サントリー緑茶「伊右衛門」6~7月“前年比5割増”の大躍進、背景に“緑の水色(すいしょく)”と“竹筒ボトル脱却”
好調な販売を続ける理由について、サントリー食品インターナショナルのブランド開発事業部の多田誠司課長は、「中味のおいしさを体現するため、液色の“緑”の訴求を行ったことが好調の要因となっています。パッケージでは、鮮やかな緑色をお客様が体感できるよう、ボトルを覆う面積の少ないロールラベルを採用しました」と話す。
さらに、コミュニケーションでは、芦田愛菜さんや加藤浩次さんが、それぞれ新しくなった「伊右衛門」と出会い、その変化に気が付いて味わいを伝えるCMが好評だったことも、認知拡大に大きく貢献したという。
今春の「伊右衛門」のリニューアルは、同社にとってブランド誕生以来、最大のチャレンジだったとする。もともと2004年に発売され、2019年には累計販売本数100億本を達成したメジャーブランドだが、緑茶飲料は各社が注力するカテゴリーのため競争が激しく、ここ数年は減少傾向が続いていた。
サントリー食品は、2020年4月のリニューアルで、中味においては一番茶をこれまでより高い比率で使用し、焙煎技術と抽出方法を研究して、淹れたてのような豊かな香りや旨み、雑味のない穏やかな渋みを両立したおいしさを目指した。そして、最大の特徴は、独自技術により緑茶本来の鮮やかな“緑”の水色(すいしょく)を実現したことだ。「売り場で見て、瞬間的にわかる価値は何かを追い求めました」(多田課長)。この取り組みが奏功し、ユーザーが一気に増えた。
さらに、525mlと600mlの製品では、ラベルをはがしてより “緑”の液色を体感してもらう仕掛け行い、ボトル中央部には、丸茶マーク、招き猫、亀、だるまを配し、ラベルの裏側にもフクロウや七福神など縁起の良い絵柄を複数デザインした。「はがして分別する際の楽しみになった」という声も寄せられているという。
同社のデザイン担当者は、「ボトルに伊右衛門のシンボルでもある“丸茶”マークや“縁起物”のエンボス(凸凹のデザイン)を入れることを思いつきました。また、ラベル裏にも絵柄を複数パターン用意することで、ラベルをはがすたびに様々な縁起物が出てきたら面白くてラベルを剥がしたくなるのではないかという発想です。必然的に美しい“緑”の水色が目に入るというアイデアでした」とする。
そして、「伊右衛門」のイメージとして定着していた“竹筒ボトル”を取りやめる決断したことも大きな変化だ。多田課長は、「2004年発売当時の“竹筒ボトル”は、無菌充填で出来た緑茶に相応しい画期的なボトルでした。しかし、そこから16年が経過し、当たり前のボトルになってしまいました。淹れたてのような色、味、香りを実現した画期的な新・伊右衛門に相応しい画期的なボトルが必要であり、 “竹筒ボトル”を捨てる必要がありました」と話す。
竹筒ボトルを採用していた従来の「伊右衛門」(画像は2012年のデザイン)
この“竹筒ボトルをやめる”という大胆な提案は、イメージの大きな変更とともに、新ボトル採用に関わる莫大なコストがかかるため、実現に向けて難航が予想されたが、多田課長は、「2004年発売時の初代“伊右衛門”を担当したメンバーである沖中(沖中直人、現サントリーウエルネス社長)、水口(水口洋二、現サントリーコミュニケーションズ・デザイン部長)・牧(牧秀樹、現サントリー食品・商品開発部部長)らの後押しもあり、スムーズに社内で承認されました」とする。
とはいえ、長年のイメージを変更するのは、相当な覚悟が必要だったようだ。「“失敗したらどうしよう”という不安と、“絶対に売れる”という自信が交互に頭を支配する情緒不安定な時期が続きました。比率は7:3で不安が多く、つらい時間が長かったですね」(多田課長)と振り返る。
秋以降、「伊右衛門」は“緑”の水色に注目してもらう施策をさらに進め、ラベルを剥がす行為をより面白くする仕掛けに取り組むとともに、CMやキャンペーンを展開する計画という。競争の激しい緑茶飲料市場で確固たる地位を築くため、まずはトライアルユーザーをさらに獲得するねらいだ。