アサヒ、酵母由来の“ミルク”を開発 乳アレルギー対応、食の多様性に応える「LIKE MILK」テスト販売開始

アサヒグループジャパンは4月16日、酵母を原料とした日本初の非動物性ミルク「LIKE MILK(ライクミルク)」を発売した。牛乳を使用せず、酵母由来のタンパク質と独自技術による乳化作用を用いて“癖のないまろやかなミルクのような味わい”を実現できたという。アレルギー特定原材料等28品目を使用しておらず、乳製品の摂取に制限のある人でも安心して飲用できる設計となっている。
◆開発の背景:アレルギーに悩む子どもと親の声

アサヒが本格的にこの事業に取り組むきっかけとなったのは、「第1回こどもアレルギー学会」(大阪府狭山市、2023年10月開催)で出会った子どもと親の存在だという。アサヒグループジャパンの畠徳望博氏は、「子どもが牛乳を飲む姿を見たい、という親御さんの切実な願いが心に残りました。そして、学会から帰社後、偶然にも社内で進行中だった酵母由来のミルクを開発するプロジェクトを知り、『これは応えられるかもしれない』と感じてプロジェクトを立ち上げました」という。
国内では食物アレルギーが年々増加傾向にあり、乳児の10人に1人、幼児の20人に1人が何らかの食物アレルギーを持っている(厚生労働科学研究成果データベースをもとにアサヒグループジャパン作成)。その原因物質の上位には牛乳(構成比18.6%)が含まれているが、牛乳に代わる選択肢は限られており、社会的な課題となっている(令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書)。
◆アサヒ独自の酵母技術を活用、牛乳のようなコクとまろやかさ
「LIKE MILK」は、アサヒグループ横断の新規事業創出組織「Future Creation Headquarters」のプロジェクトとして推進され、アサヒグループ食品やアサヒクオリティアンドイノベーションズなどの研究・開発部門が連携して開発した。
アサヒは長年、ビール醸造で培った酵母技術を持つ。酵母は栄養価が高く、その特性を活かした乾燥酵母の胃腸・栄養補給薬「エビオス錠」などは、すでに市場で支持を得ている。新商品の「LIKE MILK」は、培養した酵母のうち酵母細胞壁をアサヒ独自の乳化力を向上させる技術や酵母独特の風味を除去する技術を確立したことで、牛乳のような自然なコクとまろやかさを実現したという。
なぜ、酵母でミルクに近いものができるのか。アサヒグループ食品で商品開発を担当する野澤清史氏によれば、乳化作用を持つ酵母素材は、水と油を結合する作用があり、一緒に混ぜるとミルクのようなテクスチャー(質感)になるという。酵母をベースにした非動物性ミルクは世界的にも珍しい。
◆活発化する代替ミルク市場への新提案
牛乳をはじめとする動物性素材ではない代替ミルクの市場は近年活性化している。豆乳市場は2024年に生産量が103%となり(日本豆乳協会調べ)、アーモンドミルクでもカゴメが今春から「アーモンド・ブリーズ」の大型リニューアルを行うなど、動きが活発化している。こうした市場の活性化を背景に、アサヒは酵母という新しい素材を用いた非動物性ミルクという提案により差別化を図っている。
◆栄養価でも差別化、牛乳と比べてカルシウムは同等、脂質は約38%低下

また、「LIKE MILK」は栄養価でも優位性を打ち出している。カルシウムが牛乳と同等以上、脂質は牛乳より約38%低く抑えられている。さらに、亜鉛は牛乳の2.5倍、食物繊維は豆乳より豊富で、コレステロールもゼロとヘルシーさを訴求している。料理や菓子作りにも使える汎用性があり、家庭での利用を想定して開発された。
◆消費者の声により改善し、浸透図る
現在、クラウドファンディングサイト「Makuake」にて6月15日まで先行テスト販売している。消費者のフィードバックを積極的に取り入れ、製品の改良を重ねていくという。畠氏は「まずは限られた範囲での展開ですが、消費者の声を反映しながら、本格展開へと進めていきたい」と話す。
同社によれば、4月20日に東京で行われた「ビーガングルメ祭り」では、約1400名が試飲し、約8割が購入意向を示したという。他の地域でも行われる「ビーガングルメ祭り2025」(4月27日京都、5月11日名古屋)や「第2回こどもアレルギー学会」(5月24日・大阪)のイベント出展を通じて消費者との接点を増やしていく。
今後は、「LIKE MILK」を筆頭に、酵母を活用した商品・素材を「LIKE」ブランドとして広げていく構えだ。
アサヒグループジャパンとアサヒグループ食品に所属し、新規事業創出に取り組む蓮見麻美氏は、「世界的にタンパク質の供給不足が課題となる中、酵母由来のタンパク質は新たな選択肢として注目されています。アサヒとしても酵母の可能性をさらに探求し、人の健康や社会に役立つ価値を発信していきたい」と思いを語っている。