サントリー自販機にキャッシュレス新アプリ「ジハンピ」、“どこでも・すぐ買える”原点回帰で6割以上の自販機を一気にキャッシュレス化へ

財布を持ち歩かない人が増え、現金しか使えない自動販売機(自販機)が「買えない存在」になりつつある。サントリーグループで自販機事業を担うサントリービバレッジソリューションは、自販機向けキャッシュレスアプリ「ジハンピ」を3月より全国で順次展開し、本格的にサービスを開始した。
同社は自販機のキャッシュレス化を2025年の最重要テーマに掲げており、「ジハンピ」対応自販機を15万台、アプリの200万ダウンロードを目標に取り組む。これにより、既存のキャッシュレス対応自販機と合わせて、20万台以上、同社展開台数の6割以上がキャッシュレス化される。
3月27日に都内で開かれた事業戦略発表会では、同社の森祐二社長が「全国に約210万台ある自販機は、圧倒的な顧客接点を持つ重要なチャネル。利便性向上のためにもキャッシュレス対応は不可欠」と話した。
コンビニエンスストアが全国約6万店であるのに対し、圧倒的に多い売り場のある自販機だが、コロナ禍以降の自販機市場は人流回復が進んでも売上が戻りきっておらず、再成長のための起爆剤として「ジハンピ」に大きな期待を寄せている。
自販機のキャッシュレス化は、機材費・運用コストの高さが障壁となり、従来は売上規模が大きい設置先に限られ、同社もキャッシュレス自販機は展開台数の約2割にとどまっていた。こうした課題を解決するため、自社開発により独自の発想で誕生したのが「ジハンピ」だ。
低コスト化のポイントは“利用者のスマートフォンを主役に据えた”こと。NFC(近距離無線通信)やカメラ、スピーカーなどの機能を自販機側でなく、逆転の発想で高性能化が進む利用者側のスマホを活用することにより、従来の半額以下の低コスト化に成功し、より多くの自販機に導入できる仕組みを実現した。また、既存の自販機への設置は5分程度で可能という。

開発の中心を担ったのは、同社マーケティング本部の井上尊之副部長。自らを「自販機ラバー」と語る井上氏は、同じチームのメンバー5人と開発に3年をかけた背景を次のように語った。
「自販機の本来の価値は“どこでも買える”“すぐに買える”こと。しかし、キャッシュレス未対応で現金しか使えないことや、キャッシュレス自販機の複雑な操作が面倒で、購入を諦めるお客様の姿を現場で何度も見てきた。これを放置すれば、自販機は市場から淘汰されてしまう。そんな危機感が開発の原動力だった」
「ジハンピ」はアプリに「ペイペイ」や「楽天ポイント」など電子マネー13種、共通ポイント5種を登録でき、購入時には自販機のボタンを押した後、アプリを起動してタッチするだけ。ポイントも1本1ポイントで自動的に貯まり、利用も可能という、シンプルでストレスフリーな設計を目指して開発された。
アプリはすでにApp Storeでランキング2位を獲得しており、ユーザー評価も4.78(5点満点)と高水準。2024年12月から北海道でテスト導入を実施し、ユーザーの反応や運用の課題を確認した上で、今回の本格展開に至った。3月末時点で約4万台の対応自販機、約50万件のアプリダウンロードが達成されており、滑り出しは順調だ。
今後はアプリをダウンロードすると好きな飲料が3本無料になるキャンペーンや、テレビCM・デジタル広告の投入など、多面的なマーケティング施策を展開していく。7月から放映予定のテレビCMには俳優の阿部サダヲさんと桜田ひよりさんを起用。「ジハンピ」の認知度向上とユーザー体験の浸透を図る。
井上氏は、「自販機市場全体の活性化、そして自販機を好きなお客様が一人でも増えてくれれば」と思いを語った。
キャッシュレスが当たり前となった現在、キャッシュレス対応はコンビニエンスストアで9割以上だが、自販機では4割にとどまっている。同社の調査では、自販機のキャッシュレス決済が使えず、購入を諦めたことがあるという回答をした人が約3割にのぼったという(2025年2月実施、20~60代の1000人対象)。
キャッシュレス自販機で先行するコカ・コーラシステムの「CokeON」アプリは、ダウンロード数が2025年1月に6000万ダウンロードを達成。全国で50万台の対応自販機を展開している。
サントリーの「ジハンピ」は、キャッシュレスが普及した時代に合った“自販機本来の価値”という原点に立ち返る挑戦でもあるという。面倒なことは全て削ぎ落とし、圧倒的に早くて快感な体験を提供して、自販機ファンを増やしたい考えだ。「ジハンピ」の取り組みが自販機業界全体の活性化につながるか注目される。