関西外食企業の取り組み 大手が老舗店を継承

ここ数年、外食企業では「ちいさなM&A」とでもいうべき事業継承が展開されている。後継者不足など、さまざまな事情から事業継続が難しくなった老舗店の事業を、看板はそのままに大手外食チェーンが継承している。味や店の雰囲気はそのままに、労務環境を整えたり、現場の職人から技術を受け継いだり、双方にシナジー効果が生まれている例もある。関西外食企業の取り組みを聞いた。

和食・寿司業態を中心に事業展開するがんこフードサービスは2002年に「にし家」の事業を継承した。同店は「うどんちり」を看板メニューに昭和32年に創業、大阪らしいだしが特徴で、「そばしゃぶ」を提供する「浪花そば」とともに市内で7店舗を展開している。そのほか、14年には法善寺横丁の料亭「正弁丹吾亭」の事業を引き継いだ。創業120年を超え、織田作之助「夫婦善哉」にも登場する名店だが、後継者がなく、存続方法を模索する中で同社への事業継承が浮上した。

「まいどおおきに食堂」などを展開するフジオフードシステムは13年に大阪府堺市の大衆食堂「銀シャリ屋ゲコ亭」の事業を継承した。“メシ炊き仙人”の異名をとる店主の村嶋孟氏は当時82歳、同社の藤尾政弘社長の「食に対する思い」に共感し、事業運営を任せるに至った。同社社員が店舗に入り、“仙人”村嶋氏から炊飯の技術を学ぶなど、老舗の味の継承に取組んだ。16年には「はらドーナッツ」の運営を継承した。防腐剤や保存料を使用しない「手作りの素朴な味わい」のあるドーナツが特徴で、健康志向にもマッチしている。同社は「ハニーミツバチ珈琲」「ホノルルコーヒー」といったカフェ・スイーツ部門の展開もあり、同部門のひとつの柱として期待されている。継承後は関東・関西・中国地方などで5店舗を新規オープンしている。

手打ちうどん「杵屋」などを展開するグルメ杵屋はこのほど、東京のそば店「銀座田中屋」の事業を継承した。昭和43年創業の同店は都内で3店舗を展開、手打ちそばの専門店だ。椋本充士社長は「当社のそば業態の中で高価格帯ゾーンに位置する。調理場にはそば打ちの職人がおり、習慣化した長時間労働の是正などにも取り組んでいる」と語り、味や製法などはそのままに、労務環境の整備にも取り組む。将来的には新規出店も視野に入れ、シナジーが生まれるよう取組んでいく。

最新では「CHEEsE CRAFT WORKs」などを展開するLIFE styleが大阪・新世界の喫茶店「千成屋珈琲」の運営を引き継いだ。大阪名物といわれる「ミックスジュース」の起源とされる店で、ダッチ・コーヒーやミルクセーキ、厚焼き玉子サンドといった純喫茶メニューが充実している。閉店の情報を知ったPR会社の経営者が同社とのタイアップを提案、存続することになった。

個人店を取り巻く環境は厳しさを増しているが、閉店してしまうには惜しい店も多い。大手外食チェーンが愛とリスペクトをもってこういった個人店の事業を継承していく動きは消費者にとっても価値が高く、市場の活性化に一役買っていると言えるだろう。