給食業界、人手不足の打開策を模索、「給食の仕事」の魅力発信や知名度向上目指す
![給食事業者の代表3名が人手不足の解消策や業界の可能性について発表](https://www.ssnp.co.jp/uploads/2025/02/KYUSYOKU3.jpeg)
給食業界では、人手不足と物価高騰が深刻化し、各社が対応を迫られている。2月5日、東京ビックサイトで業界の未来を語るセミナー「アトツギの本音セッション第2弾~センパイvs.若手 給食の未来を語る~」が開かれた。そこで、小中学校や社員食堂、高齢者施設などの食事提供やアスリートのための食事・栄養サポートなどに取り組む給食事業者の2代目、3代目の代表が課題解決策を議論した。
関東圏で給食事業を行う東京天竜の東雅臣代表、メリックスの大髙絵梨代表、関西圏で事業を展開する日米クックの米谷素明代表が登壇し、業界の現状や人手不足の解消策などを語った。
ファシリテーターを務めたメリックスの大髙代表は、「この人手不足と物価高騰の中での食事提供は、各社・各現場の自助努力にゆだねられている状況だが、人手不足を加速させる多くの制約や制度があることはまだまだ知られていない」と述べ、その背景について業界の先輩である東京天竜の東代表に説明を求めた。
東代表は、働き方改革の影響や労働時間の制約について、「長時間働いてもらうことができなくなっている。国会で審議されているようにパート従業員の税金や社会保障などの“壁”も労働時間の確保を難しくしている」。
「どの会社も社員に長く安定して働いてもらえる環境づくりを進めているが、こうした制度のあり方を国の方で検討してほしい。また、我々給食業界の方からも各省にはたらきかけて、何かしらのバックアップや新しい制度設計に向けて発信したい。双方で取り組むことでより良い職場環境が作れるのではないか」と述べた。
新たな人材確保については、「各種専門学校や短大、大学などに足を運んでいるが、調理師・栄養士の専門学校は定員割れのところもあり、新しい労働力の確保が難しくなってきている」と窮状を説明した。
その打開策としては「業界をあげて、給食が魅力ある仕事であることを伝えたい」と述べ、数年前、テレビで美容師のドラマが放映されたことをきっかけに美容師の専門学校に人が集まったことを例にあげ、「メディアでの取り扱いが増えることで業界が活性化していければ」と期待をかけた。
大髙代表と同い年の日米クックの米谷代表は、東代表の意見に賛同し、「SNSの活用や知名度のある個人・団体とのコラボレーションをするのも面白い。業界の知名度が上がると、そこで働く人のモチベーションアップや新たに働きたい方も増えて、良い循環が生まれると思う」と語った。
続いて、関西の事業環境について米谷代表は次のように話した。「食材費の高騰も業界の難しい問題になっている。特に、コメ価は昨年の同時期に比べて2倍ほどになっており、当社も頭を抱えている。主菜・副菜の使用食材が値上がりしても、栄養士さんの努力である程度吸収できる部分はあるが、主食のお米は工夫が限られ、厳しい。必要に応じてお客様に値上げのお願いをしなくてはいけない状況だ」。
さらに、人手不足や物価高騰よりも深刻な問題として“やりがいの喪失”を挙げた。「社員・従業員はこの厳しい状況下で仕事をしていただいていることから、給食の仕事の使命感や楽しさ、やりがいを感じられにくくなっている」。
「給食事業は、人が生まれてから亡くなるまで人の一生に関わり貢献する仕事だ。世界保健機関(WHO)では、心と身体と社会の3つが健康で、初めて人は健康であるとしている。この3つの健康のすべてに貢献できるのが給食の仕事だ。社員・従業員に本来のやりがいを感じてもらえるよう現状の問題を解消するとともに、給食の未来は明るく、ワクワクすることを発信していく必要があると感じている」。
これを受けて大髙代表は、「人手不足が厳しいが、多様な人材活躍が給食業界の魅力でありチャンスだ」と語る。
給食業界は若い人材だけでなく、高齢者や外国人材の活躍も増えている。大髙代表のメリックスの役職者の割合は、男性48%、女性52%と女性の方が多く、事業所のパート従業員を含めると半数以上が女性で、女性活躍が進んだ企業といえる。また、従業員の最高齢は77歳。年齢問わず貴重な戦力が多いことから社内に功労者を表彰する制度もある。
その一方、大髙代表は「ここ数年増えているのがM&Aだ」とする。
人手不足や物価高騰が進む中、中小企業ではなかなかコストの吸収ができず人材を集める財力もないと思われているのか、M&Aのオファーレターの数が増えているという。大髙代表は、「では、打つ手がないのかというと、そんなことはない。中小のオーナー企業だから打てる手が人材確保にも顧客対応にもある。採用や事業運営にその会社独自のブランド力が試され、そこに中小企業の可能性がある」と述べた。
また、「社員や顧客に、より丁寧なカスタムメイドな対応をすることが中小企業のアトツギのサバイバル方法だ。目の前の方々に真摯に向き合うことが給食の持続可能性と会社の発展につながることを、社員が活躍する姿から学んでいる」と話した。
最後に、米谷代表は給食の可能性について問われ、「この業界のすばらしい点は、次の世代を業界全体として育てていく環境があることだ。会社を良くするだけでなく業界を良くしたいと、みんな考えている」と話した。
業界が一丸となって取り組めば、給食のイメージを変え、未来の可能性を広げられる。米谷代表は「その実現に向けて努力を続けたい」と語った。