100年企業がひとつのコーヒー豆にこだわる理由 キーコーヒーの原点「トアルコ トラジャ」

インドネシア・スラウェシ島だけで生産される「トアルコ トラジャ」
〈インフラ整備から手掛けて農園を再生し名品を復活〉
2020年に創業100周年を迎えるキーコーヒーが、社員一丸で取り組んでいるコーヒーがある。それが、インドネシアのスラウェシ島だけで生産される「トアルコ トラジャ」だ。

もともと同島のトラジャコーヒーは、18世紀頃に「セレベス(スラウェシ)の名品」と呼ばれるほど評判が高かったが、大戦の混乱の中で市場から姿を消していた。それをキーコーヒーが道路や橋の造成などインフラ整備を手掛け、荒れ果てた農園を再生して品質を高めた結果、現在では日本だけでなく、欧米からも高い味覚評価を得るコーヒーになった。

「トアルコ トラジャ」の専用コーヒーカップ

「トアルコ トラジャ」の専用コーヒーカップ

だが、「トアルコ トラジャ」は同社のコーヒー焙煎量のうち数%の構成比に過ぎない。なぜ、数多くのラインアップの中で、同社はこのコーヒーに最も注力しているのか。それは、100周年に向けて、より高品質のコーヒーを提供したいという企業ビジョンと、付加価値の高い商品を提案しない限り持続的成長は望めないという現実的な課題、そして、コーヒーの未来を守りたいという3つの考えによるものだという。

「トアルコ トラジャ」は、1978年に発売をスタートし、今年で40周年を迎える。最初の約30年間は同社の中心的なアイテムとして展開してきた。だが、10年ほど前から市場環境の変化により、キーコーヒーの事業内容が劇的に変化してきた。イタリアの名門イリカフェ社とエスプレッソの「イリー」を展開するなど事業が多角化するとともに、業務店や生活者のニーズに応えていくうちに、付加価値商品から低価格帯の商品まで扱うコーヒーのアイテム数が増えていき、「トアルコ トラジャ」に集中して販売する意識が薄れていたという。

トラジャ農園で品質向上に向けた取り組みを視察する柴田裕社長(中央)

トラジャ農園で品質向上に向けた取り組みを視察する柴田裕社長(中央)

〈100周年に向け“原点回帰”で再活性化目指す〉

そのような環境の中で、原点に立ち返り、「トアルコ トラジャ」を再度注力するきっかけとなったのが、100周年に向けて企業ビジョンを決めたことだという。

「100周年に向けて、当社は“信頼度ナンバーワン”、“最初に選ばれるコーヒー会社になる”と掲げています。そこに向けて進むためには、当社が理想とするコーヒーの“トアルコ トラジャ”を自信を持って提案することが必要なのではないかという結論になりました。それは、結果的にキーコーヒーブランドの他の商品を輝かせることにもつながると考えたからです。もう一度“トアルコ トラジャ”を見つめ直し、社員自身が再認識するという活動が必要だと考え、トラジャ40周年をきっかけに全社一丸となって取り組もうと決めました」(経営企画部広報チームリーダーの磯田義尊氏)。

同社は今年に入り、トラジャ活性化策の手始めとして、社員から「トアルコ トラジャ」についての思い出を募集した。すると、9割以上の社員から次のようなエピソードが続々と寄せられたという。「研修の際に現地で飲み、おいしさに感動しました。インドネシアで作られていますが、作り手の想いと精選過程の妥協を許さない取り組みは、まさに日本品質だと感じました」(業務用支店・営業所勤務)、「製造現場で、コーヒーの豆の面や粉の表面のきれいさ、そして良い香りで“トアルコ トラジャ”だとわかります。品質の良い豆は計量も安定するので造りやすさの違いでわかります」(工場・物流課勤務)。
 
磯田氏は、「正直、ほっとしました。社員は心の中にDNAとして“トアルコ トラジャ”に熱い思いを持っていることがわかったためです。コーヒーのアイテムも増えましたし、グループ会社も増えましたが、やはり新入社員の頃から“トアルコ トラジャ”と一緒に仕事をしてきたことで、一人一人の社員の心に根付いているのだと改めて感じました」とする。
 
同社は「トアルコ トラジャ」の再活性化に向けた取り組みを昨年から強化し、まずは業務用商品で取り組んだところ、営業担当者の意識が変わり、販売数量が大きく伸びたという。また、家庭用商品も今春から次々にリニューアルし、全社的な意識の高まりもあって売り上げが好調に推移しているという。

コーヒー人気が高まりハンドドリップへの関心も広がる(キーコーヒーによるセミナー)

コーヒー人気が高まりハンドドリップへの関心も広がる(キーコーヒーによるセミナー)

〈高品質のコーヒー豆の育成は持続的成長に不可欠〉
コーヒーは、地球環境の変化による気候変動により、2050年までにアラビカ種のコーヒー栽培に適した多くの土地が、栽培に不向きになるという研究機関からの警告が出ている。その中で、持続的においしいコーヒーを生産できる施策の重要性は増している状況だ。自社農園を中心に品質の高いコーヒー豆の育成に取り組む同社の活動の重要性は増してくる。

磯田氏は、「これまで私たちが語ってきたトラジャの活動は、日本の企業であるキーコーヒーがインドネシアの島で、良いコーヒー作りのために開拓して、地域住民や自然、政府と一緒になって取り組み、出来たコーヒーを買い上げて販売してきたため、どうしても人道援助のように思われていた側面もありました。しかし、私たちは2020年を超えて、裾野が広がったコーヒーの価値をよりいっそう高める活動をしない限り、持続的な成長はないと考えています。品質を落とすことなく、いつまでもお客様においしい魅力的なコーヒーをお届けしたいというのが会社の使命であり、そのために“トアルコ トラジャ”の活性化に向けた活動をいっそう強化していく考えです」とする。

ひとつのコーヒー豆への情熱が、企業の持続的成長と、おいしいコーヒーの未来のカギを握っている。

【関連記事】
・コーヒーの新加工技術を開発、氷温熟成で香りと味わいを向上/キーコーヒー
・「ジョージア」も500mlPETコーヒー参入 商戦活発化、各社「クラフトボス」を追う
・“透明なカフェラテ”発売 市場への浸透なるか/「アサヒ クリアラテ from おいしい水」
・コーヒーの消費量 6年ぶりに減少も“拡大傾向”は継続