ネスレ日本がJR貨物グループと連携し貨物鉄道による輸送を中距離にまで拡大、「環境負荷低減とトラックドライバー不足に対応」
ネスレ日本は2023年9月、JR貨物(日本貨物鉄道社)と、そのグループ会社である全国通運社と日本運輸倉庫社とともに、貨物鉄道による輸送を2024年2月から段階的にさらに拡大すると発表した。これまで貨物鉄道の輸送は、500キロ以上の長距離輸送を対象としてきたが、より貨物量の多い中距離輸送にも広げていく考えだ。
ネスレ日本は、物流分野において、トラックなどの車両輸送と比較して、環境負荷が少なく大量輸送が可能な貨物鉄道や船舶などの輸送に切り替える「モーダルシフト」を推進している。国交省の資料によれば、二酸化炭素(CO2)排出量において、貨物鉄道輸送はトラック輸送の約11分の1,船舶輸送の約2分の1とされている。また、トラックドライバーの長距離走行を減らせるため、ドライバーの負担軽減の一助になることが期待される。
中距離輸送(500キロ以下、200~350キロが中心帯)は、利便性やコストの面からトラックを使用する企業が多く、貨物鉄道による輸送はほとんど行われていない。今回の取り組みは、ネスレ日本とJR貨物グループが持続可能な物流モデルの構築に向けて、共同で取り組みを進めることに合意したものだという。
具体的には、2024年2月よりネスレ日本島田工場(静岡県島田市)からJR貨物百済貨物ターミナル駅(大阪府大阪市)を経由した関西方面への輸送を開始する。その後、ネスレ日本霞ヶ浦工場(茨城県稲敷市)からJR貨物の隅田川駅(東京都荒川区)を経由して東北方面への輸送に取り組むなど、段階的に貨物鉄道輸送への移行を進める考えだ。
モーダルシフトを推進するねらいについて、ネスレ日本の担当者は、次のように話す。「当社は、持続可能な物流への取り組みで業界をリードしていきたい。環境負荷低減とともに、トラックドライバーや倉庫の作業員の方の負荷を軽減するような物流に取り組む会社になりたい」。
物流は、生活に不可欠な物資を運搬するなど社会の重要な役割を担っている。その一方で、物流業界では、気候変動に対応する脱炭素化の推進が遅れていることや、来年からトラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間までとなる「物流の2024年問題」があり、トラックドライバー不足が懸念されている。持続可能な物流のために取り組むべき課題が数多くあるのが現状だ。
ネスレ日本がモーダルシフトを推進する背景と、今後の物流の方針について、同社サプライ・チェーン・マネジメント本部物流部物流企画課の伊澤雄太課長と、同本部物流部の坂口治夫プロジェクトマネージャーに話を聞いた。
--モーダルシフトを積極的に進めているとききました。その理由を教えて下さい。
坂口氏 ひとつは、ネスレが2005年に発表し、全世界で事業活動の基盤にしているCSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)の、社会の課題解決にも取り組むことで会社の持続的な成長を目指すという考え方がベースにある。それが大きなきっかけになった。
それ以降、物流部門でも、トラック以外にも船や貨物鉄道を活用してCO2削減などに取り組むモーダルシフトを本格的に考えるようになった。
もうひとつは、日本で少子高齢化が進んでおり、特に物流に携わるドライバーや倉庫で働く現場でも人手不足が懸念されるようになってきたことだ。そのため、少しでも早く取り組むことが会社にとっても、社会にとっても重要だと思って取り組んできた。
--これまでモーダルシフトを軌道にのせるために工夫してきたことはありますか。
伊澤氏 例えば、2016年に貨物鉄道コンテナを活用した輸送でIoT技術を導入した。これは、IoTの機器(ビーコン)を活用して、トラックの位置情報から到着時間を予想し、工場側の受け入れ準備を整えたもの。この技術により荷作業がスムーズになり、貨物鉄道の定時運行にしっかり間に合わせることができた。
モーダルシフトというと、トラックか貨物鉄道か、船舶かという大きな枠の話になりがちだが、細かく紐解くとドライバーさんの負荷や待ち時間まで考慮することが重要で、対策を取る必要がある。現在ではデジタルの予約システムが開発され各社が導入しているが、当時は予約システムの開発会社が視察に来られていた。
また、2020年からは、長距離輸送をなくすために「ネスカフェ ボトルコーヒー」の場合、中継拠点を構え、九州や東北など、いわゆる500キロ圏内のところに拠点を置いている。
--トラックドライバーや倉庫で働く方々の労力を少なくする取り組みを始めたのはなぜですか。
伊澤氏 当社のCSVの取り組みにおいて、誰がお客様かということを考えた時に、われわれ物流チームは、物流業者さんやドライバーさん、営業倉庫で働いている方々が対象(お客様)だと考えている。その方々にどのようなベネフィットを提供できるかということを考えて仕事をしてきた。
--2024年2月から静岡の島田工場から大阪の百済貨物ターミナル駅まで中距離の貨物鉄道での輸送を始められると聞きました。
坂口氏 貨物鉄道での輸送に取り組む距離帯を増やし、今回は中距離の取り組みを開始する。食品・飲料メーカーではまだどこもやってなかったことに今回大きく踏み出す。背景には「物流の2024年問題」がある。2024年問題解決の一つのソリューションと成りえるため、将来的に多くの企業が検討を開始すると予想される。ネスレ日本としては先行して導入を目指す考えだ。
ただ、今回の取り組みは、鉄道ダイヤ改正など多くのインフラ課題解決なくては実現できなかった。そこで、2023年9月にそれぞれの強みを持つJR貨物グループ(JR貨物、全国通運社、日本運輸倉庫社)とパートナーシップを強めることで課題解決を目指すことになった。
--貨物鉄道での中距離輸送にこのタイミングで取り組む理由は。
伊澤氏 モーダルシフトには、貨物鉄道や船舶のスケジュールや規格に関する制限がある。キャパシティについても飽和状態になることが考えられた。そのため、先行して取り組むことで優位性を確保することも大きな狙いの一つだ。
一般的にモーダルシフト化率は、多くの企業で半数以上とするのは難しいという会社が多いと思う。それを切り替えるためにチャレンジしなきゃいけないのは、長距離だけでなく、中距離と短距離の輸送を変更していくことだと考えている。
ただ、これまではモーダルシフトへ本格的に移行するのはとても難しかったが、現在の追い風は、圧倒的な石油価格の高騰や人件費の高騰がある。それにより物流費が上がっていくと、これまで貨物鉄道輸送というのはコストが高いイメージだったが、同じような価格になる可能性が出てくる。これから先は、モーダルシフトのキャパシティを確保することが重要になる。将来のドライバー不足は300キロや500キロ圏内の輸送においても起こると思うので、そこに対応しようというのが大きな狙いだ。
坂口氏 これまでは静岡の島田工場で製造した「ネスカフェ ボトルコーヒー」などを毎日20台ぐらいのトラックを走らせて関西方面へ運んでいた。貨物鉄道になれば、1日2便くらいで済むようになる。1日40コンテナ程度を運ぶ予定で、その代わり静岡~大阪間のトラック輸送はやめる計画だ。
伊澤氏 「ネスカフェ ボトルコーヒー」は貨物鉄道で運ぶが、何か災害が起きた際などのバックアップとなるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)はとても重要な要素だ。
--貨物鉄道で駅に到着した後はどのような流れですか。
伊澤氏 JR貨物グループである日本運輸倉庫社は、国内唯一の側線倉庫のノウハウを持っている倉庫事業者だ。大阪の在庫拠点となる百済駅は、倉庫の中に線路が入っていることが特徴だ。通常であればレールで運んだコンテナは在庫拠点へトラック輸送されるが、そのままレールで運んでトラック輸送することなく倉庫に格納し、お客様へ運ぶ流れだ。
レールと倉庫を組み合わせることで、お客様から見た場合は大きな違いは見られず、これまで通りのサービスを提供することができる。災害などで貨物鉄道が止まった場合も、在庫拠点として貨物駅を利用することで対応できると考えている。
--ネスレ日本が物流で目指す姿は。
坂口氏 ネスレは、世界最大の総合食品飲料企業だが、日本ではコーヒーとチョコレートを販売しているイメージが強く、食品飲料業界の中で決して規模は大きくない。だが、われわれは持続可能な物流の分野で、業界をリードする会社になりたい。引き続き、環境やトラックドライバー、倉庫の作業員の方々の負荷を軽減するような取り組みを進める。
伊澤氏 持続可能な物流における業界のリーディングカンパニーとして、取り組みを推進する。物流の課題解決に向けて新しいことをどんどん取り入れて、時代に合わせた物流網を構築していくことが私たちの使命だと思っている。
今回の中距離輸送への貨物鉄道活用については、2023年9月の発表以来、物流業界の関係者から数十件の問い合わせが来ており、ニーズは高いと感じている。現在は、トラック輸送において他の食品飲料企業と一緒に混載して配送するケースもある。そのような協業は、貨物鉄道輸送になればいっそう高まるだろう。社会を巻き込みながら、より良い物流を目指していく。