物価高騰で倒産増の給食業界、給食事業経営者3名が語る課題と未来への意思

多くの給食関係者が詰めかけたセミナー風景
多くの給食関係者が詰めかけたセミナー風景

2023年9月、広島県の給食事業者が突然事業を停止し、全国各地で給食がストップしたことが大きな話題になった。物価高騰や人手不足に伴う人件費・人材募集費の増加、また低価格競争による利益率の低下など諸原因により、給食事業者の倒産は増加傾向にある。

帝国データバンクの調査によると、2023年に発生した、学校給食や企業向け弁当給食、学生・社員食堂の運営受託などを含む給食事業者の倒産は2023年1~10月までに17件発生。2023年1~11月の累計では2年連続で増え、過去5年で最多ペースとなっている。そうした暗雲立ち込める給食業界の悪いイメージを払拭することを目指して、2月15日、東京ビッグサイトで『アトツギが切り拓く給食業界の未来 ~本音セッション~ 』セミナーが開催された。

メリックス(東京)の大髙絵梨社長をコーディネーターに、ウオクニ(神戸)の野々村充教社長、メーキュー(愛知)の山本貴廣社長、レクトン(東京)の岩見洋平代表取締役専務が登壇。人手不足と価格転嫁に苦しむ業界の現状と課題への対応、そして明るい未来に向けた思いを発表。300名を超える多くの給食関係者が会場に詰めかけ、立ち見が出るほど盛況を博した。

左から、大髙社長、山本社長、岩見専務、野々村社長
左から、大髙社長、山本社長、岩見専務、野々村社長

〈高齢化の最先端をいく給食業界、労働環境改善と外国人材活用〉

3人の経営者からは、学校給食、保育園給食、大学学生食堂、企業社員食堂、病院・福祉施設など様々な業態で共通する課題として、人手不足と価格転嫁の2点があがった。

人手不足について、野々村社長は「現場の調理スタッフだけでは仕事が回らないため、営業担当者が店舗に入らざるをえず、応援体制を組んでなんとか日々回している」と実態を説明した。岩見専務は「人がいないから、新しい仕事のお話があっても、取りにいけない状況もある」と続けた。

山本社長は「特に、病院・福祉施設におけるパート従業員の高齢化が甚だしい。データを取ると、平均年齢は63歳。人事部からは、60歳の方の応募があれば『若い。あと10年は働ける』という声が聞かれ、80代から応募があると『さすがに採用できない』とお断りするケースもある。まさに、高齢化の最先端をいく業界かもしれない」と語った。

それに対し、野々村社長は「今後、さらなる高齢社会が待っている。私も高齢の方々にも活躍して欲しい気持ちはあるが、給食の仕事を支えているのがこの世代でいいのかも考えていかなければならない。採用年齢を引き上げるか否か葛藤する毎日だが、年齢を上げるならば、高齢の方でもしっかりと仕事ができる働きやすい環境づくりに取り組みたい」と労働環境の改善に意欲を示した。

人手不足が進む中、どのような対策ができるのか。

山本社長は「人手不足でも会社を発展させるチャンスはいくらでもある。当社は、人手不足という砂漠の中で、ネパールとインドネシアというオアシスを見つけた」と、外国人人材活躍促進をあげた。メーキューでは従来、ベトナム人25名を採用してきたが、さらに増員を図る。2024年はネパール人の特定技能実習生25名とインドネシア人の外国人技能実習生30名を採用した。「インドネシアの技能実習生に内定を出すと、日本で働けることに泣いて喜んでいた。日本人の採用面接ではそのようなことはない。今後は、インド、ミャンマーなどの人材も視野に入れている。年齢の若い外国人人材を、病院・福祉施設などメディカル給食事業部を中心に配属し、社員を多国籍化して事業発展を目指したい」と語った。

〈「安い給食」脱却に向けて、伝えること、結束すること、イメージを高めること〉

価格転嫁について、野々村社長は「赤字では運営できない。食材費、人件費、人材募集費、光熱費と、あらゆるものの価格が上がる中、給食の価格はそのまま、とはいかない。業界全体で、正当な価格をお支払いいただけない方は、厳しい言い方だがお客様ではないという考え方を定着させる必要があるのではないか。私たちも、顧客、取引先企業、私たちの3社が良い形で仕事ができる“三方良し”を実現しよう。それがビジネスのあるべき姿である。より良い食事サービスを提供するからこそ、より良い対価を払っていただける。その結果、働いていただく皆さんにしっかりと働いてもらえる。サービスを利用するお客様にも喜ばれる。そういう関係がなければいけない。海外では、マクドナルドのランチが3500円するところもあるそうだ。日本のランチは最近では1000円代がざらにある。しかし、社員食堂はというと、500円を超えると高いと言われる。なぜ、社員食堂は500円で高いのか。給食業界全体の問題としてもっと訴えていきたい」と、安い給食価格の問題を訴えた。

続けて、山本社長は「今回の給食の提供停止問題の影響もあり、顧客から『適正な人件費の賃上げに向けて、費用の見直しを伝えてください』と言っていただいたことがあった。信頼関係があれば、しっかり伝えられる。お客様に正々堂々と伝えていくことが大事だ」と話しつつ、「お客様がすべて、値上げをそのまま受け入れてもらえるわけではない。極論を言えば、適正な価格をお支払いいただけるお客様に対して人を配置し特別なオーダーに応える世界と、ある程度の価格しかいただけなければ、完調品や人手をかけない効率的なサービスを提供する世界のいずれか、給食の二極化が起こると思う。顧客の求めに応じて、松竹梅の提案を用意する必要もあるのではないか」と分析した。

岩見専務は「正直言えば、給食の仕事は薄利多売である。利益率が上がらない中で、賃金アップや物価高騰によるコスト上昇に苦しんでおり、赤字運営の一歩手前である。このまま契約金額が上がらなければ、人手不足を解消する方法である賃金アップもできないのではないかと危惧している」と語り、セミナーに来場した給食関係者に「価格破壊や価格競争はもうやめませんか。私たちは競合他社ではあるが、しっかりと協力して、価格転嫁できる体制づくりを業界として行動を起こしていきませんか」と協力を求めた。

また、2023年10月、日本給食サービス協会の馬渕祥正副会長(馬渕商事社長)が、岸田文雄総理と車座対話を行い、学校給食の安定供給に向けて、入札方式でも最低落札価格を設定することやプロポーザル方式の実施など、新しい契約のあり方について要望したことを解説。その上で、「この動きは各自治体に少しずつ広まってきていると感じる。今後も一社だけでできなければ、業界団体で力を結集し、協力して声を上げていきたい」と語った。

コーディネーターを務める大髙社長は、3者の話を聞いて、「私たちが共通してやらなくてはいけないことは、今までの給食ビジネスからの脱却だと思う。給食は安くてお買い得という価値観を変えよう。ちゃんと適正価格をお求めして、お客様を選ばせていただく。そのためにも、適正な価値を創造する必要がある。その意味では、自社努力の上に、給食業界の認知向上、良いイメージづくり、ブランド化が今後のカギになるのではないか」とまとめた。

〈給食業界の未来は明るい〉

最後に、大髙社長は給食業界の未来像について質問した。

岩見専務は「他の業界は大手企業数社でシェアを独占している状況があると思う。しかし、給食業界は大きな会社もあるが、まだまだ中小企業が頑張り、輝いていける業界だと思う。給食の価値を高める動きを通して、給食=安いではなく、給食=おいしい、給食=健康的、給食=企業価値の向上など、付加価値を付けたい。組み合わせは無限にある。各社ごとの、給食=○○を作ることで、お客様が価格ではなく、提供価値で選ぶ土壌を創り出せるのではないか。頑張っていきたい」と語った。

野々村社長は「この業界には暗いイメージがあると思う。しかし、当社は昔、社員食堂の仕事が多かったが、近年は保育園給食や自衛隊関連の仕事が増えるなど、新しい分野の仕事も増えてきている。給食の仕事は人々の食と健康を支える、決してなくならない公益的で社会的な事業である。だからこそ、明るいイメージに変えていきたい。最近、M&A案件が増えているが、給食会社が給食会社を買収するのではなく、違う業界の会社が買収している。これは、他業界から見ると、給食業界はまだまだ将来性がある、というメッセージではないか。当社は給食会社でありながら、食の捉え方を広げて、違う分野にも挑戦していきたい。給食の仕事のフィールドを広げたい」と語った。

山本社長は、「2023年社長に就任したとき、新たなミッション『給食業界をアップデートし、地域の課題を解決する』を策定した。自分の人生をかけて実現したい。少子高齢化に突入し、働き手がいない中で事業を拡大させるのは難しいという方も多いだろう。しかし、いつの時代の、どこの国に生きても、大変なことはある。そういう意味では、やりがいのある時代に生まれたとポジティブに捉えている。常に挑戦する姿勢を崩さず、自分たちの可能性を開いていけば、必ず未来は明るいと信じている。この20年で何ができるのか、全力で駆け抜けていきたい」と語った。

大髙社長は「日本の給食の未来を見据えて歩める今があることを、改めて気付かせてくれる内容だったと思う。給食業界は、食に携わる人々に支えられている。もっと、お客様や働いてくれる方々、そして支えて下さるお取引先様、一人一人ときちんと向き合って、まだ見ぬ価値を形に変えていくことが求められていると思う。まだまだ、たくさんの可能性を秘めている業界だと私たちは信じている」とまとめた。

媒体情報

月刊 メニューアイディア

日本で唯一、栄養士・調理師必読の全給食業態向け総合月刊誌

月刊 メニューアイディア

学校給食、事業所給食(社員食堂や工場食堂など)、メディカル給食(病院や介護施設など)など各種給食業態で活躍する方々に向けた応援団誌です。
毎月、給食業界の活性化につながる最新情報と給食企業の多彩な取り組みを特集で紹介しています。栄養士・調理師向けに、給食の各業態に対応したオリジナルメニューや最新の衛生管理情報を紹介。また仕入れ担当者向けには、食品メーカーの新商品や食品卸の動向を、給食企業のマネジメント関係者向けには人材不足対応や働き方改革、省力化につながる食品(冷凍食品)、厨房機器・システムを網羅するなど、給食産業界全体に総合的で多彩なニュースを提供しています。また高齢者介護施設の管理栄養・栄養士による連載エッセイや女性活躍促進に向けた連載コラム、学校給食の専門家、田中延子先生によるコラム「学校給食物語」も人気です。
月刊誌の主な特集内容は、各給食業態現場訪問レポート、学校給食甲子園、フード・ケータリングショー、業界団体総会特集、治療食等献立・調理技術コンテスト、働き方改革、栄養士・調理師懇談会など。
また、幅広い読者層の期待に応えるため増刊号を毎年1回発行しており、給食関係者の強いニーズから年間を通して使用できるオリジナルメニューを紹介しています。
2015年には、高齢者食の第一人者である中村育子先生や金谷節子先生に作成いただいた『日本初!スマイルケア食もアレンジ!高齢者のためのレシピ80選』。
2016年には、全国学校栄養士協議会協力の『子どもが好んで保護者も納得!学校給食アレンジレシピ集』。
2017年には、スチコン調理の決定版!総合厨房機器メーカータニコーとコラボした「省力化と豊かさ実現!スチコンレシピ集&活用術」。
2018年には、慈恵医大病院とシダックスのレシピを紹介した「加工食品アレンジ!高齢者食レシピ100選」
2019年には、東京五輪に向けて、日本栄養士会の鈴木志保子副会長監修『アスリートとスポーツ愛好家のためのレシピ』。
2020年には、平成30年間の給食業界の動向をまとめた「平成時代の給食から令和へ」。
2021年には、「打倒コロナ!免疫力アップレシピ」。
2022年には、「給食とSDGs」。
2023年には、「次世代に伝えたい学校給食」。

創刊:
昭和54年(1979年)1月
発行:
昭和54年(1979年)1月
体裁:
(月刊誌)A4判 70ページ前後 (増刊号)B5判 240ページ前後
主な読者:
事業所給食、医療・シルバー施設、学校給食、日配弁当事業者、食品メーカー、卸業者、行政他。
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