持続可能な経済と社会を目指す食品・飲料各社、コロナ禍で消費者の関心集める活動が活発化〈サステナビリティの取り組み〉
企業に対してはビジネス活動の一環として行う投資・イノベーションを通じ、社会課題を解決することが期待されている。今年は在宅時間が増えた人が多く、“おうち時間”に注目が集まった年となった。ラベルレスボトルなど、飲料ではネット通販の拡大に対応した容器包装の提案が進むとともに、コロナによる休校中の子どもに向けて環境や健康意識を高める特設サイトも増えている。消費者へ一緒に取り組むことを呼びかけるサステナビリティ活動が目立ってきた。
SDGsの最終年である2030年は、これまで人類が経験したことのない世界になるだろう。国連によれば、世界の人口は2015年に74億人だったが、2030年には82〜89億人と予想され、資源の争奪戦の恐れがある。一方、日本の人口は2015年に1.27億人だったが2030年には1.17〜1.22億人とみられ、労働力不足や国内需要の減退が考えられる。環境問題の悪化で、農作物の減収・品質低下、大規模災害の発生も予想される。
最近のサステナビリティに関する動きでは、グレタ・トゥーンベリさんの行動から世界で若者たちの気候ストライキが起き、米国では主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルが昨年9月に、株主第一主義を見直すと発表。従業員や地域社会など全ステークホルダーの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。
その中で、食品産業は、おいしくて、栄養を与え、五感を楽しませる食品を安定供給することで、SDGsが目指す豊かで健康な社会に貢献できる産業である。人々の健康的な生活を支える事業を持続させるため、どのような製品やサービスが必要かを考えて取り組んでおり、サステナビリティは事業そのものといえる。コロナ禍でも、食品・飲料企業のサステナビリティ活動は進んでいる。
〈社外と協力し消費者に啓発〉
今年のサステナビリティの活動で印象的なのは、消費者に向けて環境の啓発活動を各社が進めていることだ。日本コカ・コーラとコカ・コーラボトラーズジャパンは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)と「今の時代に適したPETボトルとの付き合い方」をテーマに「リサイクルStudy Togetherイベント」を9月に実施した。
これはプラスチック資源循環利用の可能性を示すため、USJのパーク内で実際に回収されたPETボトルから作られたエコバッグを主題に、そのリサイクル過程を歌や踊りで表現したもの。正しく分別すること、きれいな状態で回収することの重要性を社外と連携しながら伝えた。
また、自社アプリの「Coke ON(コークオン)」では、10月20日の“リサイクルの日”に合わせ、ペットボトルに関するクイズに答えると、アプリのスタンプをプレゼントするキャンペーンなども行っている。
ネスレ日本は、JAXAと共同で、親子で楽しく地球環境を学んでもらうエコプロジェクトを4月からスタートした。特設サイトでは、宇宙から見た地球の環境変動を「宇宙兄弟」のキャラクターが解説している。また、「わくわくさん」が講師となり、使用済み容器で工作を作る試みも「ネスカフェ」ブランド公式のYouTubeで紹介している。
〈ラベルレス商品が急拡大〉
そして、今年はECチャネルで商品をケース単位で購入する動きが増え、自宅で飲料を飲む機会が増えている。そこで、飲料業界で目立ったのがラベルレス商品導入の動きだ。消費者からは、エコ活動への参加を身近に感じられることと、処分する際に商品のラベルやシールをはがす手間がいらない点で支持されている。
アサヒ飲料は、2018年5月からケース販売専用の「アサヒ おいしい水」のラベルレス商品を展開した。PETボトルからロールラベルをなくすことでラベルに使用される樹脂量を約90%削減している。その後もラインアップを広げて市場をリードしている。
2019年8月には、味の素AGFが「ブレンディ ボトルコーヒー ラベルレス 無糖」を発売した。今年は、コカ・コーラシステムが「い・ろ・は・す」「綾鷹」「爽健美茶」「カナダドライ ザ・タンサン・ストロング」でラベルレスに取り組み、サントリー食品も「サントリー天然水スパークリングレモン」「伊右衛門」のラベルレスを展開し、“はがす手間いらず”の飲料が拡大している。
嗜好品のコーヒーでも、パッケージのプラスチックを減量する取り組みが進んでいる。UCCは、今春から真空包装のレギュラーコーヒー「UCC CLASSIC」で、パッケージに使用するプラスチックを約13%削減した。キーコーヒーも9月から真空包装の「PREMIUM STAGE」の豆アイテム、有機アイテムの包材に植物由来原料を一部使用、また、豆アイテムのパッケージフィルムを4層構造から3層構造へ変更した。
味の素AGFは、昨年10月に通販限定発売した「『ブレンディ』スティック カフェオレ エコスタイル」で、スティック商品の包材の一部に紙を使用、同サイズの従来スティックよりプラスチック使用量を約20%削減した。
飲料・コーヒーに限らず、包装材のプラスチック削減に取り組む食品メーカーは増えている。いつもの買い物で無理なくエシカル消費につながる商品が今後も増えそうだ。
〈SDGs×食品産業の特設サイトを農水省が開設〉
農林水産省は、食品業界の積極的な参画を得られるよう実践的にSDGsに取り組んでいる食品事業者の活動を中心に、SDGsと食品産業のつながりを同省のサイトで紹介している。SDGsに取り組む食品事業者へのインタビューや、「17の目標と食品産業とのつながり」として28企業の事例が掲載されており、今後の参考になりそうだ。
◆農林水産省「SDGs×食品産業」
〈食品産業新聞 2020年11月5日付より〉