表された米農務省の需給報告でも変動無い事が確認された。

5月の新穀年度の発表では、作付が大きく遅れない限りは現状の需要の数字が出され、単収については高めの数字が出てくると考えている。昨年も5月のスタート時は52.0bus/Aと高い数字で出され、結果的には3月時点で50.7bus/Aに下方修正されている。

例年5~6月は需要が修正されないパターンが多い。そこから天候相場に入ってくるが、6月は時期尚早で基本的に数字はそれほど動かさないと思う。7~8月に状況を見ながら数字を動かす可能性がある。

2024年産は中国向けがほとんど出荷されており、残りは100万tのイメージだ。あとは豊作となった南米でカバーされる。

米国大豆の中国向けの需要が生まれるのは、25年産収穫期の10~12月だ。仮に米国への報復関税が47%(基本関税3%、3月4日大豆に10%、4月4日追加関税34%※取材後9日50%、11日41%上乗せ発表)であっても、ある程度は米国からカバーせざるを得ない。当然ながら輸入量は減るが、どの程度か予測するのは難しい。

米国の大豆の輸出量5,000万tのうち、中国向けが2,000万~3,000万tを占める。仮に1,000万t(3億6,700万bus)減少するとインパクトはかなり大きいが、まだ米国産カバーが期近で差し迫って必要では無く、その時期まで関税が継続されるかなど、不透明過ぎてなかなか予測するのは難しい。

――中国にとってやはり米国産大豆の輸入は必要か

南半球の産地はブラジルとアルゼンチンがある。春から秋にかけては調達できるが、秋から春にかけては両国の在庫が薄くなっており、価格も高くなっている。北半球の大きな産地は米国しかない。カナダは1,000万tに満たないので、米国からカバーしないと持たない。

2025年産の米国の収穫期(10月以降)から南米で収穫できる間(3~5月)に、米国産大豆でどの程度、中国向けのカバーが必要になるかだ。昨年の輸出需要18億2,500万busから調整して、弱めの数字を出してくると思うが、在庫率としてはそれほど変わらないだろう。

整理すると、2025年の米国産大豆の作付面積は300万A減り、昨年の単収50.7bus/Aを当てはめると、生産量は約1億5,200万bus減る。仮に需要が昨年と同じであれば、期末在庫がその分減少する。

ただ、輸出需要は恐らく減り、1億5,000万busほど落ちると、生産量の減少とバランスする。それ以上に調整されるのかがポイントだ。1億5,000万busよりも輸出需要が減ると、在庫率は上がる可能性がある。

一方で搾油需要は強く、3月時点で24億1,000万busある。油の価格もかなりいい値位置で需要も強い。搾油の数字は25億bus辺りに上方修正される可能性がある。約1億busの上げ要因となる。生産量が1億5,200万bus減り、搾油需要が1億bus増加する。合わせて2億5,200万busが中国を含めた需要減の余力になる。これ以上輸出需要が下がると在庫率が上がる。そこまで下がらないとなると、在庫率は下がることになる。

――バイオ燃料需要について

直近はスローだ。シンプルに食用油の需要が強い。仮に輸出需要が下がっても、政策的にバイオディーゼル向けの消費を増やして調整してくることもありえるが、まだ分からない。シカゴ相場は現在$10程度で推移しているが、インフレでコストも上がっている農家的にはかなり苦しい。採算分岐点は$11という人も多い。$10になると大豆を作っても儲からない。$8~9になると、政策的に需要調整してくる可能性はある。

◆コンテナは全般的に遅れ気味、関税の影響で流通量が減ることは懸念

――国内における大豆需要は

2022年産や2023年産はNon-GMO大豆の供給がタイトだった。コロナ渦では需要がそれなりに強かったこともあり、大豆加工品メーカーは多めに在庫を持っていた。その後、需要が少し鈍化してコストも上がり、2023年産の消化、2024年産への切り替えが全般的に少しスローな状況だった。端境期に売ろうとしていた玉は、現地サプライヤーや商社勢も含めて厚めのポジションで持っていたところ、販売先がなかなか見つからず全般的に重かったと思う。

現在は、播種前契約で事前に数量を押さえているメーカーが多く、ある程度量は決まっている。2023年産と2024年産の切り替えが全般的に少し遅かったので、2025年産は全体ボリュームとして少し抑えられると考えている。

――国産大豆の価格が下がっている影響は

国産大豆も昨年は豊作だった。国としても増産の方向で進められているが、需要が追いついておらず、安値で出ているとは聞いている。ただ、ある程度輸入大豆の価格も落ち着いてきたので、一部で見られた輸入大豆と国産大豆の価格の逆転現象は持ち直していると見ている。

――コンテナの状況は

コンテナは全般的に遅れ気味ではある。手配できるコンテナがない、あるいは現地のドライバーの確保もエリアによっては容易ではない。特に田舎ではドライバー不足とも聞いている。ただ、コロナの時期のようなレベルでの物流混乱はない。関税の影響だが、発動前に駆け込みはあったと聞いている。

今後、中国から米国に入るコンテナが減ると少し不安はある。米国から中国向けのコンテナも減るのでバランスは合うかもしれないが、全般的に流通量が減ることによるコンテナタイト化=物流混乱は懸念している。

◆KAPI高たん白・高単収両輪で種子開発、米国は食品用大豆の主産地、安定供給努める

――貴社のばら積み本船の取り組み

物量としては昨年から大きく変わっていない。コンテナ流通に不安が生じてくると、ばら積み本船で安定在庫を持ちながらの出荷は、物流のリスクヘッジとしてはいい。当社はコンテナが主流だが、ばら積み本船にも対応できるのが強みだ。

――KAPIにおける種子開発の進捗は

米国は大きい種子会社が農家の数の多いGMOの種子開発に寄っており、日本の豆腐・豆乳メーカーなどの実需家が求める高たん白の品種の開発にはそこまで力を入れていない。KAPIでは農家も、実需家も両方見て種子を開発している。

高たん白品種は少なくなってきている。大きな種子会社であるベンソン・ヒルが現在、チャプター11という事業再生を前提とした清算の申し立てをしている。裁判で棄却されると清算ということになるが、高たん白を出せる品種を持っている種子会社はそれほどない。

特に南部地域、イリノイ州の南部やミズーリ州などでは、Non-GMOの食品用大豆業界では同社の種子が植えられており、パイも大きいので影響が出てくる可能性がある。農家は高単収の種子でなければ採算性が合わなくなるため、KAPIでは高たん白と高単収の両輪を考え、種子開発に取り組んでいる。

われわれもKAPI以外のサプライヤーから種子を購入し、農家と契約してもらえるようにお願いしている。物量を増やして、ばら積み本船プログラムでも取り組みたいと考えている。

――米国の土壌状況や天候予報について

降雨が過多気味で、土壌がウェット気味のため作付機械が入れない。深刻ではないが作付は少し遅れるという見立てでいる。その後の天候については今のところ大きな懸念はなさそうだ。作付のタイミングは重要で、早い方が単収のポテンシャルは上がる。そのため農家は5月末までには作付したいと考えている。それ以上遅れると、その後の天候が良くても単収のポテンシャルが落ちる。早く終わるに越したことはない。遅れがどのくらいになるかは注視する必要がある。

――カナダ産大豆の需給状況は

米ドルに対してカナダドル安なので、米ドル変換すると価格的にも輸出の競争力が出やすい。特に25年産の播種前の部分では、カナダ産の方が売りやすい部分はあった。Non-GMO大豆の比率は15%程度で変わらず。現在はオンタリオ州とケベック州がメインだが、内陸のマニトバ州でも大豆が作付され始められており、Non-GMOも増え始めている。

オンタリオ州などはトロントヤード(港)を使うが、マニトバ州はフレートが高いウィニペグのコンテナヤードになる。ただ、CBOT(シカゴ商品取引所)以外にもローカルベーシスがあり、マニトバ州はまだベーシスが低いと言われている。フレートが高くても現地の価格が安いためバランスし、増やせるポテンシャルはある。

――このほか業界のトピックがあれば

Non-GMO大豆の需要が伸びて欲しい。最近ではデザート系の豆腐も続々と市場に出てきているが、裾野が広がればと思っている。実需家の豆腐、納豆メーカーが要望される大豆は、品種を含めて多岐にわたり、細かい要望がある。

それらに応える取り組み、品種の提案、ばら積み本船プログラムを含めた品種・物流提案を、引き続き行っていきたい。今年は関税の影響で混乱が増えてくると思う。米国は引き続き日本の食品用大豆の主産地となるため、KAPI社も活かしながら、安定供給に努めていきたい。

〈大豆油糧日報 4月16日付〉

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