花王、新社長に長谷部佳宏専務が昇格、澤田道隆社長は会長に
花王は9月29日、同日に行われた取締役会において、2021年1月1日付で代表取締役専務の長谷部佳宏氏が新たに代表取締役社長に就任し、現代表取締役社長の澤田道隆氏が取締役会長となる人事を発表した。交代の理由は、事業環境が大きく変化する中、新しいリーダーシップのもとで更なる企業価値の向上を目指すためとしている。
同社は同日に本社(東京都中央区)で社長交代に関する記者会見を行った。長谷部次期社長は、「みなさんがご存知のように、世の中は混とんの中にある。花王グループに期待する責任と役割は大きな転換期を迎えている。消費財メーカーである花王は、これまで多くのモノを作り、そしてそれらを消費していただくことにより、社会に貢献してきた企業である。一方で、多くの物質を使い、エネルギーを使い、廃棄物を生み出してきている会社でもあると思う。いま、私たちは消費していただけることだけを期待するモノづくりから、消費しにくいモノづくりへと大きな舵取りの転換をしなくてはならないと思う」と話した。
そして、「少なくても、小さくても、長らくご愛顧いただけるような、そういうモノづくりを目指さなくてはいけないと考えている。数と量の経済から、質と絆の経済へシフトする。この大きな転換期において、私が舵取りをすることは、大きなプレッシャーだが、思い起こせば先人の社長、社員たちも多くの困難に対峙して花王130年の歴史を支え、守り、そして育ててくれた。私もこの転換期を社員と一丸となって乗り越える所存だ。今後も花王の経営理念である“正道を歩む”、その新たな挑戦の道への応援をお願いしたい」とした。
澤田現社長は、「任期満了の今年12月末まで8年6カ月間、自分なりに本当にやれることは精一杯やってきたつもりだ。自分が社長として取り組んできた中で、次の花王グループの大きな成長を支えるには、新しい事業を創造しないといけないとずっと思っていた。そのシーズというか、種になる部分は少しずつ出てきたと思う」
「ただ、自分の任期の間に、それをある意味事業として見える形にできなかったことは事実なので、それを本当に具現化できる人を次の社長として私もバトンタッチしていきたいと思っていた。長谷部社長になり、私が果たせなかった思いを必ずや達成してくれると思っているし、そのくらいの力は十分にある。ただ、みなさんの協力なしにはできないので、これからも支えていただき、花王が社会に大きな貢献をできるようにお願いしたい」と語った。
そして、食品関連の取り組みについての質問に答え、「もっと広い意味で、食品というものを捉えた方がいいだろう。われわれはトクホをベースにエコナ、ヘルシアなどをやってきた。そして、食品事業をどう考えていこうかという時に、このコロナ禍になった。コロナ禍では、新型コロナウイルスに感染しやすいか、しにくいか(が重視される)。肥満の方が感染しやすいというアメリカのデータが最近の新聞に出ていた。ある意味、免疫力や健康そのものをしっかり担保することが、感染予防になるということだ」
「われわれは、単に食品を、内臓脂肪低減のために取り組むのではなく、もっと広い観点で、人間が生きていくという本質的な部分を担保できるような、そういうものの中に自分たちがやれる食品の事業のようなものがあると思っている。これまでより、ある意味広い観点でものごとを捉えて食品というものを考えている。それが事業になり、大きな役に立つような方向にいけばいいなと、おそらく長谷部さんも考えていると思う。そういうバトンタッチをディスカッションをしながら進めていきたい」と話した。
【長谷部新社長のコメント】
「澤田社長とは和歌山の研究所時代からの付き合いで、長らくご指導いただき最も尊敬する先輩であり、上司である。おそらくこの会社の中でその壮絶な生き様を見てきたのは私ではないか。そういう意味でも、私がやらなければいけないと、改めて気が引き締まる。澤田社長はいつも、溢れんばかりの情熱、闘志、そして絶対にあきらめないという根性、さらには温かくも厳しく、いつも真剣勝負の指導を行ってこられました。経営に至っては、多くの困難に出会い憤りもあったと思うが、必ず大きな覚悟で舵取りをされてきた。それを近くで見る機会を得ることができた。改めて感謝したい」
「ただ、正直、この方の後の経営はものすごく大変だと思っていた。そして、いま、新型コロナウイルスが消費、経済、働き方、さらに社会の在り方さえも変えようとしている。この大きな局面において大転換期ではあるが、兄貴とも呼べる方が託すバトンを受けないわけにはいかない。この経営バトンは、私にとって人生最大級の重さである。次の方にこのバトンをお渡しするその日まで、社員とその家族、協力していただける多くの仲間たちと一丸となってさらなる飛躍を遂げる花王を目指したい」
【澤田現社長のコメント】
(質疑応答でこれまで心がけてきたことについて問われ)「私は3つのことを心がけてきた。ひとつは“変化”だ。世の中が大きく変わっていく中で、変化ができない会社は伸びない。メンバーには自ら変わっていきましょうということをずっと伝えてきた。もうひとつは“本質にこだわる”ということだ。ものごとは表面だけの問題だけではなくて、地球環境問題もそうだが、きちんと本質を理解した上でわれわれが何ができるかを考えていく。研究についても本質研究(が重要)とずっと言ってきた」
「3つめは、それらをある意味では集大成をして、いかに世の中の役に立つかということを考えた時には“ESG”(Environmental,Social,and Governance)が重要だと思う。E(Environmental)とS(Social)はそれぞれ地球問題、社会問題を本質的な部分から解明するということ。それを、G(Governance)のガバナンスでしっかりと独りよがりにならないようにできているかどうかを見ていただく。そのため、CSRやサステナビリティではなくて、ESGが今の状況には最適だと思うのは、Gの部分が重要だと考えたためである」
「変化、それに対応するにはイノベーション。イノベーションをするには本質が重要で、それを集約化してESGという方向を向いていこうと自分ではイメージして作り上げてきた。おそらく長谷部さんもそのベースは崩さずに、彼の特徴をそこにオン(上乗せ)した形で新しい事業、次なる花王の成長というのを必ずやってくれる。なぜかというと、企業理念=ESGである。企業理念は重要で崩せないところであり、ここはしっかりとベースを作りながら飛躍してくれると信じているし、期待している」
【長谷部佳宏(はせべ・よしひろ)新社長の略歴】
1960年7月30日生まれ、宮城県出身
1990年3月 東京理科大学工学部工業化学科博士課程修了
1990年4月 花王入社
2003年7月 化学品研究所 室長
2008年3月 ハウスホールド研究所 室長
2011年3月 ビューティケア研究センター ヘアビューティ研究所長
2014年1月 基盤研究セクター長、エコイノベーション研究所長
2014年3月 執行役員、研究開発部門副統括
2015年3月 研究開発部門統括(現任)
2016年1月 常務執行役員
2016年3月 取締役常務執行役員
2018年1月 取締役専務執行役員、コーポレート機能部門管掌
2018年4月 先端技術戦略室統括(現任)
2019年1月 コンプライアンス担当(現任)
2019年3月 代表取締役専務執行役員(現任)