スーパー主導の安売り復活か、節約志向への対応や業態間競争が背景に
食品小売業では以前から、コンビニやドラッグストア、ネットスーパー、食事・食材宅配といった各業態間での競争が激しくなっていたが、コロナによって販売チャネルで明暗が分かれ始めている。その中で、デフレマインドを先取りしたスーパー主導の安売りがじわじわと復活しつつあるようだ。
安売り復活の背景にあるのは、雇用不安や所得減少による節約志向の一層の高まりだ。食品スーパー各社は2020年4月の緊急事態宣言で売上高・利益ともに増加し、2月期決算を前に安売りに走る必要はない。それにもかかわらず、首都圏主要チェーンでは、2020年末から価格対応強化を押し進めているところが多い。
いわゆる“勝ち組”ともいわれる食品スーパーにおいても、所得減少に敏感な若者にささる商品、若い世代の購入頻度の高いカテゴリーの商品の価格を2020年秋から引き下げ、その筆頭に位置付けるアイスは1個税抜88円で販売するなどの施策を行っている店舗がある。この店舗では、コロナ以前から業態間競争を背景としたヤングファミリーの獲得を課題としており、コロナ禍でこの戦略をより鮮明にし、勝ち抜くための若年層獲得策として食品カテゴリーを絞って安売りしている状況だ。
また、あるディスカウントスーパーでは、家庭料理に使う頻度の高いカテゴリーの商品(肉料理やピザのトッピングに使うシュレッドチーズなど)を再値下げし、さらに安い「特別提供品コーナー」も登場させている。加えて、集客の目玉商品の代表格である卵の定番価格も2021年1月から30円程下げている。
1都3県に緊急事態宣言が再発令された後の初の週末3連休(2021年1月9~11日)、都内のディスカウントスーパーには多くの買い物客が訪れ、かごいっぱいに食料を買い込む客の姿もあった。また、従業員にコロナ感染者が出たため急きょ臨時休業となったスーパーのエリアでは、周辺のスーパーに客が流れた。その際、普段買っている大手食品メーカーのナショナルブランド商品がいつもの店より安いと気づいた客もいたようだ。生活者はこれまで以上に価格に敏感になってきているようだ。
〈長期的な目線で顧客囲い込み〉
ただこの安さは、小売業もしくは食品を製造しているメーカーの出資金などの負担を伴うもので、大量に売れても利幅は薄い。「大量生産」「大量消費」の時代からすでに今は、多様化する個人ニーズやトレンド変化へスピーディに対応していく時代へとシフトしている。価値の多様化によって価値訴求型の「付加価値商品」が市場に根付いてきているが、安売り競争がどのカテゴリーにも広がれば、ようやく育った付加価値商品の将来も危ぶまれる。
極端な安売りを行うディスカウントスーパーは、生鮮商品の品揃えに魅力がないなど価格に頼るしかない実情もある。これまでは消費者が野菜や肉、魚などの生鮮食品を買う時はこの店、調味料や飲料・酒、菓子など加工食品を割安に買う時はあの店と使い分ける場面もあったが、コロナ禍で買い物を一気に済ますようになって、買い物の仕方も若干変わってきた。これに加えて各企業のポイントサービス等によるユーザーの囲い込み競争の過熱もあって、ますます業態間競争は進むばかりだ。
直近の「デフレ時代」といわれる2001年から2012年、この間に定番商品をより安く購入する購買行動が生活者の中に定着した。ディスカウントスーパーの躍進はこの流れに乗ったものでもあり、今後も節約志向がますます強まる中で、生活者の支持を得ていくものとみられる。
その中で人口減に対しオーバーストア状態とも言われる食品小売り各社が、どのような形でこれまで来ていた買い物客をつなぎとめていくのか。短期的には価格戦略もその一つとはいえるが、長期的な目線に立った顧客囲い込み作戦、生活変化への対応力が今後の競争軸となりそうだ。
〈食品産業新聞 2021年1月18日付より〉