価格高騰に伴う学校給食停止問題を受けて、岸田首相が給食事業者にヒアリング、課題解消に意欲
物価高騰が続く中、岸田文雄首相は10月16日、都内で給食事業者などの代表者に価格高騰の状況と課題についてヒアリングを行った。文部科学省からの依頼を受けて給食事業者も参加した。
岸田首相は、「急激な物価高騰から国民の生活を守るため、政府は今月、さらに思い切った対策を用意しそれを実行する。その前に、現場最前線の皆さんの意見を聞くことで、対策にしっかり織り込もうと考えている」と狙いを語った。
今年9月に、給食の調理業務を受託するホーユーが突如事業停止したことで、全国の学校や施設内食堂での給食提供が滞り、大きな問題になった。同社の受託件数は150件で、事業領域は21道府県にも及ぶ。受託運営する学校や社員食堂など産業給食がコロナ禍で食数が減少。さらに、食材費や人件費、光熱費など物価上昇が続いた結果、価格改定が進まず事業継続が困難になったという。帝国データバンクが公表した、全国の給食事業者に関する業績動向調査によると、国内給食事業者の2割が全く値上げできず、6割超で業績が悪化しており、食材コスト増などの影響が大きいことがわかった。
ヒアリングの中で、岸田首相は「一部の地域の学校給食で混乱が生じた報道を承知している。子どもたちが元気で育つためにも、大切な給食をしっかりと安心な形で維持することが重要な課題である」と述べた。
〈文科省からの依頼を受けて給食事業者が登壇〉
文部科学省からの依頼を受けた(公社)日本給食サービス協会を代表して、副会長兼関東支部長である馬渕祥正氏(馬渕商事代表取締役社長)が、現在の学校給食調理業務の受託のあり方を説明した上で、給食の安定供給に向けた要望を語った。
馬渕氏は「学校給食の調理業務は自治体の教育委員会からの依頼で受託するものだが、そのほとんどが一般競争入札という形で行われている。だいたい3~5年で実施されており、価格の8割は人件費である。しかし、この入札方式では、安ければいいとなり、安い価格を提示した業者が受託する。そのため、人権費を計算すると、どう考えても最低賃金を下回ってしまうような受託事例が全国で散見されている」と入札方式の問題を説明した。その上で、次の4つの要望を伝えた。
〈学校給食の安定供給に向けて、プロポーザル方式など4点を要望〉
1つ目はプロポーザル方式の導入である。
「東京都近郊の一部の自治体では、入札で安かろう、悪かろうになることが学校給食にはそぐわないと考え、プロポーザル方式を実施している。これは、その会社に給食調理業務を本当に任せて大丈夫なのかということを自治体が見極めて、給食事業者を選定するものだ。我々、給食事業者の仲間の意見としては、やはり子どもたちに安全で安心な学校給食を提供するのであれば、業者の選定はできればプロポーザル方式で選んだ方が良いのではないかと考えている」。
2つ目は、入札方式への最低価格の設定である。
「入札方式を否定するつもりは毛頭ないが、もし入札方式で選定する場合であれば、少なくとも最低価格のようなものを設定して欲しい。それによって、最低賃金以下の価格で落札する業者は選定されなくなるのではないか。検討して欲しい」。
3つ目は、契約期間中に人件費が変動した場合は請負金額について交渉機会をもつことだ。
「学校給食調理業務の契約年数は大体3年から5年であり、その間に、ここ数年のような著しい物価上昇あるいは最低賃金の上昇が起こってしまった場合、現在の給食業界の入札方式では価格の見直しを交渉する機会はない。建設業では、スライド条項といって、著しく期中に価格が変動したときに請負代金額の変更を請求することができる。それを入れて欲しい」。
4つ目は、年収の壁の解消である。
「給食業界には、短時間労働で働いている子育て世代のパートさんがかなり多いので、年収の壁の影響が非常に大きい。最低賃金の上昇で従業員の給料を上げることは本当にありがたいことではあるが、従業員の短時間パートさんの給料を上げることで、本人が103万円の壁を超えてしまうと、主人の会社の扶養手当を削られてしまうことから、結局、労働時間を減らさなければならなくなる。それが、現実として起こっている。本当に日本は人手不足になっている、労働力が減っている中で働きたいけれども、その制度を超えたくないので働けないというパートさんが多く出ている。それが大きな課題である」。
〈岸田首相、支援・検討に意欲を示す〉
その後、岸田首相は同日の会見において、「一部の地域において、学校給食をめぐって大きな混乱が生じた事案が報道された。この給食を、事業としてしっかり維持していくためには、支援も必要であることを感じた。給食事業の受託事業者の負担を軽減し、保護者や子どもたちにしわ寄せがいかないようにするためにはどうしたらいいのか。できることから実施したい。例えば、足元の物価変動に対応し、必要な支援を行えるように、先ほどの重点支援交付金の追加の中で、対処する」と支援に意欲を示した。
また、「物価高を踏まえた契約金額の見直し、契約の在り方も考えなければならない。価格以外の要素を加味した入札方法の導入、こうした検討も、中長期的に、そして安定的に給食を確保するために、重要な視点ではないか」と見解を示した。