なぜ今、イトーヨーカドーは紙媒体を始めたのか? フリーマガジン『はとぼん』を出す意図に迫る【インタビュー】

イトーヨーカドー フリーマガジン『はとぼん』
イトーヨーカドー フリーマガジン『はとぼん』

近年、広告業界や小売業界で「リテールメディア」という言葉が注目されている。リテールメディアとは、文字どおり小売業(リテール)が提供する媒体(メディア)のことを指す。人々の時間の過ごし方が多様化する中、テレビCM等従来の「マスメディア」による広告効果に疑問符がつくようになってきたことが注目されるゆえんだろう。筆者の印象では、小売業が提供するアプリや店頭のデジタルサイネージでの広告・販促の展開を指す場合が多いように思う。

イトーヨーカドー インタビュー 篠塚氏(左)と望月氏(右側)
イトーヨーカ堂 インタビュー 篠塚氏(左)と望月氏(右側)

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そうした中でイトーヨーカ堂は2024年3月「リテールメディアプロジェクト」を発足し、7月1日から、紙媒体の売場連動型フリーマガジン『はとぼん』の発行を開始した。月1回発行で10月1日までに4号を出している。

その狙いについて、このリテールメディアプロジェクトでリーダーを務める販売促進部総括マネジャーの篠塚麻友美氏とディレクターの望月洋志氏に話を聞いた。(※望月氏はセブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部ネットサービス開発シニアオフィサー、イトーヨーカドーネットスーパー営業本部副本部長と兼務)

〈本来は「店頭で説明したいことが山ほどある」課題を解決〉

篠塚氏によれば『はとぼん』では接客の延長・拡張といった考え方を共有しているという。「本来、ぜひお客様に店頭でご説明したいことが山ほどあるが、営利企業として従業員数などの制約から十分に接客がしきれていないという反省があり、それを解決する方法を考えた際にリテールメディアに取り組もうという経緯があった」「私自身も商品開発の背景や良さを知ることができたが、お店のスタッフからもこれを見ることで商品の知識が深まったという声が多い。そういう形でも積極的に活かしていきたい」と話す。

望月氏は「スーパーマーケット(SM)という業態で売っているものは、半分くらいはメーカーのNB商品で、生鮮も惣菜も、他のSMと大きくは変わらなく見えてしまう。より美味しいもの、こだわって作っているものでも、それが伝わらなければお客様から見たときに他と変わらないということになりかねない。セブン&アイ グループではオリジナル商品の『セブンプレミアム』があり、その開発メンバーはものすごく商品の良さにこだわりを持って作るというカルチャーがある。こうした商品の良さをきちんとお届けしたいとう思いが原点にある」という。

〈創刊号の反響は“90%以上の人が次からも読みたい”〉

篠塚氏によれば、最初の7月号を読んだ人にアンケートを実施したところ、90%以上の人が次からも読みたいと答え、次はいつ出るのかという声もあったという。「現在はイトーヨーカドー42店舗で基本的には1カ月間配布する形だが、早い店では月の半ばで無くなってしまうくらい人気がある。認知度もだんだん高まっており、これを目当てに月初にご来店いただき、見ながらお買い物をしていただけるようになれば本当にありがたいと思う」という。

イトーヨーカドー フリーマガジン『はとぼん』創刊号表紙
イトーヨーカドー フリーマガジン『はとぼん』創刊号表紙

では同社はリテールメディアをどう捉えているか。望月氏は「“メディア”本来の意味で捉えれば、お客様と私たちの間にあるもの全部がメディアということになるだろう。それがたまたま今のSMではデジタルサイネージ、アプリ、そしてフリーマガジンといったものがフィーチャーされている。ただ、本来メディアは読者、オーディエンスといった接する人の数が力や価値を持ち、SMにおいてメディアとしての価値が一番大きいのは“お店そのもの”になる。お店をメディアとして捉え直したときにに、我々はどんなことができるかを考えている」。

「たとえばアプリなどではバナー広告枠やクーポンなどがありリテールメディア=広告という捉え方をする方も多いと思うが、私たちはそう捉えていない。あくまでも情報をお伝えするメディアとして捉え『はとぼん』もお客様にお伝えしたいことを中心に編集している」と話す。

篠塚氏によれば現在、毎月1回20ページで制作するうち、メーカーの「広告」という形のページ1号あたり2社ほどで、それ以外は編集部で紹介する商品も含めて選択し、紙面を作っているそうだ。

実際の編集方針について篠塚氏は「お客様に商品の良さや価値をお伝えしたいという中で、伝え方にはこだわっていきたい。自分たちが伝えたいこと、というようりは、お客様に興味を持っていただけるコンテンツとしての魅力を作っていきたいと思っている。また、クリエイティブにはとにかくこだわろうということで、タブロイド判という判型(※筆者注:一般的な新聞「ブランケット判」の約半分の大きさで、情報誌としてはかなり大きい)を選択したのも、視覚的にも美味しそう、買ってみたいと思ってもらえるようなアプローチをしたいという思いからだ」と話す。

また、取り扱う商品選定については「基本的にはPBもNBも分け隔てなく、当社としてご紹介したいものを選んでおり、そこは一般の雑誌と変わらないと思う。当社はいわゆるSPA(製造小売業)ではなく、さまざまなメーカー様・仕入先様の商品を売ることが仕事で、メーカー様とは異なる小売業という視点で商品の良さを伝えることを大切にしたい」という。

〈スマホの小さな画面よりも“買いたい”と思える紙面、一覧性に優れる紙媒体の強み〉

そして今あえて紙媒体を選択した理由について望月氏は「なぜデジタルではないのかとよく聞かれるが、逆になぜデジタルなのかを聞きたい。皆デジタルだけで暮らしているわけではなく、実際にフィジカルにお店に行って買い物をしている。デジタルを推す方の大半は、継続的に効果を追えるという意味で推しているように思うが、それはお客様目線ではなくメーカー目線・広告目線なのではないか。確かに紙媒体だと見た/見ていないを追えないので厳密な効果検証が難しいが、私たちの商売はやはりお客様に買っていただきたいわけで、買いたいと思っていただかないとうまくいかない。それがスマホの画面と(ビジュアルにこだわった)紙媒体のどちらが商品を買いたくなりますか?ということだと思う。紙媒体は一覧性に優れ、スマホのウェブでここまで力のあるクリエイティブはまずできない。デジタルか紙媒体かが始まりではなく、お客様が買いたいと思うクリエティブは何か?がまず大前提となる。とはいえ印刷部数の問題もあり、より多く届けるためにはウェブやアプリ、サイネージに波及させることも必要だ」と話す。

なお、すでに同社では『はとぼん』の内容を店頭のPOP、サイネージや、別刷りのチラシ、リーフレットとして活用する取り組みを行っている。また、『はとぼん』の内容は同社WEBサイトで閲覧することも可能だ。

そして、何も同社「リテールメディアプロジェクト」は紙媒体を作るためだけの部署ではない。今後の方向性について望月氏は「これまでメーカー様との取り組みも(一時的に)商品を売らんかなという形だったが、継続的に買っていただけるような考え方で改めてコミュニケーションを再設計していきたいと思う。

具体的には、今後イトーヨーカドーアプリのリニューアルを検討してきたいと思っていて、その中でもお客様に情報を伝えることをやっていきたい。言葉で言えばCRM(Customer Relationship Management)になると思うが、商品やブランドのファンをアプリの中で作っていきたい。そのきっかけとしてこの『はとぼん』のようなクリエイティブがあり、それをデジタルでも活用して商品のファンを作り、結果としてその集合体がお店のファンにもなってもらえるということだと思う」など話した。

SMの棚そのものも商品だけで表現する「メディア」と捉えることもできるが、情報としては商品名・パッケージとせいぜい小さなPOP位のもので、ともすると「価格」が最大の情報となってしまう。もちろん価格も重要な要素だとしても、商品の背後のストーリーを、しかも一覧性がありクリエイティブにこだわった紙媒体で伝えることで、商品そのものの価値を高め、ひいてはお店全体の価値を高める取り組みということだろう。

このところ何かとニュースを賑わせる同社ではあるが、本来国内有数の力がある企業であり、さまざまな新しい取り組みが進められていることにも注目したい。

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昭和26年(1951年)3月1日
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