日東紅茶「ミルクとけだすティーバッグ」コーヒー・チャイ投入し“総合カフェブランド”へ/三井農林
三井農林が手掛ける紅茶ブランド「日東紅茶」は、2021年から「ミルクとけだすティーバッグ」シリーズを展開している。これは、同社が掲げる“価格から価値へのシフト”の一環として開発した商品。ティーバッグに充填したミルクが“とけだし”、お湯を注ぐだけでミルクティーが抽出できる。
2023年秋には「ミルクとけだすティーバッグ」シリーズに、コーヒーやチャイを投入し、“総合カフェブランド”化を進めている。紅茶にとどまらない「日東紅茶」ブランドの新たな展開を、三井農林の企画本部商品企画・マーケティング部部長の竹田一也氏と、同部の宮尾浩司氏に聞いた。
〈日本で最も歴史ある国産紅茶ブランド/日東紅茶〉
「日東紅茶」(当時は三井紅茶)は、1927年に発売された日本で最も歴史のある国産紅茶ブランドだ。かつて盛んだった和紅茶産業は1971年の紅茶の輸入自由化によって急速に衰退し、国内競合メーカーが次々と紅茶事業から撤退するなか、三井農林は事業を継続し、現在ではマーケットリーダーになっている。
90年を超える歩みのなかで、リーフからティーバッグ、パウダー、液体へと商品の幅を広げることで時代のニーズに応えてきたという。企画本部商品企画・マーケティング部部長の竹田一也氏は「海外にルーツを持つ紅茶ブランドが多いなか、日本発祥のブランドとして、日本の水や日本人の味覚に合う紅茶を突き詰めてきたことは『日東紅茶』の強みだ」と話す。
紅茶の品質を守るため、現在も1日あたり100~200点、年間約5万点もの茶葉をテイスティングし、厳選して買い付けを行っている。これにより、安定した味わいと価格での提供が可能だという。自社の研究施設で紅茶に関する研究を進め、その技術や知見を蓄積してきた。このような長年の取り組みにより、ロングセラー商品「日東紅茶デイリークラブ」シリーズや「日東紅茶 DAY&DAY」は、現在も三井農林の家庭用事業の売り上げの中核を担う存在となっている。
日東紅茶ブランドの課題はユーザーの高齢化だ。「人口が減り嗜好も多様化しているなかで、今の時代に合う商品や未来の紅茶ユーザーの開拓につながる商品が求められるようになった。加えて、今夏の猛暑のように気候変動の問題が顕在化しており、あらゆる面でスクラップアンドビルドを進めていかなければならない」と竹田氏。
〈「価格から価値へのシフト」テーマに商品開発〉
食を取り巻く環境が大きく変化するなか、三井農林は近年「価格から価値へのシフト」をテーマに掲げ、新しい発想での商品開発に力を注いでいる。これからの未来をユーザーとともに創っていくという思いを込めた日東紅茶のブランドエッセンス「TEAの『もっと』を創り出そう。」を策定し、日々の企業活動にあたっているという。
2021年秋に発売した「日東紅茶 ミルクとけだすティーバッグ」は、「価格から価値へのシフト」の一環で誕生した商品だ。従来の国産品にはない、ミルクと茶葉が一緒に入った新しいタイプのティーバッグで、お湯を注ぎ約90秒でミルクティーが出来上がるというもの。「オリジナルブレンド」「アールグレイ」の2品を発売すると、コンセプトの面白さや使い勝手の良さが支持され、SNSの「X(旧:Twitter)」では10万「いいね」となるなど話題となり、一時は供給が追い付かなかったという。これをうけ翌22年には「ほうじ茶」「しょうが紅茶」「はちみつ紅茶」の3品を追加している。
〈「ミルクとけだすティーバッグ」新ユーザーの呼び込みに成功〉
「ミルクとけだすティーバッグ」シリーズについて竹田氏は「家庭用紅茶ティーバッグ市場に新たなユーザーを呼び込み、ティーバッグの平均単価を引き上げることができた」と分析する。
三井農林によると現在、家庭用紅茶市場の半分超を占めるティーバッグは、メーカー各社の主力品をはじめとする汎用ティーバッグ中心だったかつての構図から変化し、2022年ティーバッグの販売数量は前年を下回った。だが22年のティーバッグ販売金額は前年比約2%増となり、平均単価は直近4年間で30円ほど上昇しているという。この間、競合他社を含めた値上げの影響は少ないと同社は見ており、三井農林の「ミルクとけだすティーバッグ」シリーズをはじめ、「はちみつ紅茶」などの高価格帯ティーバッグが貢献し、市場のポートフォリオが変わってきたと言えそうだ。
さかのぼれば、長らく日本の家庭用紅茶市場では、新奇性のあるティーバッグ商品が少なかった。新商品といっても、香料やブレンドなど原料の配合による調整で新しさを表現する場合が多く、商品設計そのものの目新しさを打ち出す商品はほとんど見当たらない。
2002年にユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング(現在はエカテラ・ジャパン・サービス)が、イギリス発祥の紅茶ブランド「リプトン」でピラミッド型ティーバッグを採用したことが直近の“革命”といえるだろう。この三角錐型のティーバッグは発売から20年ほど経ち、現在ではメーカーを問わず国内に流通する多くの商品に導入されている。家庭用紅茶市場で革新的な商品が生まれにくい理由について、竹田氏は「1960年代より日本に普及したティーバッグの完成度がもともと高かったためだ。価格、抽出効率、利便性のどれをとっても非常に優れており、根本的に改善する必要性がなかったのだろう」と話す。
〈社内の裏技レシピをヒントに開発〉
画期的な新商品が生まれにくいティーバッグカテゴリーで、三井農林が新しい発想の商品を創るヒントとなったのは、藤枝工場(静岡県藤枝市)内の“裏技レシピ”だった。工場内の従業員の間では、同社のインスタント商品「日東紅茶 ロイヤルミルクティー」に、ティーバッグの「デイリークラブ」を浸けて飲むアレンジが定着しており、これを1つのティーバッグで表現できないかと考えたのがきっかけだ。
フィルターと茶葉、ミルクパウダーをそれぞれ選別し、紅茶メーカーが提案する“本格的なミルクティー”「ミルクとけだすティーバッグ」として、約3年かけて商品化した。ミルクティーといえば甘い飲料をイメージする人が多いなか、ティーバッグユーザーの6割が無糖派という調査結果と、甘さの度合いにより好みが分かれることを避けるため、一部の商品を除きあえて砂糖不使用にこだわっているという。発売にあたって藤枝工場内に新ラインを導入し、本格的な生産に乗り出した。
〈“とけだす”技術を活用し、総合カフェブランド化〉
「ミルクとけだすティーバッグ」は、2021年春のテスト販売を経て、同年秋に一般発売を開始。3年目の今秋は「ミルクとけだす珈琲バッグ カフェラテ」「キャラメルラテ」「スパイス香るチャイ」、「果実とけだすティーバッグ ピーチティー」「ハニーアップルティー」の5品を追加し、計10品体制へとラインアップを一気に拡充している。
なかでも日東紅茶からコーヒーを投入するのは今回が初めてのこと。紅茶ブランドがコーヒーカテゴリーへ参入する狙いについて、竹田氏は「あくまで『ミルクとけだす』という特徴的なプロダクトを世の中に広めたいと考えたうえでの選択だ。その際、日東紅茶というブランド名に捉われるべきではないと判断した。今コーヒー市場にはレギュラーコーヒーを使った砂糖不使用タイプのカフェオレ商品は見当たらず、当社がオンリーワンの価値を提供できる」と話す。直接抽出による香り立ちの良さや味わいを「ミルクとけだす」シリーズ独自の価値として訴求していくという。
開発を担当した商品企画・マーケティング部商品企画第二室の宮尾浩司氏は「ミルクに合わせても負けないようボディ感やコクを出すレギュラーコーヒーにこだわり、焙煎やブレンドを調整した。ティーバッグに入れられる粉末量は限られるため、この限界値の中で最も美味しく感じられる味をめざした」とする。主なターゲットは30、40代に設定。同シリーズのユーザーをはじめコンビニエンスストアやカフェユーザー、ドリップコーヒーやインスタントユーザーなど幅広い層からの流入を想定している。
今シーズンはこの2品のほかに8種類のスパイスを使用した「スパイス香るチャイ」やミルクの代わりに粉末果汁と紅茶を組み合わせた「果実とけだすティーバッグ ピーチティー」「同 ハニーアップルティー」を新たに発売した。
「2021年の発売前はキャンプやピクニックなどアウトドアでの飲用シーンを想定していたが、いざ発売すると朝食のお供や時間が無い時など、家の中で飲用していただく機会が多いことが分かってきた。お湯を注げば簡単にカフェのようなドリンクメニューができるという特徴を生かし、まずは嗜好飲料で総合カフェブランド化を図っていく。その先は消費者の声や使用実態をふまえながら嗜好飲料のカテゴリーに捉われず、柔軟に商品化を検討していきたい」(竹田氏)。